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    【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第22回 -チョーキングとヴィブラート

    • Text:Makoto Kawabe

    ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は“チョーキングとヴィブラート”について学びましょう!

    はじめに

    演奏に“感情を込めること”や、“表情を付けること”は楽器演奏の醍醐味ですし、ベースを弾くうえでも例外ではありません。これまでに当連載で解説した左手のテクニックに加えて、“チョーキング”や“ヴィブラート”もマスターして、より一層表情豊かでニュアンスに満ちた演奏を目指しましょう。

    初心者にとっては必須テクニックとまでは言えないかもしれませんが、“演奏の幅”を広げるためには欠かせないテクニックですよ。

    チョーキングとは?

    “チョーキング(ピッチ・ベンド、チョークアップ)”とは、押弦した弦をフレットに沿って押し上げることでピッチ(音の高さ)を上げるテクニックです(当然、元の音程よりもピッチを下げることはできません)。

    “上昇方向のスライド”と似た効果ですが、フレット付きの楽器でもシームレス(無段階)にピッチが変化するのでスムーズに音程を上げることができ、目的の音程に上がるまでの“タメ”を作れるほか、フレットで仕切られた12音の途中にあるピッチ(微分音)や曖昧な音程を表現することもできます。

    ギターの場合は全音や全音半チョーキングなどとチョーキング後の音程を指定することも多いですが、ベースの弦は張力が強くピッチを上げにくいので、実践するとしてもせいぜい半音(ハーフ)程度までのチョーキングが大半です。ソロやブルージーなピックアップ・フレーズ(※)、ワイルドな雰囲気を演出するラウド系スタイルなどで用いられますが、ベースのピッチが曖昧だとアンサンブルが崩れてしまいがちですので、バッキングでチョーキング自体を使用することはあまり多くないでしょう。

    ※ミ、ソ、シのピッチがわずかに低いブルーノートを意識したフレーズ。ブルーノートについては別の機会に解説します。

    チョーキングの実践方法

    通常の押弦は指板の真上から弦を押さえるわけですが、チョーキングは押弦したままフレット方向(弦長に対して垂直方向)に力を加えます。

    実践方法はいくつかありますが、最も一般的なのは握り込みフォームから親指を支点に腕全体を旋回させる手法でしょう。指先の力だけでチョーキングしようとするとフォームが安定せず、スムーズにピッチが上がらない(そもそもルックスがあまり良くない)ので、避けたほうが無難です。

    また、弦がフレットや指板から逸脱すると音が途切れてしまうので、高音弦は押し上げる方向、低音弦は引き下げる方向でチョーキングすることが多いです。

    チョーキングを実践してみましょう。譜例では“スラーとcho.”で表記されるほか、前回取り上げた“グリス”と同じように装飾音符を用いて表記されることもあります。

    また、1/4音チョーキングをQ.C.(クォーター・チョーキング)、半音チョーキングをH.C.(ハーフ・チョーキング)、元の音程に戻す工程をC.D.(チョーク・ダウン)と表記することもあります。

    譜例1はピックアップ・フレーズを想定したチョーキングです。1弦側なので押し上げる方向のチョーキングが適しています。

    譜例2はワイルドな雰囲気を演出するチョーキングです。低音弦側なので引き下げる方向にチョーキングすると良いでしょう。

    譜例1
    譜例2

    ヴィブラートとは?

    ヴィブラートは持続音の音の高さ(ピッチ)を連続的に素早く上げたり下げたりして音程を揺らし、独特のうねりを作り出すことで音楽的な美しさや響きを演出するテクニックで、譜面では“波線記号とvib.”で表記されます

    とはいえベースの持続音すべてにヴィブラートをかけるのはどうかと思いますし、ヴィブラートをかけるかどうかはセンス次第です。筆者的にはヴィブラートをかけるなら“大きくゆっくりと”がセオリーだと思います。

    小さく素早く揺らすとヴィブラートがかかりにくいですし、そもそも細かいヴィブラート(いわゆるちりめんヴィブラート)はポップス、ロック系ではテンポに関わらずあまり適さないと感じます。

    ベースで用いられるヴィブラートの手法としては大別して3つあります。

    ①:横揺れヴィブラート

    押弦している指先を弦長方向に動かして音程を揺らすテクニックです。

    通常、ベースでヴィブラートと言えばこの手法を意味すると思うのですが、一般的に認知されている名称はないようなので、ここでは区別しやすくするため“横揺れヴィブラート”と表記します。

    ヴァイオリンやチェロなどでは横揺れのヴィブラートを多用しますし、フレットレス・ベースをはじめフレットのない楽器であれば押さえる位置を微妙に変えることでピッチが変化するのは容易に想像できるかと思いますが、フレット付きの楽器はフレット間のどこを押さえても基本的には音程は変わらないはずですね。

    それにも関わらずフレット付きのベースで横揺れヴィブラートがかかるのは、押弦している指先の位置自体を動かすわけではないからです。どういうことかと言うと……まずはピッチの変化を体験してみましょう。

    任意のフレットで弦の真上から押弦して持続音を鳴らし、弦を押さえたままブリッジ方向に(弦を縮めるように)力を加えてください。ピッチが下がったら成功です。下がらなかったら押さえる力が弱いか、力のかけ方が足りないと思われます。

    次は持続音を鳴らしたまま押弦した指先の位置を変えずにヘッド方向に(弦を伸ばすように)力を加えてください。ピッチが上がったら成功です。

    つまり、ベースの横揺れヴィブラートはこの作用を繰り返して弦の張力をわずかに増減させてピッチを揺らすテクニックなんですね。それほど大きなピッチ変化は望めないぶん、バラードなどデリケートなフレーズ表現には最適です。

    上記のピッチ変化が体感できないうちは、いくら指先を揺らしても横揺れのヴィブラートはかかりません。

    実践方法としては通常よりもやや強めに押弦したうえで、手首を弦長方向に大きくゆっくり揺らすと掛かりやすいかと思います。親指に力が入っていると大きく動かしにくいので押弦は指先とヒジをうしろに引くような腕全体の力に任せ、親指はネックから離すか添えるだけにして、先行して左右に振れる手首で弦を引っ張るイメージです。手首が動く向きが弦長方向から外れるとうまくかかりません。

    ②:縦揺れヴィブラート

    チョーキングのアップ/ダウンの動作を素早く繰り返すことでヴィブラートをかける手法です。弦長方向に揺らす横揺れヴィブラートに対して、フレット方向に弦を揺らすので縦揺れヴィブラートと表記します。

    横揺れヴィブラートよりも大きなピッチ変化が起こしやすく、効果がわかりやすいのがメリットですが、押し上げる方向でも引き下げる方向でもチョーキングの特性上、元のピッチよりも高い方向にしか揺れないのがデメリットです。このため、縦揺れヴィブラートでは少なくともチョーキングしていない弦の位置(原点)を通過するようにかけないと全体のピッチが上ずって聴こえてしまいます。

    チョーキングしてピッチを上げた状態のままヴィブラートをかけるギターのテクニックを“チョーキング・ヴィブラート”と言いますが、縦揺れのヴィブラートをかけたつもりが意図せずチョーキング・ヴィブラートになってしまい、“調子っぱずれの上ずったヴィブラート”になってしまうことが往々にしてあります。自分では気が付きにくいですが傍から見ると一目瞭然なので、気になったら自分のフォームを鏡で確認しましょう。

    ③:スライディング・ヴィブラート

    フレット間のみの動作で弦の張力を変える横揺れヴィブラートに対して、押弦している指先を2~3フレットほどまたいで素早く移動させるスライドの応用的な動作で大きな音程変化を生じさせるヴィブラートです。

    譜面では波線にsl.vibなどと表記されます。かなり豪快な印象を与えるテクニックで、ゴースト・ノートのグリスと同じように曲中に勢いを与えますが、思い切りよくやらないと失敗します。

    ニュアンス重視のプレイを実践しよう

    これまでに習得したテクニックを駆使して表現力を磨く練習をしましょう。それには簡単なメロディを弾いてみるのがいちばん良いでしょう。譜例はエルガー作曲の行進曲「威風堂々」で有名なメロディの一部をベースで弾きやすくアレンジしたものです。最初は何も装飾を付けずにメロディをゆっくりと弾いてみてください【譜例3】。

    譜例3

    ちょっと物足りないですよね?そこで自分なりにスライド、グリス、ヴィブラートなどを加えて情感たっぷりに演奏できるように工夫してみましょう。筆者的には以下のような感じにアレンジしてみました【譜例4】。正解の弾き方はありません。自分なりの表現方法を模索しましょう。

    譜例4

    まとめ

    チョーキングはベースで使うことはあまり多くないですが、通常の押弦では弦を真上から押さえないとチョーキング気味に陥りやすいので、むしろ“かけてないのにかかっちゃってるチョーキング”に気を付けましょう。

    横揺れヴィブラートと縦揺れヴィブラートは、それぞれのメリット/デメリットを理解しつつ上手に使い分けたいところですが、いずれにしても“かけているのにかかってないヴィブラート”は演奏的にはかなりカッコ悪いです。とはいえ、顔だけにヴィブラートが掛かっている(演奏に没頭している)のは演出的にはOKです(笑)。まさに“花も実もあるカッコいい演奏”を目指して引き続き頑張りましょう!

    ■連載一覧はこちらから。

    ◎講師:河辺真 
    かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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