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低音から読み解く“12の変奏”とくるりの現在地
くるりの15枚目となるオリジナル・アルバム『儚くも美しき12の変奏』が、2026年2月11日にリリースされた。フォーキーな楽曲から、バンド・サウンド、ジャズ的アプローチ、ヘヴィメタル、R&B、クラシカルなピアノ曲、さらには実験的な音響表現まで—— 12曲それぞれが異なる方向性を持ちながらも、アルバム全体には一貫した空気と手触りが通っている。
本作でベーシストの佐藤征史は、従来のジャズ・ベース中心のアプローチに加え、プレシジョン・ベースを積極的に導入。コントラバスの活躍なども含め、進化し続ける低音を作品の随所で提示している。緻密に構築されたデモを起点に制作された本作で、佐藤はどのようにアンサンブルと向き合ったのか。その制作背景について話を聞いた。

NOISE McCARTNEY
NMRS-1003
今回は全曲、かなり作り込んだデモを作っていて
——前作『感覚は道標』(2023年)からちょうど1年後の2024年10月には、今作の最初のシングル「La Palummella」がリリースされました。この曲はイタリアでレコーディングされたんですよね。
前作を出したあとに、繁(岸田/vo,g)くんがイタリアを旅行して、そこで彼が昔から好きだったダニエレ・セーペさんとつながったんです。僕らは音博(京都音楽博覧会)をやっているので、“一緒に何かできたらいいね”という話になって。これはこれからも続けていきたいことなんですが、いろんな国の音楽をカバーしたり、逆にくるりの曲を現地のミュージシャンと一緒に演奏できたら楽しいよね。というところから始まりました。

——「La Palummella」をやることになった経緯は?
「La Palummella」はナポリの民謡なんですが、イタリアの曲をいろいろ候補にするなかで、ダニエレさんから“ナポリにフォーカスするなら”と紹介してもらって、この曲をやることになりました。シングルのB面では、くるりの「キャメル」をダニエレさんにすべてアレンジしてもらいました。実際に僕たちがナポリに行ってレコーディングしたのは2024年の春頃ですね。
——ベースのアレンジも、ダニエレさんが手がけたんですか?
「キャメル」はコントラバスで弾いているんですけど、「La Palummella」も最初はチューバと同じラインをコントラバスで弾く予定だったんです。でも“チューバがあるなら、いらないね”となって(笑)。結果的に、エレキ・ベースでギターと同じようなことを弾いています。
音域的には、ギターの低いところを少し支えている感じですね。小節のアタマから入ったり、半拍ずらしたりと、現場のノリで入れています。もともと“バルカン的なもの”を意識したアレンジだったので、正直、ギターやベースが必須という曲でもない。その上に乗っかる形で急遽考えたアレンジ、という感覚でした。
——スタジオはどんなところだったんですか?
1900年頃にできた、すごく古いスタジオで、アビーロード・スタジオを作るときにも参考にされたと聞いています。そこにいろんな人がワイワイ、ガヤガヤ集まって、楽しくレコーディングしました。ベースも含めて、楽器は現地の人たちが用意してくれたものです。
——「La Palummella」は、最初からアルバムに入る想定だったんですか?
音的にも編成的にもかなり飛び抜けているので、最初はアルバムに入れるかどうかは決めていませんでした。ただ、今回は「C’est la vie」みたいな曲があるからこそ、「La Palummella」みたいなものが入っていたほうが、全体としては馴染むな、という判断でアルバムに入れることになりました。
——アルバムの曲順に聞いていければと思います。1曲目の「たまにおもうこと」ではコントラバスを弾いていて、クレジットを見ると佐藤さんがチェロやフレクサトーンなど、いろいろな音を加えていますよね。
コラージュみたいなものですね。もともとは歌詞しかなくて、その歌詞が好きだったので、“語りみたいなものがあってもいいんじゃない?”という話をしていました。実際、曲の冒頭1分半くらいは、繁くんの家で記録用に録っていたものを、そのまま使っています。そこから展開させていったので、結果的に詰め込みたいものを詰め込んだ感じになりました。僕が録った音は“ペンタトニック”という自分たちのスタジオで録りました。今回から新しいコントラバスを使っているんですが、それがラインの音だけでもいいなと思える楽器です。自分で録ったほかの音は、全部SHUREのSM57ですね。
——コントラバスのピックアップは、どのようなものを?
ピックアップは、ライヴのPAさんの好みに合わせて選ぶことが多いんですけど、あるPAさんが“真船勝博さんのコンバスのシステムがすごくいい”と言っていて。それで真船さんにメールして教えてもらって、リアリストのピックアップを付けました。自分も昔使っていたことがあるんですけど、結局、そういう一番シンプルなやつが、一番それっぽい音がするなと思っています。真船さんは、これでボディの鳴りを録って、もう1個、弦の鳴りを録るピックアップとダブルで使っているそうです。前のコントラバスでは自分もダブルで使っていたんですけど、今はとりあえず1個でいいかなと思っています。
——2曲目「Regulus」のドラムは、あらきゆうこさんですね。
デモの段階で、このくらいのテンポ感の曲は、あらきさんがいいかなと思って、お願いしました。
——ドラムのリヴァーブ感が独特で、録音やミックスも印象的でした。
けっこう大変でした(笑)。今回は全曲、かなり作り込んだデモを作っていて、ベースもドラムも、全部アンサンブルの一部として設計されていたんです。前作はバンド感を大事にしていましたが、今回はウワモノのフレーズも含めて、最初から細かく決まっていることが多くて、ドラム・パターンが少し違うだけで成立しなくなってしまう。レコーディング後に、それを整える作業に、けっこう時間を使いました。スネアの音が独特なのも、そういうアンサンブルをきちんと成立させるためのミックス、という感じですね。
——この曲でのベースの役割はどう捉えていますか?
シンプルなコード進行の繰り返しなので、そのなかで変化をつけていく役割を担っていると思います。ライヴで、コーラスを歌いながら再現しようとすると、正直かなり大変で(笑)。ライヴでは歌を優先して、弾きやすいラインを選ぶこともありますが、レコーディングでは、その繰り返しのなかで変化を作っているのが、わりとベースなのかなと思っています。最初はジャズベで録ったんですけど、音数が増えてくるともう少しパンチがほしくなって。そこで、66年製のプレベに持ち替えました。ベースは自分で録って、アンプはアンペグB-15のアンプ・シミュレーターを使っています。
——B-15は実機もお持ちですよね?
60年代のB-15と、2000年代のリイシューの両方を持っています。ちゃんと空気を鳴らして、マイクで録ることで良さが出るものもあれば、空気を通さないほうがストンと落ちる音もある。その両方があるな、という感覚があります。「Regulus」の場合は後者でした。
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——3曲目「金星」はドラムが石若駿さんですね。この曲もプレベで弾いているんですか?
伊豆のスタジオで、石若くんと“せぇの”で録っています。最初はジャズベで録っていたんですけど、もう少し重心を落としたくて、これも66年製のプレベで弾き直しました。
——今日の撮影でお持ちのプレベは、ライヴでのメイン器ですか?
そうですね。こっちのほうが、よりプレベっぽい音がします。25年くらい前に買ったフェンダー・カスタムショップのプレベで、しばらく使っていなかったんですけど、今回プレベで録った曲が多かったので、ツアーで使うことになって。家にあるプレベを全部弾き比べたら、これが一番よかったので、25年越しにメインの座に就きました(笑)。ヴィンテージのほうは、ちょっとジャズベ寄りの音なんですよね。だから、レコーディングでは使いやすいです。

——弦は、今作ではラウンド・ワウンドを使っていますか?
今回はそうですね。『天才の愛』(2021年)のときは、フラット・ワウンド弦のほうが多かったと思います。
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Profile
佐藤征史(さとう・まさし)●2月1日生まれ、京都府出身。高校に入学してからベースを弾き始める。その頃に岸田繁(vo,g)と出会い、くるりの前身バンドを結成。その後、立命館大学の音楽サークルでくるりとしての活動をスタートする。1998年にシングル「東京」でメジャー・デビュー。ロックを基盤に実験的な試みで新たなサウンドを模索し高い評価を得ている。2026年2月11日に15作目となるオリジナル・アルバム『儚くも美しき12の変奏』をリリース。
Information
佐藤征史
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