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INTERVIEW – タイラー・ハイド[ブラック・カントリー・ニュー・ロード]
- Question:Shutaro Tsujimoto
- Translation:Tommy Morley
- Live Photo:Mark Allan
- Artist Photo:Rosie Foster
クラシック・ギターとベースの両者を
うまく組み合わせるポイントを探している。
──今作で一番気に入っている曲を選ぶとすると、どれになりますか?
先行シングルになった「Bread Song」を特に気に入っているかな。私たちにしては短めで、ふたつのコーラスをヴァースでつないでいるという構成の曲で。最初と次のコーラスではバンドのサウンドがまったく別物になっていて、最初は小さなオーケストラのようだけど途中から弦楽器が荘厳な感じで入ってくる。2回目のコーラスではフォーキーなインディ・バンドのようになっていて、この振れ幅が私たちらしさを良い具合に表現していると思うの。それと、「The Place Where He Inserted the Blade」も気に入ってる。この曲の終わり際に入ってくるバッキング・ヴォーカルは、私たちがアルバム制作に入る前に観た、アーケード・ファイアが2005年にフランスのロック・アン・セーヌというフェスに出たときの演奏にインスパイアされていて。かなり情熱的でエキサイティングなパフォーマンスで、あの親密さや一体感のある感じを出したかったんだ。
──「The Place Where He Inserted the Blade」はベース・ラインもメロディアスで素晴らしいと思いました。
「The Place Where He Inserted the Blade」のベース・プレイは今回のアルバムでも一番のお気に入りかな。コーラスに行く直前のパートを60年代っぽい感じでプレイしていたら、エンジニアに“ビーチ・ボーイズっぽくていいね!”と言われて。私も嬉しくなって、全体的にディレイを加えて彼らっぽいサウンドにさせたのよ。
──今作ではどんなベースを使用したのでしょう?
レコーディングはスクワイアのプレシジョン・ベースで行なっていて、これは80年代の日本製のもの。16歳のときに手に入れた私の最初のベースで、最近までこの1本しか持ってなかった。だから、このベースでは本当にたくさんのことを経験してきたんだよね。
──ちなみに最近手に入れたのはどんなベースなんですか?
Fidelity GuitarsというメーカーのThundermaker Bassを手に入れて、とても気に入ってプレイしている。私は2020年に脛骨を骨折してしまってそこから腰に痛みを抱えるようになり、ショート・スケールの軽いベースを探していたの。そんなときに知り合ったFidelity Guitarsのビルダーのマットが、私たちがバンドを結成したケンブリッジ出身の人で。そのつながりを大切にしたいと思ったし、ヘッド裏に“Made in Cambridge”と書いてあるのも気に入ってね。サイズは想像したほどは小さくならなかったけど、クラシック・ギターをプレイしてきた私にとってはシックリくるところがあって。それでもやっぱり、プレシジョン・ベースの独特な温かみには愛着があるので、離れることはできないと思うけどね。
──もともとはクラシック・ギターをプレイしていたんですね。BC,NRには音楽教育を受けてきたメンバーも多いと思うのですが、タイラーさんはどのように楽器や作曲を学んできたのでしょう?
ベースを始めたのは、16歳の頃に友達からバンドを組んでみないかと誘われたのがきっかけだった。それ以前からクラシック・ギターをプレイしていたのと、あとフラメンコ・ギターも少しだけやっていたから、それらは私のバックグラウンドになっていると思う。ベースは基本的には独学で、たくさんの人たちとプレイしながら身につけていった感じね。クラシック・ギターをやっていた幼い頃に理論を学んだことで譜面が読めているけど、それは私の音楽背景の半分に過ぎなくて、残りはセッションとか友人たちとの音楽的な対話のなかで培ってきた。理論的な知識はひとりで作業するときは大きな助けになるけれど、私は孤独に作業することを目指しているわけじゃない。独学で学んだ人たちと音楽的な学校でプロフェッショナルな知識を学んだ人たちが半々で混ざったグループにいることはとても幸運で、私はその両者の中間にいると感じている。
──ベーシストとしてのアイデンティティについても聞きたいと思います。BC,NRのベース・サウンドを語るうえでプレシジョン・ベースは欠かせないと思いますが、そのほかにあなたが大事にしているプレイ・スタイルや機材などはありますか?
年々やってきて、いろいろと進化してきていると思う。プレシジョン・ベースはシンプルで生々しい楽器だからこその温かみがあるし、メロウなサウンドやソフトなサウンドも出せる楽器よね。私は音のテクスチャーがビジーなバンドでプレイしてきたから、低音の効いたカオスなものから突き刺さるようなサウンドまでを出せて、誰の邪魔をすることなくさまざまな楽器をつなぎ合わせるような役割を担いたいと思ってきた。でも最近はメロウなプレイをするよりも、どちらかというとギタリストみたいなプレイを目指していて。私はクラシック・ギターとベースの両方の道を歩んできたので、両者をうまく組み合わせるポイントを今でもまだ探している感じというかね。ピックや指で弾くにしても、そのアタック感や使い分けをまだ学んでいる途中なの。あと、エフェクターはDamnation Audioのペダルを使っているだけで、これは今まで試してきたなかで最高のベース・ファズ(編注:正確には、ベース用ディストーション)。トーンのデプスが自在にコントロールできて、ディストーションによってローが失われることに困っていた私の解決策となってくれた。でも、これでもまだ自分のサウンドが固まったわけではないし、これからも探し続けていくつもり。