NOTES
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BM DISC REVIEW – BASSMAN’S LIBRARY – 2022 NOVEMBER
『GRACE』アリス九號.
ヴィジュアル系シーンへ投げかけるアンチテーゼ
現在のV系シーンへの危機感から生まれたという11作目。ダークな雰囲気、高低差の大きいメロや緩急のついたアンサンブル、空間系ギター……古き良きVの血潮を全面に感じる作風。とはいえ、手数多くヌケの良いドラムとメロに追従するベースが心地よく、緻密なプロダクトが回顧にはさせない。エレクトロでダンサブルな③、ノイジーとミステリアスの2本のギターが絡む④、お経に始まりマイナーとメジャーのメロが交錯する⑥など、バンドの懐の深さを感じる。ベース・フレーズが耳に残る6/8拍子の妙たる⑨からツイン・ヴォーカルの⑩で迎える華麗なる大団円。古の再構築と再解釈、強い矜持を持ってシーンに投げかける正攻法のアンチテーゼだ。(冬将軍)
◎作品情報
『GRACE』
アリス九號.
NINE HEADS RECORDS/NINE-0046(通常盤)
発売中 ¥3,300 全10曲
◎参加ミュージシャン
【沙我(b)】将(vo)、ヒロト/虎(g)、Nao(d)
『ヤバすぎるスピード』ハンブレッダーズ
初期衝動の精神と洗練されたサウンドを両立
疾走感のある8ビートの曲が多く並んだ、ロック愛溢れる3rdフル・アルバム。でらしは前作以上に攻めた対旋律的なプレイを随所で展開。特に④の情熱的なベース・ラインは本作のハイライトと言えるだろう。②⑧⑪などで見せる比較的シンプルなフレーズでも、音を細かくし楽曲に躍動感をもたらす。このように全篇にわたり動きのあるフレーズが耳を惹きつけるが、絶妙なバランスの音作りにより、ベースが歌とぶつからず心地よく響いている。ベースを弾き倒したいという初期衝動と洗練された音色を両立したでらし。その心意気はほかのパートにも表われていて、勢いを保ちつつ丁寧に構築されたアンサンブルが魅力の一枚に仕上がっている。(神保未来)
◎作品情報
『ヤバすぎるスピード』
ハンブレッダーズ
トイズファクトリー/TFCC-86883(通常版)
発売中 ¥3,000 全11曲
◎参加ミュージシャン
【でらし(b)】ムツムロアキラ(vo,g)、ukicaster(g)、木島(d)
『DOKI DOKI』サニーデイ・サービス
バラード曲で光るベーシストとしての矜持
Qomolangma Tomatoなどで知られる新ドラマー大工原幹雄の加入後にリリースし、3ピース・バンドの直球アンサンブルで高い評価を受けた前作から2年半ぶりとなるフル・アルバム。ギター・アレンジが前作以上に削ぎ落とされた今作では、ベースはアルバム前半はギターに寄り添うが、⑦以降のラスト4曲では徐々に饒舌さを増しながらカウンター・メロディで聴かせる。特に最後の⑩は圧巻で、即興的に弾いたであろう、体重がずっしりと乗ったピッキングから繰り出される予測不可能な動きで前のめり気味に暴走するベース・ラインのひとつひとつはあまりに美しい。一番スローな楽曲で普通このアプローチを選択できるだろうか?(辻本秀太郎)
◎作品情報
『DOKI DOKI』
サニーデイ・サービス
ROSE RECORDS/ROSE300
発売中 ¥2,750 全10曲
◎参加ミュージシャン
【田中貴(b)】曽我部恵一(vo,g)、大工原幹雄(d)
『キミボク』アルカラ
多彩なアプローチが生む圧倒的な存在感
オルタナティブ・ロックを核に、ポップさと自由奔放なスタイルが生む奇矯さを備える“ロック界の奇行師”の結成20周年を記念したアルバム。キャッチーなダンス・チューンや感傷的に心揺さぶる楽曲で鳴らされる下上の無骨なベースは今作でも健在だ。ボトムで蠢きつつ、細かく休符を組み合わせて推進力を生む①、攻撃的なスラップとテンポ・ダウン時の三拍子でガラッと変わるラインとサウンドが魅力の④、ハイ・ポジションでの和音や裏メロが美しい⑤など多彩なアプローチが堪能できる。インスト曲の⑥では、存在感抜群のベース・リフで曲を支えつつ、随所でウネるラインや最前に出るベース・メロが印象的だ。(座間友哉)
◎作品情報
『キミボク』
アルカラ
コロムビア/COCP-41912
発売中 ¥3,300 全8曲
◎参加ミュージシャン
【下上貴弘(b)】稲村太佑(vo,g)、疋田武史(d)
『Les Misé blue』syrup16g
物語のように綴られる叙情的な低音旋律
前作より5年ぶりとなる11枚目には、人々が抱く苦悩/鬱屈が彼らなりのロックで表現されている。それらはダークでありつつも、どこか果てしない“優しさ”も感じる。キタダマキのベース・プレイは、力強さと歌心を兼ね備えており、バンドの特異な世界観をさらに深く、色濃いものにしている。うねりを生み出す低音域での細かい動きに唐突にスラップを挟む④、歌メロと優しくリンクする高音域でのフレージングの⑤、浮遊感のあるエフェクティブな音づかいが心地いい⑧、叫びを交えた鋭いロック曲の⑪では、低い重心でアンサンブル支えつつも巧みに経過音を取り入れている。総じて高い情報量と熱量を感じる表情豊かな低音だ。(加納幸児)
◎作品情報
『Les Misé blue』
syrup16g
DAIZAWA RECORDS/UKDZ-0234
発売中 ¥3,520 全14曲
◎参加ミュージシャン
【キタダマキ(b)】五十嵐隆(vo,g)、中畑大樹(d)