プランのご案内
  • PLAYER

    UP

    INTERVIEW – 日向秀和[Nothing’s Carved In Stone]

    • Interview:Koji Kano

    “5弦”という新境地が示す
    ベース・ヒーローが見据える未来

    Nothing’s Carved In Stoneの新作『BRIGHTNESS』には、5弦ベースという新境地を開拓した稀代のベース・ヒーロー、“ひなっち”こと日向秀和の最新モードが収録されている。年齢/キャリアともに熟成されたこのタイミングでなぜ5弦ベースなのか?━━ その答えは、各曲で披露されている日向のプレイを聴けば自ずと答えが出るはずだ。“今後ナッシングスでは5弦をメインにしていく”と宣言する眼差しの先に在るものは、ベーシストとしてのネクスト・ステージ。ロック・ベースの可能性を推し進め、ベース・シーンを牽引してきた立役者はまだまだ進化を止めずに高みを目指し続ける。5弦ベース導入の経緯、そして今作での名演についてたっぷりと語ってもらった。

    まぁ、裏切っちゃったかなって気持ちもありますよ(笑)。

    ━━今作『BRIGHTNESS』ですが、揺るぎない“ナッシングスらしさ”のなかに、これまでにはなかったような重厚感やヘヴィ感を感じる一枚でした。まずバンドとしてはどういうモードで制作に向き合ったんですか?

     今作は曲ごとの細かいアレンジにとにかく時間を費やしましたね。作品全体の見え方というより、曲単位で細かいアプローチを熟考しながらそれぞれプレイしていったというか。5弦ベースを本格的に導入したこともあって、おっしゃってくれたような“ヘヴィネス”も生まれたけど、ポップなイメージの一枚に仕上がったとも思っていて。重厚なサウンドのなかに、自分たちなりのポップさをプレイで反映させていくって落とし込みを各曲で試していった感じかな。

    ━━今作は2年半ぶりのフィジカル作品となったわけですが、この間にはライヴ活動を休止していた期間もありました。ひなっちさんにとって、休止期間はどのようなものだったと振り返りますか?

     個人的にその期間はインプットに振り切っちゃっていたんだけど、それが良かったのかなと思っていて。年イチで作品を出すってスタイルでずっとやってきたわけだけど、休んだことでバンドのことを客観視する期間にもなったし、ソングライティングにもゆっくりと向き合えた。ナッシングスとはまた違う方面で音楽的に考えられた良い期間だったと思います。あといろいろなセッションをやっていくなかで、自分のプレイヤー像をどんどん構築できた時間でもありましたね。

    ━━“プレイヤー像の構築”というと?

     ジャズ、ヒップホップ、ロックっぽいもの……ジャンルレスにいろいろなセッションをたくさんやったんですよ。たくさんのプレイヤーとセッションをするなかで、自分のプレイに改めて向き合うことができたし、だからこそ“自分はこういうプレイヤーなんだな”って再認識することができた。それが今作のプレイにもつながっていると思います。

    『BRIGHTNESS』(通常盤)
    ワーナー/WPCL-13557

    ━━今作のベース的トピックとしては、先ほども挙がった5弦ベースの本格導入で、これがサウンドの重厚感に大きく関係していると思いますが、“ひなっちが5弦を弾いてる!”と驚いたファンも多いと思います。ひなっちさんは“4弦の砦”みたいなところがありましたから(笑)。

     ファンさんたちもちょっとザワついちゃてる感じですよね。まぁ、裏切っちゃったかなって気持ちもありますよ(笑)。この場を借りてごめんなさいって言わせていただきます(笑)。4弦を使っていた頃は変則チューニングでローを出していましたけど、5弦にするとまぁ楽ですね。でも僕の場合、4弦より下のルートを鳴らすためじゃなくて、運指の過程でローB弦の音を鳴らしたくて5弦ベースを導入したって感じ。いち音だけ下の音を入れるっていう、“フレーズとしてのロー感”がキモなんですよ。

    ━━ヘヴィネスのためではなく、より多彩な音使いを演出するための手段ということですかね?

     そういうこと。ようはジャズとかR&Bへのアプローチですよね。だから僕のなかではヘヴィネスに寄ったってことではないんです。僕の場合はあくまでも4弦の音域を主音にしつつ、その経過的なところでローB弦の音を混ぜ込んでいくイメージ。やっぱり4弦と5弦じゃ弾いた感じもまったく別モノの楽器ですしね。ここ一年くらいは5弦の修行をずっと続けていて、やっと自分が思い描くようなプレイができるようになってきました。ソング・ライティングとか曲のアレンジに5弦ベースを使うことをずっと模索してきましたけど、今作ではうまくマッチしたかなと思います。

    ━━5弦ベースを使うことに対して、バンド・メンバーからのリアクションはどうでした?

     特に何も話はしなかったですね。みんな“5弦で弾くんだー”くらいのリアクションでした(笑)。でも5弦ベースだからといってローに寄り過ぎちゃうのも良くないと思っていて、ナッシングスでは下がってもCまでかなと思っています。今作だと「Freedom」のサビアタマがCなんですけど、いきなりローB弦のCを使うんじゃくて、あくまでも入りは3弦の3フレットから。そこからローB弦に持っていくみたいな、5弦ベースならではの試みもできました。

    ━━「Freedom」はナッシングスらしい疾走感溢れるアンサンブルの一曲ですが、1番Aメロやサビでは特にローB弦を中心とした音使いでラインが構成されていますよね?

     そう。まずAメロはEなんですけど、このEからグリスでローB弦のDに下っていけるのが気持ち良くて。そういうところでヘヴィネスを表現できたと思うし、ベース・ラインをわかりやすくウネらせることができましたね。僕の使っている5弦のレイクランド(SL55-94)が最強なんですよ。ミドルのウネリがどこまでも付いて来てくれるので、めちゃくちゃグルーヴをエンジョイできるんです。

    「Freedom」Music Video

    ━━2番以降はまさに“ひなっち節”が炸裂していて、中〜高音域を中心とした16分のショート・リフで構成された、指板を縦に広く使ったプレイで展開されています。こういったメリハリを作れるのも5弦を導入した利点だと思います。

     上に行ってもすぐ下に戻ってこれるというか、5弦ベースだとより縦の移動ができるから安心感がありますよね。だからハイポジであっても縦の動きが見せやすくなるし、それをフレーズで構築していくっていう楽しさは発見でした。でも4弦ベース特有の“精一杯な感じ”も好きなので、良し悪しだと思うけど、“大人のグルーヴ”を作るには5弦の振り幅が合うなって思ったし、やっぱり気持ち的にもフレーズ的にも余裕が生まれますよね。

    ━━2番Aメロとアウトロにはスラップのセクションがありますが、2番Aメロは高音弦、アウトロはローB弦を中心としたフレーズ構成になっていて、この違いはおもしろいと思いました。こういうプレイを見せられると、“ひなっちの引き出しはこれからどれだけ広がっていくんだろう”ってワクワクしちゃいます。

     それは期待してもらって全然構わないというか、これからどんどんやっていきますので楽しみにしていてください。でもひと言、5弦を持ってしまってごめんなさいって改めて言っておきます(笑)。スラップで言うと、やっぱりDの感触だよね。5弦3フレットの可能性というか、今まではドロップしないとそこにアクセスできないフラストレーションがあったけど、5弦ならいつでもそこを通過できるから、フレージングの可能性が広がった感じはありますね。ローB弦を使ったスラップは始めてやりましたけど、やっぱりマッチョな感触になりましたね。

    ▼ 次ページ:5弦モデルの詳細とPJタイプの汎用性 ▼