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“ニッポンの最強リズム体”による
過去と現在を交差させるグルーヴ
キャリア45年を超えても走り続ける日本屈指のベーシスト、伊藤広規が約12年ぶりとなるソロ・アルバム『’s Wonderful』をリリースした。同作は、山下達郎や竹内まりやのサポートをともに務めた盟友の青山純(d)が1980〜90年代に残したドラム音源とのセッションから、2021年の最新レコーディングまでが収録された、バラエティ豊かな音楽的引き出しと変幻自在のグルーヴが聴ける1枚。同作の制作背景に迫ったインタビューは主には4月19日に発売されるベース・マガジン5月号に掲載しているが、ここでは本誌に入りきらなかった内容をお送りしよう。伊藤は今作における青山純とのコラボレーションの話からの流れで、海外の音楽ファンも虜にするシティ・ポップの名曲「プラスティック・ラヴ」(竹内まりや/1984年)のレコーディング時のことについても明かしてくれた。
ドラムとベースだけで楽曲として成り立ったらいいなと。
━━『’s Wonderful』は、制作に入ってからの作業の流れはどのようなものだったんですか?
僕は1990年のちょっと前あたりから、“とりあえず曲をたくさん作りたい”と思ってけっこうな数の曲を録り溜めていたんですね。前のソロ・アルバムでもそこからは入れてるんですけど、まだ出してないものがけっこうあって。なので今回のアルバムはその時代に作ったものと、プラスで新しく作った曲からできているという感じです。
━━過去の録音という意味では、今作では青山純さんが残したドラム・トラックが4曲で使用されているのも、聴きどころですよね。
“出さないのはもったいない”っていうのが何曲かあったので、それを選んでみました。
━━「Unforgettable Future ~ A*I with O」はそのうちの1曲ですが、どのような流れでレコーディングしたのでしょうか?
まったく編集していない状態の青山純のドラム・テイクに、大槻(啓之)くんがギターをつけてくれて、そこにベースをはめ込んだ、という順番です。ドラムのベードラのパターンにそぐって弾いていたら、いい感じになりましたね。
━━そもそもですが、このドラム・トラックはもともと何のために作ったものだったんですか?
当時“ドラムだけのトラック”というのを作っていて、そのなかのひとつですね。ループとかで使おうと、作っていたんだと思います。録ったのは90年代で、2000年になる前あたりかな。
━━この曲はドラム・ソロがあるのもおもしろいです。もともとドラム・トラックから発想したということで、全部がドラム・ソロみたいなものですもんね。
おもしろいですよね(笑)。ふたりでよくセッションとかをしていましたけど、それだけでも何となく曲っぽくなっていくんですよね。そういった感じで、ドラムひとりでも曲っぽくなってるんでしょうね。
━━おふたりのセッションがどんな感じだったのかというのは、すごく気になるところです。
まず発端としては、ドラムとベースだけで楽曲として成り立ったらいいなという目的があったんですよ。そういうものを何か作りたいっていうので、一時期ふたりでハマってやってたんです。
━━リズム体だけで楽曲を成り立たせようと。セッションを始める前には、何かテーマをすり合わせていたんですか?
そのあたりはもう適当に始めて、“あ、できた!”ということが多かったですね。『A*I』(2012年)というふたりだけで演奏したアルバムを聴いてもらえれば、その感じが伝わると思います。
━━その関連だと、今回のアルバムには「A*I Groovy Games”YASAGURE”」という楽曲が収録されていますが、これもそのようなセッションから生まれた曲なのでしょうか?
そうですね。これはかなり初めの頃で、多分まだプレシジョン・ベースを使っていた1981、2年の録音ですね。ちょうど山下達郎のライヴでベース・ソロを弾く場面があって、“さあ困った、ソロが嫌いな俺はどうしよう”みたいになっていたんです(笑)。それで、ひとつのパターンでいろいろ遊んでみようと、練習していたときの音ですね。
━━ドラムとベースのキメがバッチリ合っていて、まさに一心同体と言いますか……。
俺がいたずら好きなんでね。人がやらないだろうみたいなことを弾いていましたね。ジャコ(パストリアス)のフレーズも入ってくるし。この曲に関しては、フレーズの口裏は合わせてましたよ(笑)。