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INTERVIEW – F チョッパー KOGA [Gacharic Spin]
- Interview:Shutaro Tsujimoto
- Photo:LisA=kozai、Yuto Fukada(Live)
異色のガールズ・バンド像を提示する
初のセルフ・プロデュース作
2019年に結成10周年を迎えたタイミングで新メンバー加入やパート・チェンジを経て新しく生まれ変わったGacharic Spinが、9月8日にメジャー5枚目となるニュー・アルバム『Gacharic Spin』をリリースした。“全力エンターテインメント・ガールズ・バンド”を掲げ、テクニカルなプレイと圧巻のステージングを武器に年間100本以上のライヴをこなしてきた彼女たちにとって、コロナ禍によって突如生まれた時間は自分たちを客観的に見つめ直し、新しいアイディアにじっくりと取り組む機会になったという。ここでは、リーダーとしてバンドを率いる立場でもあるベーシストのF チョッパー KOGAに、初となったセルフ・プロデュースでの制作、バンド名をアルバムに冠した真意、そして“メンバーがいるからこそ生まれた” という今作でのベース・プレイについて語ってもらった。
これまでの経験を通して感じてきたものが全部入ってる。
━━新作『Gacharic Spin』はバンド名を冠したセルフ・タイトルのアルバムになりましたが、ここにはどんな思いを込めましたか?
Gacharic Spinは10周年を迎えるタイミングで新メンバーのアンジェリーナ1/3(mic performer)とyuri(d)が加入し、元々ドラム・ヴォーカルだったはながギター・ヴォーカルへコンバートしてフロント・ウーマンになるというありえない変化をしていて(笑)。そんなバンドってなかなかないと思うんですけど、私たちのなかでは今のこの6人の形が最終形だと思っているんです。だからこそ今のGacharic spinをしっかり残したいということで、アルバムにバンド名をつけたいねという話になりました。あとは去年、これまでバンドとずっと一緒に走ってくれていたプロデューサーのもとを離れたんですね。もちろん今までも作曲作詞は基本メンバーでやってきたんですけど、“ジャッジ”という部分ではプロデューサーと詰めてきた部分も大きくて。でもそこを全部自分たちでやっていこうと、制作もバンド活動自体もセルフ・プロデュースにしていくタイミングだったので、“これが自分たちが作るGacharic Spinだ”っていう思いを込めたというのもありますね。
━━初めてセルフ・プロデュースでの制作をしてみて、いかがでしたか?
大変でした(笑)! やっぱり伝えたいものは一緒でも、メンバーそれぞれ感じ方や表現の仕方が違うとかはあって。もちろんそれがおもしろいところでもあるんですけど、6人でのジャッジとなると、例えば構成とか歌詞のワードとか、やっぱり常に満場一致にはならないんですよね。だから制作の最初のほうは、そのジャッジの方法を考えるのが難しかった。でも進めていくなかで、“作曲者が思うものを第一優先にしよう”と決まっていったり、作曲者もみんなの意見を聞いたうえで何パターンも作ってきたり、“この部分はあなたに任せるよ”というやりとりをするようになったり、みんなでやり方をつかんでいった感じですね。
━━制作期間はコロナ禍でもあったと思います。この面では制作への影響はありましたか?
コロナがあったからこそ客観的に自分を見つめ直せたり、曲を作る時間ができたことは大きかったですね。セルフ・プロデュースにあたって自分もリーダーとして指揮をとっていかなきゃと思っている時期だったので、時間ができて自分自身も落ち着いた状態でいろんな提案ができて、みんなとゆっくり話し合うことができました。アルバムの制作は、いつもだったらツアーも並行しながら“締め切りに間に合わない!”という焦りのなかで進むんですけど、今回は何度もアレンジや歌詞を直す時間があったので、ちゃんと練っていろいろ試せたなと思っています。
━━6月にアルバムに先がけてリリースされた「MindSet」は、MVも含めこれまでのGacharic Spinのイメージを良い意味で裏切るような、新しいガールズ・バンド像を打ち出すような一曲になったと感じています。今の話を聞いていると、そのような大胆な方向転換はセルフ・プロデュースだったからこそ、またコロナ禍だったからこそ成し遂げられた、という部分も大きかったのではないかと感じました。
最初、デモの段階からリード曲を選ぶときに“この曲マニアックすぎない?”という話もあったんですよ(笑)。でもこれは今までのガチャピンにはないタイプの曲ですし、新しく入ったアンジェリーナ1/3を生かせる語り的なラップもすごくおもしろかったので、あえて挑戦しようという感じでやっていきましたね。歌詞は私が中心になって書いたんですけど、曲がマニアックな分、言葉は耳につくようなものや友達同士のLINEのやりとりにあるような誰もが心のなかで思っているものを入れるように意識しました。MVについても、私が“楽器壊したい”っていう話をして(笑)。 “Gacharic Spinは良い子たち”みたいなバンド像があるなかで、“衝撃的なものを”と監督さんと話しながらセルフ・プロデュースで作ったので、すごく思い入れがあります。ガールズ・バンドって、最近はメタルっぽいものが流行っていたり、もっとポップなバンドもいたりするなかで、私たちは異色な立ち位置でいたいなというのがあって。この曲はほかのバンドがやらない、私たちだから表現できる曲だろうと思ってやりましたね。
━━楽曲のマニアックさという意味では、この曲はアレンジ面の作り込みがすごいなと感じています。冒頭の印象的なリフのパートはベースのスラップと2本のギターのカッティングがかなり複雑な掛け合いをしていますが、このパートはどのようにして生まれたのでしょうか?
バキバキなスラップに歪んだギターが入ってくる、みたいなパターンが私たちの曲には多いんですけど、「MindSet」の土台を持ってきたTOMO-ZO(g)は、“そういうパターンじゃない絡み方をやってみたい”というのをずっと言っていて。私は彼女と一緒に住んでるんですけど、“こういうスラップ・パターンってできる?”みたいなやりとりは日頃からしていたので、そのなかでカッティングがベースのスラップに絡んでいく発想が生まれていった感じですね。あとこの曲の作り方で言うと、例えば“2番の歌詞に舌打ちを入れたいんだけど、どうかな?”みたいな相談をしながら、入れたい歌詞に対してアレンジを考えていくようなこともしましたね。
━━まさに今出た“舌打ち”だったり、語り的なラップもそうですけど、特にこの曲ではアンジェリーナ1/3さんという新しいメンバー、新しい血がバンドに入ったからこそ生まれた表現が肝になっていますよね。あとは2本のギター、ベース、ドラムによるリフで曲が始まり、そこに徐々にキーボードが加わっていくというアレンジからも各メンバーの演奏する姿が浮かんでくるようで、“6人のバンド感”を強く感じさせられる楽曲だと思います。
やっぱりバンドに新しいメンバー、新しい血が入ったことは本当に大きかったし、そのなかで6人でセルフ・プロデュースをしたというのが今作には色濃く出ているなと思いますね。ガチャピンはダンサーがいる異色な形で活動してきた歴史が長いこともあってイロモノみたいに見られることも多いんですけど、バンド・サウンドに向かった今作を聴いてもらうと“そうじゃないんだな”って感じてもらえるはずです。でもそれも、これまでいろんな活動をしてきたからこその今の形だとは思っていて。この作品はもちろん今の私たちを示すものではあるけど、これまでの経験を通して感じてきたものが全部入ってるのが今回のアルバムなんだなって感じてますね。