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唯一無二の低音が感情を描く、小説的音世界
国内きっての強音ベーシストとして、オルタナティブ/ラウド・ロック・シーンを切り開いてきた上田剛士によるプロジェクトであるAA=が、新作アルバム『story of Suite #19』を完成させた。初のコンセプト・アルバムとなった本作は、全世界を襲ったパンデミックの影響下で生まれたものであり、これまでAA=として発表してきた作品とはまったく異なった発想のものであるという。シンセ・ベースと自身の歪みベースを明確に使い分けながら、物語を描くように混沌とした感情の変遷を表現。9つの楽曲がひとつの大きな流れとなり、暴力的かつ美しく紡がれる新たな上田剛士の世界について、その背景を聞いた。
物語や小説を書くような、映画を作るような、
そういう作品を音で作るとどうなるのかっていう実験。
━━最初に、コロナ禍という期間は、剛士さんにとってどのようなものでしたか?
まず、バンドマンとしては意識の転換の時期だったと思います。今までの当たり前が、全然当たり前じゃなくなったので。一番は、自分たちが若いときからずっとやってきていたスタイル、いわゆるぐちゃぐちゃになるライヴができなくなるというか、全否定されるというか。昔から、ああいうスタイルが全然ウェルカムじゃない状況のなかでもずっとやってきて、それが自分らのアイデンティティだったりもしたんですよ。やっぱり、ロック・バンドって自分だけじゃないというか、ファンや仲間がいて、そのシーンがあって、そこでそれぞれの想いがあって、それこそ時代であるとかそのときにある価値観であるとか、そういうものを自分らの音楽で変えていく、世界を広げていくみたいな気持ちが活動の原動力になっていたりもしたんです。だけど、今回の“できない”の理由は、すごく納得できるもので、“そりゃそうだよね”と。ただ、自分の音楽活動のなかでは中心にあるものだし切っても切れないものだから、その理由がどうであれ、否定されてしまう状況っていうのは、それなりに大きなダメージでした。考え方を変えざるを得なかったし、見つめ直すことは必要になりましたね。
━━ミュージシャンのなかにはライヴを活動の中心にして活動する人もいれば、例えば後期ビートルズのように、ライヴでの再現性は置いておいて、レコーディング作品を制作するというところに重きを置いて活動するスタイルもありますよね。
そういう意味では、今回のアルバムは、初めてライヴというものを意識していないというか、もっと正確に言うと、そういうカオスな状態のライヴを意識しないで作った感じですね。これまで、自分が演奏するもの、自分のバンドでやるものとしては、常にライヴがともにあるイメージで作ってきたんです。ほかのアーティストへの提供物とかではライヴを全然考えないこともあったんですけど、自分がやるものとしては、そういった前提は今までに一度もなかった経験でした。
━━2020年10月に行なった配信ライヴ“DISTORT YOUR HOME”の映像作品『DISTORT YOUR HOME』にシングルとして「Suite #19」を収録していました。それは今回の「Chapter 1_ 冬の到来」「Chapter 5_CLOSED WORLD ORDER」「Chapter 8_WHY DO YOU KNOW MY NAME? ~全てを知っている君は何も知らない~」がつながった組曲的なものでしたよね。そもそも、この組曲的な楽曲というのは、どのように生まれたものだったんですか?
この状況で自分が作るべきものはなんなのかを考えたときに、今までと同じ形、同じ気持ちで作ると、そのもの自体がちょっと自分にはリアルに感じられないものだったんです。ライヴができない状況でライヴを前提としているものを作る気にならなかった。それで、ライヴを全然意識しないで、“今このとき”を自分が音にプリントするというか形にすると、こういうものにしかならなかったんです。最初から、起承転結じゃないけど、これがパックでひとつのものというか、ひとつだけを切り取っても成立しないものとして作っていました。そういう意味では、あの時点ではひとつひとつにタイトルをつけなくてもいいなみたいな感じで。
━━プログレっぽいイメージですかね?
あぁ、近いかもしれないですね。1曲のなかでもどんどん変わっていくものと、変わらないものがあるし。
━━シングル「Suite #19」の時点で、アルバム『story of Suite #19』の構想はあったのですか? シングルに手応えがあったから拡大したのか、作っているうちに“これはもっと広がるものなんだ”という確信があったとか?
どちらかというと後者ですかね。作っている途中から、もっとこれを深く掘り下げたい、作品として納得したいという感じになってきて。とはいえ、作っている途中では、あと1曲2曲を足す感じかなと思っていたら、最終的にはアルバム・サイズになっちゃったんですけど。
━━楽曲の作り方自体は、これまでの作品とは異なっていたりしますか? サウンドトラック的な作り方というか、「Suite #19」を構成していた「Chapter 1」「Chapter 5」「Chapter 8」を中心にストーリーを思い浮かべて、その間を埋めていく感じというか。
まさにそんな感じですね。自分のなかで物語として作り上げていくときに、足りないものをどんどん足していく感じ。アルバムの一番最後の曲は、「Suite #19」の最後に入っているシンセのパッドみたいな音を曲にしようと思って、そこから曲作りが始まったりしましたし。自分は音楽家なので音で表現しているんですけど、気持ちとしては本当に物語や小説を書くような、映画を作るような、そういう形での娯楽というか作品を音で作るとどうなるのかっていう実験でもありました。だから結局のところ、アルバムの9曲もこれで“ひとつ”でもあるんです。最初に作った3つと一緒で、これもどこかひとつを取り出しても、まったく意味がわからないと思うし。