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自分の名に恥じぬように
カッコいいものを作り続ける。
━━「MOON」では雰囲気がガラッと変わって、豊かなウッド・ベースが心地いいですね。
これは僕の父親(編注:ジャズ・ベーシストの河原秀夫)に弾いてもらいました。唯一自分で弾いていない曲です。ベース好きならば、ここでウッドが来たかみたいな感じになりますよね(笑)。父は生まれてこの方ジャズをずっとやっている人間ですから、改めてお願いしたんです。もともとのラインとかは僕が作っておいたんですけれども、レコーディング・スタジオでその場で譜面を渡して、一緒にニュアンスを決めながら作っていきました。
━━レコーディングの際は、どのような要望をしたんですか?
この曲はうっすらとリズムは流れているんですけど、基本的にはピアノとベースのデュオなんですよね。だからこそベースの動きやリズムのニュアンスは、単純に4分で打つだけにしても1個のフレージングというか、場面の循環の仕方がだいぶ違う。そこは父が1打ずつを豊かに鳴らしてくれることを僕は当然知っていたので、そこを信頼してお願いしたんです。途中、ウォーキングのアプローチとか、ゆったりした曲のなかで心が踊るような場面などのニュアンスについては、ふたりで話し合いながらすんなり作れました。後日、ミックスをする前の段階で父に完成品を送ったんですけど、父はすごく嬉しがっていた反面、“めっちゃやり直したいわ”って(笑)。でも、ふたりで一緒にレコーディング・スタジオに入ることって今までなかったんで、やり直すというよりかは、そこで出た良い粗さだったり、雰囲気のようなものを録音したことに意味があるのでは、っていう話をしました。ブレスとかも父のニュアンスで、マイク録りで空間を録音しているんで、息づかいも含めてのベースなのかなって思いますね。特にジャズにおいてはエアーも含めるものなので、ひとつの生々しさを録音できたのはすごく良かったです。
━━ヴォーカルのロング・トーンのあと、ハイ・ポジションでのベース・ラインも魅力的ですね。
自分自身もやっぱベースを弾く身として、ベースにしか出せない色気があると思っているんです。その色気が何なのかと父に具体的に聞くことではないんですけど、同じベーシストとして話せたということと、コンポーザー目線で曲を作ることもあったんで、父と対等に意見を交わしながら作れたのはすごく意味がありました。
━━ところで、ベーシストとコンポーザーを兼ねている河原さんですが、“ベーシストであること”はコンポーザーとしてのご自身にどういう影響を与えていると思いますか?
影響というか、どういう意識の表われがあるかについて考えると、例えばベースはコードの支配権がありながらリズム楽器でもある。そして、ベースでハーモニーを作ることもできるわけで、求められるものの多さというか、ベーシストならではの意識する部分がいっぱいあって、そういう意味で“トータルで音楽を見る”機会がもともと多いと思うんです。トータルで見るからこそ、コード・ワークや全体の音像を聴き分ける能力が培われると思いますね。あとは、ドラマーとのコミュニケーションとか、ビートとの付き合い方に関しても、ベースってその土台としてすごく大事になってくるので、全体感を見るきっかけになりやすいとと思います。だから、それこそ亀田(誠治)さんとかいらっしゃいますけど、プロデューサーでベーシストの方は日本だけじゃなく、海外にも結構多いんだと思いますね。
━━今回のアルバムに使用した機材を教えてください
ベースはSGを使うことが多かったです。あとはフェンダーのエリートっていうシリーズを使っていたりとか、Kalamazoo KB-1に自分でフェンダーのプレシジョンのピックアップを付けたベースを使うこともありましたね。スラップとかはエリートのアクティヴを中心にしたんですけど、おもしろい音色を作りたいなってなったときはSGを使ったりしました。あと「OXY」にはテスコのNB-4を使ったと思います
━━音作りが印象的な楽曲で言うと、「PRISM」の音色は特徴的ですよね。これはどのような音作りをしましたか?
オクターバーだけですね。原音をゼロにした、要はオクターバーの音のみで作った音色です。ボスのOC-2をずっと好きで使っていて、手弾きのベース・シンセみたいな音にはしたいんだけど、フレーズ自体が生きているようなニュアンスにはしたいと思っていたんです。そこで、ベースの原音をなくすことによって、こもる音にはなるんですけど、深いところでなにか蠢いている感じの独特なニュアンスが出せるのであの音色にしましたね。
━━10月から今作のツアーが始まりますが、どういったツアーにしたいと考えていますか?
楽しいツアーにっていうことはもちろんですけど、最近になってバンドと一緒にやることのバリエーション自体が豊かになっていて。例えば自分が基本的にピアノ・ヴォーカルとかでライヴをやることもあるんですけど、自分の立ち回りというか、パフォーマンス自体もより自由にやっていこうと考えているので、“こんなパフォーマンスも意外としちゃうんだ、おもろ”みたいな期待もしていただけたらいいんじゃないかな。ベースもそうですけど、バンド・メンバーも含めて非常に仕上がってきている感じはするんで、その場でしか観られない即興性を見逃さないようにしていただけたらと思います。
━━最後に、今後TENDREとしてどうありたいかを聞かせてください。
自分の名に恥じぬようなカッコいいものを作り続ければいいのかなと思います。そして、それがポップスのフィールドにいるってことがすごく大事だとは思うので、そういった意味で、リスナーの方々がいろんな音楽を好きになるきっかけになれたら、それもいいなと思う。いろんなシーンだったり、いろんな場面をつなぐ“コネクター”みたいな存在というか。サウンド・クリエーションの進化は常にとげていきたいと思っているので、ますます自由に楽しめるような活動ができればと思っています。
━━いちベーシストとしてはどんな姿を想像しますか?
自分の場合、そのときどきでベーシストだったり、ヴォーカリストだったりするので、そこも含めてあまり肩書きに頼りたくないというか、総じて“音楽家”だと思っているんです。場面ごとに“ここはベーシストとしてめちゃくちゃカッコいいところ見せてやりたい”とかレコーディングのときに当然思うんですけど、最近はパフォーマンスとしてステージでベースを弾くことが少なかったので、今の自分だからこそ弾けるベースを近々ステージでまたやれたらいいかなと。それがTENDREのフィールドでやるのが一番意味あるとは思うので、バンドないしひとりのセットでやるときに弾くかもしれません。ベーシストとしてっていうことよりかは表現のひとつとしてそこにベースがあるので、頑張って練習しようと思います。
◎Profile
てんだー●1988年6月15日生まれ、神奈川県横浜市出身。2008年に自身がベース・ヴォーカルを担当するバンドampelを結成し、2015年までに5作品を発表する。2017年からはソロ・プロジェクトTENDREをスタートさせ、ベースに加えギターや鍵盤、サックスなども演奏するマルチ・プレイヤーとして活躍。2021年4月にデジタル・シングル『PIECE』でメジャー・デビュー。そのほかRyohu、sumika、Chara、SIRUPなどのさまざまなアーティストのサポート、共同プロデュースを務める。9月14日に4作目となる『PRISMATICS』をドロップした。
◎Information
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