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    BADASS ROOKIE〜BMイチ押しのNEWCOMER〜 – Mav[For Tracy Hyde]

    • Interview:Koji Kano
    • Live Photo:Weekendcycler

    好きなものを躊躇なく取り入れる、そしてオマージュする。

    ——今作『Ethernity』にはどういった思いやコンセプトが込められているのでしょうか?

     前作のアルバム・レビューに“想像から外れるようなことをしてこない”と書かれた反発で、リスナーを裏切ってみたかった、というのがまずひとつあります(笑)。

    ——反発精神を制作に落とし込むというのはおもしろいですね(笑)。

     加えて、昨今のアメリカの激動を目の当たりにするなかで、“僕たちの思うアメリカ像”をドラマティックに提示したかったという思いも込められています。

    『Ethernity』
    P-Vine/PCD−83017

    ——「Just Like Firefiles」は間奏や終盤での、ドラムと噛み合ったハイ・ポジションでのメロディアスなフレーズが効いていますね

     僕はイギリスのアドラブルというバンドの「Sistine Chapel Ceiling」という曲のイントロ部分のベースが好きで、一度オマージュしたいなと以前から思ってたんです。この曲のキーはDなんですけど、ちょうどDのベースで突き進む間奏があったので、これこそチャンスだということで、“2弦開放のDでベースを支えて1弦ハイポジで動きを作る”という方法論を真似てフレーズを作りました。結果的にはむしろジョイ・ディヴィジョンの「Love Will Tear Us Apart」になってしまいましたが。ただ、間奏で弾くDと、直後のAメロで弾くDを差別化したかったので、ベースをドロップDに落としてオクターヴの高低で弾き分けたんですよ。アウトロを間奏と差別化するために、“4弦開放のD+2弦開放のD+ハイポジのフレーズ”という弾き方をしてるのもポイントですね。

    ――For Tracy Hydeでこういったベース・アプローチは珍しいのでは?

     結果、フレーズは過去にやったことのないものになりましたね。でも“好きなものを躊躇なく取り入れる、オマージュする”というアプローチの意味ではいままでどおりだと思っています。

    ——「Welcome To Cookieville」は序盤からメロディアスに動き回るベース・ラインが印象的です。2Aではグリスをうまく使ってノリを出すなど、随所でベースが楽曲をリードしているように感じます。

     この曲はアメリカのリアル・エステートというバンドの「All The Same」という曲へのオマージュで、同様に楽曲の多くの小節をシンコペーションで食っているんです。ただ、シンコペの連発によって生まれるリズムのキメ感とリアル・エステートに比べてJ-POP寄りのコード感を踏まえたとき、あまり平坦なベース・ラインにすると合わないという感覚はあったかもしれませんね。

    ——オマージュからさらに発展させることで、ベース・ラインを構成していると。

     そうですね。僕がベース・ラインを動かすときは、グリスで5度上やオクターヴ上に駆け上がることが多いんですけど、これはAice5の「Love Power」(アニメ『乙女はお姉さまに恋してる』OP)の影響だと思っています。

    ――「Deser Bloom」は疾走感のあるバンド・サウンドなかで、随所に印象的なフィルを入れ込んだ、ドライブがかったベース・サウンドがカッコいいですね!

     この曲はコンセプトとして“Sonic Youthをやる、それも全力でIQを下げて”ということもあって、うるさく汚くするために理性ゼロで歪みのゲインをグイっと回したんですよ(笑)。1番サビ直後の間奏ではSonic Youthの「Kool Thing」「Teen Age Riot」をイメージしてフレーズを作りました。あとU-1(g)の提案でリズム隊のコンセプトをCoaltar Of The Deepersの「C/O/T/D」にしたこともあって、初めてこのこの曲を聴いたときの初心を思い出して、できるだけ自分のなかの“キッズ”が喜ぶようなダイナミックなフレーズを入れようと心がけました。

    ――続く「Chewing Grum USA」はグランジ・テイストなこともあり「Deser Bloom」とはまた違った攻撃的なベース・サウンドになっていて、本作中でも特に際立っていますね。

     この曲はグランジ……というか“Nirvanaをやる”、という感じです(笑)。ベースの音作りは「Desert Bloom」とおなじ方向性にしたはずなんですけど、ほかの楽器との兼ね合いでより違った聴こえ方になったかもしれませんね。今作ではほとんどの曲で MXRのM80 Bass D.I.のディストーション・チャンネルで歪みを作っています。

    ——こういったグランジ・テイストな楽曲もFor Tracy Hydeでは新鮮ですね。

     新しい方向性を提示できたかと。僕はグランジのベースの役割は“サビではギター・リフを補強し、メロでギターを引き算した際、ギターの不在を強調すること”だと解釈しているので、基本的にギターのリフに忠実にプレイしているんです。とはいえ、アニソン的な流暢さに対する憧れも捨てきれないので、随所に遊びのフィルを入れているところはほかの曲とおなじかと。あと、サビの最後は“D#A#D#A#…”の繰り返しを弾いているんですけど、これはNirvanaの「Heart-Shaped Box」をオマージュした、Plastic Treeの「3月5日。」のワンフレーズを孫引きするという、ひねくれたオマージュをやっています(笑)。

    ——「Welcome To Cookieville」と「The Nearest Faraway Place」はMavさん作曲の楽曲になりますね。

     僕は作曲者であることは、ベース・プレイにも生きていると思ってるんです。というか僕はもともとギタリストで、宅録のためにベースを始めた経緯があるので、実はあまり自分をベーシストだと自認してなくて……(笑)。まず大前提としてただのリスナーの自分がいて、それが昂じた先に“楽器演奏が好き”“作曲者”という自分がそれぞれいて、その先にバンドでベースを弾いている、というのが正直な自己認識なんですよ。「The Nearest Faraway Place」に関してはベースという楽器自体登場しませんからね。……自分、ベース・マガジンのインタビュー受けてよかったんでしょうか?(笑)

    M3.「Interdependence Day(Part I)」Music video

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