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ロック停滞の時代を突き破る本能の歪みサウンド
1990年代のUSオルタナやマッドチェスター、2000年代のガレージロックの影響を現代的に昇華した、衝動的で爆発力のあるギターロック・サウンドを展開しているw.o.d.が、4thアルバム『感情』を完成させた。アナログ・テープを用いて一発録りで録音されたという本作は、ロック・バンド復権の期待を背負う彼らのさまざまな息づかいが克明に記録され、理屈抜きに“カッコいい!”と快哉を叫びたいロック本来の魅力が詰まりつつ、そのポテンシャルの高さを証明した作品だ。強烈な歪みサウンドでソリッドにボトムを支えるベーシストのKen Mackayはいたって自然体で音楽/ベースと向き合い、感覚最優先を信条としている。w.o.d.としての新機軸にも挑戦し、今後のスタイルの広がりも予感しているという彼に、現在の心境を聞いた。
“これ聴いて”って言われていたんですけど、
そういうのをけっこう無視するタイプなんで(笑)。
━━『感情』は4枚目のアルバムとなりますが、これまでの3作を振り返ると?
3枚とも同じプロデューサー、ヨシオカトシカズさんというザ・ストロークスとかをやっていた人と一緒に作ったんですけど、1枚目(『webbing off duckling』2018年)はとにかく必死でしたね。上京して“音楽を仕事にする”というタイミングだったのもあるし、ベーシスト的には、それまで指弾きだったのをピック弾きに変えたんですよ。ベースは中学生くらいからやっていて、上京したのが21歳くらいなんですけど、トシさんと出会って、“指とピックのどちらがバンドに合うと思う?”って聞かれたんです。それでバンドの音とかを聴いていると、“ピックのほうが合いますね”っていう話になって。それが1枚目のプリプロを始めたくらいのときで、1枚目には昔からやっている既存曲も入っているんですけど、要は指弾きでずっとやってきた曲をピック弾きでレコーディングすることになったんですね。ピックにも慣れていないし、トシさんはわりと体育会系のプロデューサーで、プリプロをやって、トシさんと2、3時間飲みに行ったあとで、“スタジオ戻るぞ!”って言われて、ふたりでひたすらダウン・ピッキングの練習をしたり(笑)。
━━ストイックですね(笑)。
2枚目(『1994』2019年)は、ピック弾きには慣れてきたけど、まだわかんないなって感じだったのと、ドラマーが(中島)元良に代わったので、やっぱり必死で(笑)。3枚目の前作(『LIFE IS TOO LONG』2021年)で、やっとw.o.d.の土台ができあがってきた感が出てきましたね。w.o.d.はずっとレコーディングを一発録りでやっているんですけど、3枚目に入っている「楽園」のときに、“これやな!”ってメンバーも納得するようなテイクが録れて。それでやっとw.o.d.のアイデンティティができあがった感じはありました。
━━では、前作でひとつの形ができて、それをどう発展させようかなっていうのが今作?
そうですね。「楽園」を経て、自然とセルフ・プロデュースでやりたいねっていうことになりました。プロデューサーがいるということは、いい意味でも悪い意味でも舵を取られるんですけど、セルフになると試したいことは全部試せるし、みんなが納得するアレンジを何回もスタジオで試して、“これだね!”ってなったものをとことんできるようになったことは大きいかな。ただ、そうやってノビノビとやれるようにはなったけど、これまでの3枚をストイックにやってきたぶん、それもちゃんと残したいなと思っていたので、ムチを入れながらはやりましたね。“今このタイミングで、トシさんやったらどう言うかな?”、“「甘えるな。ダウン・ピッキングでやれ」って言うやろうな”とか、トシさんの顔がちらつきながら制作していました。
━━まさに血肉になっている感じですね。
そうそう、だから、トシさんと一緒にやれたのはすごくありがたいです。
━━w.o.d.の曲作りは、サイトウ(タクヤ/vo,g)さんが元のアイディアを持ってくることが多いんですか?
ゼロイチはサイトウさんが多いかな。3枚目までは、3人でセッションして作った曲もけっこうあったりするんですけど、今回の作品はサイトウさんがデモを持ってきて、メンバー3人とディレクターでスタジオに入って作ることが多かった。「Dodamba」は俺と元良のふたりで作った曲ですね。
━━「Dodamba」はベースが2本入っているんですか?
いや、録音したのは1本なんですよ。それをステレオで鳴らしているのかな。今回はGOK SOUNDで録ったんですけど、ミックスはエンジニアの近藤(祥昭)さんにお任せしていて。「Dodamba」はミックスでけっこう変わった曲ですね。この曲はもともと、ジャック・ホワイトの『Fear Of The Dawn』が出た次の日に元良とふたりでスタジオに入って、“あの新譜ヤバかったね”っていう話が出て、そういう曲を作りたいねっていうところから始まりました。ジャック・ホワイト感を出したいなって。
━━ベースは強烈なファズ・サウンドですね。
今回のレコーディングでは自分の機材じゃなくてスタジオのものを借りたんですけど、アンプはアンペグのSVTだったと思います。その音がけっこうスゴくて。この曲もそうなんですけど、今回はエフェクターを通していないアンプ直の音も多いんですよ。
━━ベース・プレイではチョーキングでシンベのようなポルタメントっぽいアプローチも入っていますか?
入れていますね。「イカロス」とかもそうだし、今回、けっこう多用しています。UKのアイドルズってバンドのベーシストが、実際にそれをやっているかはわからないですけど、こういう感じのベース・ラインを弾いていて。それがカッケェなと思って使うようになったんです。
━━今、名前が出た「イカロス」は、Aメロ~Bメロは直線的なルート弾きの突進力でダウン・ピッキング。逆にサビはオルタネイトで、意図的にグルーヴ感を変えていますよね?
そうですね。サビで意識したのはプライマル・スクリームのマニ的なベース・ライン。そういうのが欲しいってサイトウさんに言われたんですけど、これまで、俺自身はあまりプライマル・スクリームを聴いてこなくて。たしか3枚目くらいのタイミングで、サイトウさんに“これ聴いて”って言われていたんですけど、俺はそういうのをけっこう無視するタイプなんで(笑)。
━━いや、聴きましょうよ(笑)。
なんか、自分のなかでタイミングってあるじゃないですか(笑)。「イカロス」のタイミングではプライマルも聴くようになって、“マニ的なベース・ライン”って言われて作ったのが、あの下がっていくようなリフだったんです。