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    【BM web版】歪みベーシストという生き方②━━辻怜次[Bentham]

    • Interview:Takahisa Kondo

    歪んでいる音のほうが音価をコントロールしやすいんです。

    ━━例えば、「FATEMOTION」(ベスト・アルバム『Re: Public <2014-2019>』収録)では、速いテンポの曲のなかでも的確に音を切ってメリハリをつけています。歪ませると、音が伸びてしまったり、ミュートが難しかったりして、コントロールが難しいとも想像していたのですが……。

     そうですね……歪ませると、どうしてもサステインが伸びてしまうので、音を切るタイミングには気をつかいますよね。そういう意味ではすごく難しいとは思います。そのなかで僕の場合は、歯切れのいい音を出すことと、周りと馴染ませるために、右手と左手とのコンビネーションやミュートを意識しています。ただ、僕としては、歪んでいる音のほうが音価をコントロールしやすいんですよ。歪みって、点を線にしてくれるイメージなんですけど、それをつなげたり、切ったり、休符を作ったりしてつないでいく、みたいな。そのなかで、キレイに音を切るための基礎の部分を大事にすればいい。逆に、その点がルーズだと、歪ませれば歪ませるほど休符が生きなくなってきたり、グルーヴが出ないかもしれませんね。

    ━━そこはやっぱり基礎力があっての歪みなんですねぇ。歪みに関する好みは、年を重ねるごとに変化してきましたか?

     そうですね、かなり変わってきていますね。昔はもう、派手な音がいいなって思っていたんですけど、最近では、もっちりした音がいいなっていう場面もありますし、歪みのなかでもトーンに違いを使い分けるようになってきました。エフェクターの組み合わせとか、ベース・アンプのゲインとの兼ね合いとか、歪みのエフェクターで少しロー・ミッドを持ち上げてみたりとか、機材のコンビネーションによって音のバリエーションがすごく増えるので、そのなかで自分のなかのトレンドは常に変化している気がします。

    ━━近作、例えばアルバム『MYNE』に収録されている楽曲のベース・サウンドは、より“もっちり感”が増えている印象でした。あと、ベスト・アルバム『Re: Public <2014-2019>』で再レコーディングを行なった「パブリック(2019 ver.)」は、原曲(EP「Public EP」収録)と比べることができるので、音色の変遷がわかる好例ですね。当時の録音と最新バージョンでは、かなり音色が変化しています。

     録り方が変わったこともありますね。一番最初に「パブリック」を録った頃は、ドラムの鈴木(敬/d)と“せーの”で鳴らした、ラインの音がメインの音色だったんですよね。一方、最近では、ラインで作った感じをリアンプして、アンサンブルのなかでどういう位置に置いていくかを話し合うような作り方をしていて。ひとつの曲でその違いが如実に出たのもおもしろいですよね。

    ━━「cymbidium」(アルバム『MYNE』収録)のようなメロウな曲では、やはり歪みを抑えて、温かな音色にしていますね。

     そうですね。「cymbidium」は、今おっしゃったようにメロウな感じにするために、あえてリア・ピックアップのヴォリュームを絞ってレコーディングしました。リア・ピックアップを出していくと、よりガリッとした部分というかアタッキーな部分も出てきますし、そういうところで音のバリエーションを広げたりして。歪んでいると、リズムの縦のラインは見えやすいんですが、それだと曲の雰囲気に合わなかったりすることもあって。そういうときはピックアップのバランスを変えてみたりします。

    ━━ベース本体の音色によって、歪みのキャラクターを調整するんですね。

     そうですね。ベース本体も、突き詰めると、指板材とか、ボディの塗装の種類とか、そのあたりまで関わってきますからね。あと、スピード感のある「Cry Cry Cry」(アルバム『MYNE』収録)っていう曲があるんですけど、あの曲では、速いパッセージに加えて、アンペグのベース・アンプによる歪みを活用していて。それこそ、ドラムの鈴木と一発録りだったんですけど、昔のアンペグのアンプ・ヘッドをお借りしてレコーディングしたので、少し粘っこいサウンドになったんです。そうやって、機材の組み合わせによって歪みのキャラクターを調整していますね。

    「Cry Cry Cry」MV

    ━━「ASOBI」(アルバム『MYNE』収録)は、スラップ弾きですが、それほどバキバキな音作りではないですよね。

     そうなんです。この曲はアンペグのB-15Nを使っています。スラップなのでアタッキーなプレイですし、手元からエフェクターまではバキバキに歪んだ音なんですけど、アンプ自体はB-15Nを使うことで、結果的にもっちりしたサウンドにしたんです。スピードをアンプで落とす感覚というか。

    ━━そうやって、全体のバランスを見て音作りをしているんですね。

     ベース本体とアンプ、歪みの組み合わせ方もエンジニアさんやプロデューサーと相談しながら決めていくことが多いですね。

    ━━歪みを探求するには、ベース本体やエフェクターに加えて、ベース・アンプも含めてトータルで考えることが重要ですね。

     以前は、それこそスピッツの田村(明浩)さんに憧れて、マーシャルのJCM800 BASS SERIESの50Wのベース・アンプをずっと使っていたんですけども、その個性が合わない場面もあって。そこで、思い切ってフェンダーの Super Bassmanのアンプ・ヘッドと、BAGENDのキャビネットという組み合わせにしたんです。歪ませることによって散らばったサウンドを、BAGENDがギュッとまとめて前に押し出すような感じで、すごく好みの音になりましたね。BAGENDのキャビは重宝しています。