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“スラップがうまく鳴らない”と悩むビギナーさんに2つのアドバイス【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第43回
- Text:Makoto Kawabe
この連載では、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は、スラップに悩みビギナーさんたちに向けた回です!
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はじめに
スラップに魅了されてベースを始めた、というビギナーさんはきっと多いはずです。
現に、ベースを始めたばかりで筆者のレッスンに訪れる生徒さんから、“スラップを教えてほしい”という要望をいただくこともかなり多いのですが……。
正直なところ、スラップをすぐに習得できるビギナーさんは、実際にはかなり少ないのが現実です。コツさえ掴めば基本的なスラップ・フレーズ自体の難易度はそれほど高くないのですが、やはり指弾きやピック弾きよりも難易度が高い面は否めません。
今回は、スラップならではの“スパッと切れの良いアタック音”が鳴らないビギナーさんの悩みを解決すべく、スラップの難易度が高い要因や、つまずきやすいポイントなどを解説しますので、上達への糸口を見つけていただければ幸いです。
サムピングのコツ
〜“瞬発力”と“スナップ”が重要〜
スラップ奏法については過去記事(第14回)で紹介していますので、まずはそちらを熟読していただきたいのですが、過去記事の冒頭でも書いている通り、スラップ奏法は“弦をフレットに打ち付けることで弦振動をスタートさせる奏法”です。
この概念はとても重要ですので、以降の記事を読む際にも頭の片隅に置いておいてください。
スラップのサムピングは“弦を叩く”という点では、打弦楽器であるピアノの発音メカニズムと似ています。ただ、ピアノはハンマーが弦を叩いて直接弦振動をスタートさせるのに対し、サムピングは親指を弦に素早くぶつけた“結果として”弦がフレットに当たり、そこで弦振動がスタートするという違いがあります。

この構造を理解しておくと、なぜ“うまく鳴らないのか”が見えてきます。
当然ながら、弦がフレットに当たった瞬間以降も親指が長く弦に触れていると、せっかく始まろうとしている弦振動を親指が阻害(ミュート)してしまいます。その場合、音程感のある持続音が鳴らず、ゴーストノートのようにアタックだけが残ります。
また、親指が弦から離れる速度が遅いとピッキング・ハーモニクスに近い状態となり、低次倍音がミュートされ、結果として音程感はあるもののロー感の希薄な軽い音色になります。
つまりサムピングでは、“親指を弦に打ち付けるスピード”と同じか、それ以上に“弦から離すスピード”が重要です。
これを実現するには手首の柔軟性、いわゆるスナップが大きなカギになります。
筆者のレッスンでは“痛いシッペのイメージ”と伝えていますが、手首やヒジの回転、前後の動き、腕の振りなどを同時に駆使し、親指の先端を最大速度で弦に向かわせながら、弦にぶつかる直前で止めるような感覚でヒットします。
そうすることで、少ない労力で最大限の瞬発力を生み出し、親指を素早く弦から離す動作が可能になります。

また、安定したサムピングの音色を得るには、親指をヒットさせる弦の位置を一定にすることも重要です。親指の振り上げ幅が大きいほど速度面では有利ですが、各弦をピンポイントでヒットする正確性は下がりがちです。
このあたりのバランスや力加減、柔軟性、安定感は、繰り返しの訓練で身につく部分でもありますし、コツが掴めない場合はある程度の練習時間が必要になるでしょう。
プルのコツ
〜“しっかり弦を押さえる”ことが重要〜
次は、プルについてです。
プルは、弦をボディ表面に対して垂直方向に持ち上げ、一定の高さから素早く離すことで、弦の張力によって自動的にフレットへヒットさせる動作です。基本的には誰でもできる簡単な奏法ですが、それでも「プルが切れ良く鳴らない」と悩むビギナーさんは多いと思います。
その原因はシンプルで、ほとんどの場合、左手のフィンガリングがしっかりと弦を押さえられていないことにあります。
指弾きやピック弾きのピッキングの初期動作は、基本的にボディに対して“水平方向”で行うのが一般的です。そのため、フィンガリング時の左手にかかる応力は、弦の張力に負けず、弦振動が止まらない程度であれば充分です。
それに対してプルの初期動作は、ボディに対して“垂直方向”に弦を持ち上げる動きになります。このため、プルではその力に負けないように、より確実に(強い力で)弦を押さえる必要があります。
もしプルの初期動作に左手が負けてしまうと、弦がフレットから離れてしまい、“ミュートされた弦を弾いているような状態”になります。その結果、切れの良いアタック音も、音程感のある持続音も鳴らなくなってしまうわけです。

フィンガリングは、握力の強さがモノを言う技術ではなく、あくまで“力の使い方”の問題です。フィンガリングで求められる指先の動作は、日常生活で行うような慣れた動きではありません。そのためビギナーの皆さんは、まずはその動作に慣れることが重要だと思います。
また、プルにおけるフィンガリングも単に“強く弦を押さえれば良い”わけではなく、適切なタイミングで、適度な応力をかけて実践することが求められます。
プルは、発音タイミングの直前まで“指先で弦を持っている(引っかけている)状態”である必要があります。この事前動作を、一連の演奏の中でスムーズに完了させることも重要です。
また、親指が上向きか下向きかで事情は異なりますので、演奏手順や演奏フォームを見直すことも不可欠だと思います。
◎次回につづく◎
次回は、楽器のセッティングなど、そのほかのポイントからスラップのコツを解説!
◎講師:河辺真
かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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