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【Live Report】 SUMMER SONIC 2022 – 2022年8月20日(土)/ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
- Report:Shutaro Tsujimoto
SUMMER SONIC 2022
●2022年8月20日(土)●ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
サマソニが3年ぶりに完全復活。
時代の先端を走るベース・ヒーローたちの好演をレポート!
“SUMMER SONIC 2022(以下、サマソニ)”が8月20~21日に東京と大阪の2ヵ所で同時開催された。今年のサマソニは3年ぶりに完全復活を遂げ、海外アーティストが再び集結したということで、ここでは海外アクトを中心に8月20日(土)の東京会場をアツく盛り上げたベースの好演をレポートしていく!
MOUNTAIN STAGEに登場したザ・リンダ・リンダズ(The Linda Lindas)は、今年アルバム・デビューを果たした、ロサンゼルスを拠点とするアジア系・ラテン系アメリカ人のティーンエイジャーの少女4人からなるパンク・バンド。1曲目から代表曲の「Growing Up」でエンジン全開の、パンキッシュなエネルギー溢れる演奏を披露し、彼女たちの日本での初パフォーマンスを目撃しようと午前中から詰めかけた大勢のオーディエンスを沸かせた。ステージ中央に立つ14歳のベーシスト、エロイーズ・ウォンは(メンバー最年少のドラマーはなんと12歳だ)フェンダーから昨年発表された新シリーズで、ザ・リンダ・リンダズがイメージ・モデルも務めた“Player Plus”のシルバー・スモークのプレシジョン・ベースを低めに構え、ダウン・ピッキングを武器にゴリゴリと弾き倒すストイックなベース・プレイで観客を魅了。キャッチーなリフから、アグレッシブで鋭いルート弾きまで、生き生きとした低音を響かせた。ガナるようなダミ声から高音でのシャウトまで豊かな歌声を聴かせるエロイーズはヴォーカリストとしても素晴らしく、自らのバンド名の由来となったTHE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」のカバーではメイン・ヴォーカルも担当。“この曲を日本でやるのは緊張するけど……”というMCから、彼女が“ドブネズミ~”と歌い出した瞬間、客席からたくさんの拳が突き上げられた光景は感動的なものだった。
SONIC STAGEでは、アメリカの名門インディ・レーベル“SUB POP”からのリリースを果たすなど、国外からの支持を着実に集めているCHAIが多彩な音楽性で多幸感溢れるステージを繰り広げ、ベーシストのユウキも、moogの太い低音を響かせる「IN PINK」でのシンセ・ベースさばきから、歪ませたプレシジョン・ベースのパワフルな音圧で場を制す「N.E.O.」での攻撃的なプレイ、「Donuts Mind If I Do」でのしっとりと会場を揺らすメロウなグルーヴなど、振れ幅豊かなベース・プレイでオーディエンスを踊らせた。続いて同ステージに登場したのは、スクイッド(Squid)。近年のイギリスではポスト・パンクが再燃しているが、彼らもそのムーブメントから登場した代表格で、昨年発表した1stアルバムが話題を呼んだこの5人組バンドの初来日公演がついにこの日のサマソニで実現したのだ。ドラマーがメイン・ヴォーカリストを務める編成がユニークな彼らだが、ステージ上にはベース・アンプが上手と下手に2台セットされており、ローリー・ナンカイヴェル、ルイス・ボアレスを中心に、3人のメンバーがベースを交互にプレイするというスタイルも見ごたえあるものだった。幾何学的なギター&ベースのフレーズが直線的なドラムのビート上で複雑に絡みあう「Boy Racers」など、計算されたアンサンブルが魅力の彼らだが、インプロヴィゼーションのセンスも抜群だ。クライマックスで披露された代表曲「Narrator」では、曲の展開とともに徐々に即興の要素が増えていくことで混沌状態を生み出し、音源とは違った楽曲の魅力を提示。日本のオーディエンスに鮮烈な記憶を焼き付けた。
夕方のMARINE STAGEに颯爽と現われたのはイタリア発のロックの新星、マネスキン。筆者はこれまで何度もサマソニに訪れているが、夕方のこの時間帯に、巨大なZOZOマリンスタジアムのアリーナからスタンドまでがオーディエンスによってギッシリと埋め尽くされているというのは初めて目の当たりにした光景だった。そんな異様な熱気に包まれる会場で、彼らは1曲目から代表曲の「ZITTI E BUONI」でCDよりもはるかにアグレッシブな音像でパンチを見舞いMARINE STAGEを完全に掌握。「MAMMAMIA」、「Beggin’」、「SUPERMODEL」といったキラー・チューンを連発するハイ・テンションなセットを通して、ベーシストのヴィクトリア・デ・アンジェリスはステージを駆け回りながら大きいモーションで叩きつけるようにダンエレクトロ製Longhorn Bassでベース・リフを積み上げ、グルーヴを牽引し、スタジアムを地響きのような低音で揺らす。同期などを使用せず、4人のメンバーの生身の肉体のみから繰り出される音とパフォーマンスを目前にして、生楽器による演奏の可能性を改めて感じさせてくれたことに加え、“ロックの救世主”と謳われてきた彼らの真価がライヴで発揮されることに気づされる壮観なステージだった。
その後MARINE STAGEではKing Gnuがスタジアム・スケールでの演奏がとにかく似合う「飛行艇」、メロディアスなリード・ベースが圧巻の「Sorrows」、曲中でプレイされるシンセ・ベースのレイドバックしたグルーヴが心地よい「カメレオン」、高速ドラミングにベースが果敢に絡みつく「一途」などを披露。知性とパッションを兼ね備えた新井和輝のベース・プレイをはじめメンバー全員が演奏家としての底力を存分に見せつけ、国内音楽シーンのトップランナーとしての王者の風格漂うパフォーマンスで超満員の観衆を圧倒した。
そしてついに、この日の大トリを飾るThe 1975が登場。2019年のサマソニでは2ndヘッドライナーとして日本のオーディエンスを虜にした彼らが、満を持してヘッドライナーとしてカムバック。しかも、今回はThe 1975にとってもコロナ禍で初となる約3年ぶりのライヴ・パフォーマンスということで、国内外から注目が寄せられた貴重なセットとなった。メンバーは全員スーツに身を包み、この3年のうちにすっかり長くなった髪をうしろで束ねたベーシストのロス・マクドナルドはプレシジョン・ベースを抱えて登場。冒頭の「If You’re Too Shy(Let Me Know)」から、「Love Me」、「Chocolate」とダンサブルなキラー・チューンが続けざまに繰り出されるなか、ロスのベースは曲に貢献する堅実なプレイでグルーヴを運び観客を躍らせる。「If You’re Too Shy(Let Me Know)」をはじめ、80’sライクなシンセ・ベースの小気味よいトーンやフレーズもこのバンドの魅力だが、この日のライヴではすべての楽曲を生ベースで弾き切る姿も印象的だった。「Paris」、「Robbers」、「A Change Of Heart」などのゆったりとしたバラードから、「People」や「Sex」といったアグレッシブなリフで攻める楽曲まで、ハイ・ポジションはほとんど使わずにロー・エンドを強調しながらどっしりと支えるロスのベース・スタイルはスタジアムの音響環境でよく映える低音アプローチだとも感じさせられた。10月にリリースされるニュー・アルバムからの新曲「I’m In Love With You」が世界初披露されるなどのサプライズも経て、この日のラスト・チューンを飾ったのは2019年のサマソニでは1曲目として披露された「Give Yourself A Try」。心地よく歪んだドライブ・ベースがMARINE STAGEに響き渡ったあと、花火が大きく打ち上がり、サマソニ1日目の終了が告げられた。
MOUNTAIN STAGEに登場したフィッシュボーン(FISHBONE)のジョン・ノーウッド・フィッシャーや、SONIC STAGEの大トリを務めたセント・ヴィンセント(St. Vincent)のバンド・メンバーとしてプレイしたジャスティン・メルダル・ジョンセン(編注:ベック、ナイン・インチ・ネイルズなどでベーシストとして活躍)など、タイムテーブルのカブりから泣く泣く観るのを断念してしまったベーシストも多かったが、そんな嬉しい嘆きも“フェスならでは”ということで、懐かしい感覚になった今年のサマーソニック。来年もまたこの場所で素晴らしい低音と出会えることを切に願う!
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