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MISA(BAND-MAID)が語るEP『SCOOOOOP』| “2拍4拍の意識”が変えたバンドのグルーヴと現在地
- 取材:伊藤大輔
- 撮影 : 伊東実咲
メイド姿とハードなロック・サウンドで世界的な人気を得るガールズ・バンド=BAND-MAID。前作であるアルバム『Epic Narratives』より約1年という短いスパンで届けられた最新EP『SCOOOOOP』はアグレッシブなバンド・サウンドながらにキャッチーな要素を併せ持ち、BAND-MAIDらしさに溢れた作品となっている。ベーシストのMISAもトレード・マークとも言えるスライドを駆使し、ハードなサウンドを押し上げるような圧巻の演奏を聴かせる。ベーシストとして急成長を続けるMISAに、本作で聴ける演奏について詳しく聞いた。
2拍目と4拍目でちゃんと落とす練習をしていて、やっとその感覚がライヴでも出せるようになってきたんです。
——前作『Epic Narratives』から約1年が経ってのリリースですね。
新作『SCOOOOOP』の制作は前作『Epic Narratives』を作り終える頃からすでに始まっていました。アコースティック・ライヴもやったし、あとツアーをあって、メンバー全員が成長した期間だったと思います。
——MISAさん自身はどんなところに成長を感じますか?
そうですね。例えば、新作の「SUPER SUNSHINE」のベースは2年くらい前に録っていて、それを改めて聴き返したときに“ちょっと気に入らないな”って思って録り直したりしました。そういうのも成長したからなのかなと思います。

——具体的にどういうところが気に入らなかったのですか?
グルーヴ感ですね。今、メンバーのなかでバックビート……2拍目と4拍目でちゃんと落とす練習をしていて、やっとその感覚がライヴでも出せるようになってきたんです。それもあって、今の感覚で昔の演奏を聴くと違和感があるというか、あまりドラムに合っていないなって思います。
——バックビートを感じる練習は、具体的にはどんなことをしたのですか?
メンバー各々がクリックでの練習をしました。テンポを半分に落としてウラを感じる練習をしたり……最初の1~2年はうまくいかずに苦しみました。2拍・4拍を意識するだけでは、それが音に表われなかったんです。それでもコツコツと続けていくことで納得できる演奏ができるようになりました。
——BAND-MAIDは速いテンポの楽曲も多いですが、そのなかでのバック・ビートっていうと、どんな意識なのでしょうか?
ドラムが叩く2拍と4拍のスネアに合わせる意識ですね。もちろんベースだけじゃなくてギターもです。これをやることでこんなに演奏が変わるんだって驚きました。何て言うんだろう……演奏がわかりやすくなりましたね。みんなが同じグルーヴ感になったから一体感も出てきたと思います。

今となっては私、“波形フェチ”で、きれいな波形で録れると納得できるんですよ。
——前作では鍵盤でベース・ラインを作っていたとおっしゃっていましたが、今回はどうでしたか?
今作は基本はベースを弾きながら作っていて、アレンジに迷ったときに鍵盤を使う感じでした。引き続き、できるだけ手クセからは離れたいという意識はありますね(笑)。
——今作もベースのレコーディングは自宅でDAWを使って録ったのですか?
はい。「Zen」だけはスタジオで、あとの曲はすべて家で録りました。
——コロナ以降、宅録はスタンダードになりましたが、それでもスタジオで録るのとはだいぶ違いますよね。
そうですね、最初の頃は自分で録ることに慣れていなかったから、どうしたらいいのかもわかりませんでした。KANAMI(g)が宅録に精通していたから、録ったデータを彼女に送って意見をもらっていました。そうすると“ここにノイズが乗ってるね“とか、”ここはピッチが曖昧だよ”って指摘されても、自分が録ったときにはそれに気づいてもいなくて。
——レコーディングできれいな音を鳴らすためのミュートや発音の技術は、演奏の基礎力にもつながりますね。
難しいですよね。さっき話したクリック練習もそうですけど、自分で録ることが一番成長につながっているかもしれません。やっぱり録ったものを聴き返すことで自分のクセも分かるし、ここがちゃんと鳴らせていないっていうのも分かるようになって、対処もできるようになりました。
——ベースの録音はどんな感じで録っていますか?
1、2小節づつフレーズごとに録って、納得がいったら次のフレーズって感じで録っていきます。
——けっこう細かく分けて録るんですね。
そうですね。今となっては私、“波形フェチ”で、きれいな波形で録れると納得できるんですよ。私はすごく集中して弾くから長く演奏すると途中で雑になっちゃうから、細かく録るやり方が合うんです。あと、録る時に自分でモニターする音はEQで高域を上げていますね。そうすると力んだときに音ですぐ分かります。
聴いてくれる人が覚えやすいベース・ラインがいいなと思って弾いています。
——「Present Perfect」はスライドを多用したMISAさんらしい演奏でした。
アルバムのリード曲なので今のBAND-MAIDらしさが分かりやすく伝わるよう、私も自分らしさを出したいなって思いました。それでスケール感が伝わるようにスライドを入れまくって弾きました。
——スライドはMISAさんのトレード・マークという感じもします。
スライドを多用するようになったのは細い弦にいくのが嫌で、太い弦のまま弾いたほうが低音が乗るかなと思ったからなんです。そうしたらいつのまにか、こんなにもスライドを多用するようになりました。
——スライドのニュアンスがスピーディになった感じもしました、到達点に届くのが前よりも少し早くなったというか。
それ、KANAMIからも言われましたね。“MISAはスライドが少し遅れるクセがあるね”って指摘されて初めて気がついて。それは意識していたから変わったのかもしれません。
——「Ready to Rock」はサビでの裏メロっぽいフレーズが印象的でした。
私のベースはよく“裏メロ”って言われます。サビのバックは確かに意識的にフレーズを動かしていますが、自分としては聴いてくれる人が覚えやすいベース・ラインがいいなと思って弾いています。以前はもっと音数を詰め込んでいたけど、そうすると覚えにくくなるから引き算をして、今の感じになりました。
——録り直したという「SUPER SUNSHINE」では、ベース・ソロもありました。弾きすぎない感じがカッコ良かったです。
ベース・ソロはライヴを意識して作りました。この尺のなかでソロを弾くならと思って、和音やスラップなどいろんな要素を入れました。でも、細かいことをし過ぎないようにしましたね。
——「SION」のようなバラードはどんな意識で弾きましたか?
デモを聴いたときに切なさと暖かさを感じたので、暖かみを出したくて指で弾きました。最後だけピックに切り替えて“光が差す”感じを演出しています。指弾きになると左手のニュアンスも変わりますね。ゆったりしているけど16分を感じながら弾きました。

——「Dilly-Dally」は攻撃的なサウンドで、ベースのソロもありました。
スラップのところはミックスの段階で少し歪みを足しました。ソロはKANAMIから“ループする感じにしてほしい”ってリクエストがあって。ループっていうことは打ち込みっぽいのかな? ということは、ちょっと無機質な感じがいいのかなと、思い始めたらけっこう迷いました。1小節ごとにスラップとピックと奏法が変わっていきますが、DAW上で波形をいろいろと組み替えて試して、良い感じに収まったものを採用しました。
——1小節ごとに変わるんですか。それは大変ですね。
でも私、ピック弾きとスラップのチェンジが得意なんですよ。でも、ここまで速く変わるのは初めてです。難しいけど、頑張ります。この曲はライヴの見応えがあると思いますよ(笑)。
——「Lock and Load」はインストの楽曲でしたね。2回し目はベースがスラップをしたりアルペジオを弾いたりと主役感もあり、聴き応えがありました。
ベースのフレーズはギターを聴きながら作っていて、出るところは出るっていう意識でした。アルペジオのフレーズはキーボードで作っています。例によって、この曲も細かく分けて録ったけど、通して弾くとすごく難しいですね。今回は全部青いPJ(Black SmokerのTM BETA-JMB5 MISA)で録ったんですけど、この曲だけロング・スケールのモデルを試しに使っています。いつものPJベースだとハイ・フレットにいったときがめちゃくちゃ難しいです。あと、ヴォーカルのSAIKIがキーボードとして参加していて、初めてのメンバー全員でのインストになりました。
今はグルーヴ感も出せるようになってきたから、以前とは難しさの質も変わってきたと思います。

——ちなみにベースを録る段階では、完全にラインでエフェクターなどもかけないですか?
そうですね。あとからリアンプするときにエフェクトもかけます。基本的にダークグラスのMicrotubes B7K Ultraで歪ませていますが、家で録った後にDAWでダークグラスのプラグインを使って擬似的に歪ませてみて、ウネる位置とかはチェックしていますね。その感じで聴いて微妙だったら録り直したりもしています。
——リアンプではどんな機材を使っていますか?
アンプはスタジオにあるアンペグのSVT Classicと410タイプのキャビネットを組み合わせて鳴らしています。
——エフェクターは何を使いましたか?
基本的な歪みがさっき言ったB7Kで、「Lock and Load」だけいつもと違うベースだったので、エレクトロ・ハーモニックスのBass Soul Foodで歪みを足しました。あとは少しハイを足したいなと思ったときはFREE THE TONE PA10B(EQ)も使いました。ベースの音はラインとダークグラスの歪み、あとはリアンプした音の3回線をミックスしています。
——今作のベースは太さのある音でしたね。
私もそう思いますね。でも太さを意識したわけではなく、リアンプしてミックスするまでどうなるか分からないです。ただ、ベースは同じ楽器を使ったし、何て言うか、音が決まってきた印象はありますね。
——今作の演奏は迷いがないというか、一貫してMISAさんらしさを感じるプレイでした。
今の自分をしっかり出せたと思います。自分たちもいろんなことを経て、成長をしてきていて。それを塊として出せたかなとは思います。あとはまっすぐに自分を出せた印象もあります。
——ニュー・アルバムのなかでMISAさんのオススメの曲は?
「Dilly-Dally」と「Lock and Load」かな。弾いてみて、私の大変さを知ってほしいです(笑)。やりがいはあると思いますよ。あと、「Present Perfect」もスライドが激しいから、同じノリを出すのは難しいと思います。
——挑戦状的な感じでおもしろいですね(笑)。でも、MISAさんの演奏をコピーするのかなり難しいと思います。
何だか違う難しさになってきましたね。前はただ忙しいっていう難しさだったけど、今はグルーヴ感も出せるようになってきたから、以前とは難しさの質も変わってきたと思います。
——今後の展望は?
ベースとは違う部分ですけど、今は作曲を頑張っています。SAIKIからも“リフの曲が欲しい”ってリクエストがあって、リフの曲としっとりした曲を作っています。まだデモの段階ですけど、曲作りってすごく楽しいですね。DAWでいろんな音色を選んだり、あとはコードのことを知ろうと思って、最近はギターも弾いてます。そういうことが今はすごく楽しいです。

ポニーキャニオン/PCCA-06427
通常盤
▼ 機材紹介記事に続く ▼
※近日公開!
◎AKi  Profile
MISA(みさ)●10月15日生まれ。幼少期からビートルズやジミ・ヘンドリックスの音楽に触れ、のちにスマッシング・パンプキンズやジェリー・フィッシュを愛好するようになる。AKANE(d)に誘われ、2013年にBAND-MAID結成に参画。以降、力強いベース・プレイでバンドの屋台骨を支えている。2024年9月リリースのフル・アルバム『Epic Narratives』から1年ぶりとなる新作、EP『SCOOOOOP』を10月22日にリリースした。大のお酒好きとしても知られる。全国ツアー“BAND-MAID TOUR 2025”のファイナル・ラウンドは、10月24日の大阪・なんばHatchを皮切りに、11月1日の川崎・CLUB CITTA’、12月7日の東京ガーデンシアターで開催される。
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