NOTES
ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回はミュートについて学びましょう!
はじめに
楽器は“音を出す”ためのアイテムですが、楽器奏者にとっては音を出さないことも重要です。“そんなの簡単じゃん、弾かなければいいだけでしょ?”と思ったそこのあなた! 音を止めたり出さないようにすることはとっても奥が深いんですよ!……ということで今回は音を止めたり出さないようにすることを意味する“ミュート”についてです。まずは用語の確認と基礎的なテクニックをマスターしましょう。
ミュートとは?
音を止めたり鳴らないようにしたりすること全般を“ミュート”と表現しますが、ベースを演奏するうえでは“ミュート”という言葉がさまざまな場面で出てきます。
①一時的に楽器の音が出ない状態にする
例えばレコーディングの合間やライヴのMC中に、不用意に音が出ないようにするには、アンプの電源を切ったり楽器のヴォリュームを絞ったりするよりも、エフェクト・ペダルやアンプの“ミュート機能”を使ったほうが便利ですね。人前で演奏する際はチューニングも音を出さずにできたほうがスマートです。ミュートの機能はベーシストにとって楽器本体とシールド・ケーブルの次くらいに重要と言えるかも。ミュート機能が備わったペダル型チューナーやヴォリューム・ペダル、もしくはミュート機能を兼ねるライン・セレクターなどが使いやすいでしょう。
②ミュート弾き
ピッキング時に意図的に弦の振動を制限して、サステインが短く、こもった音色にするのが“ミュート弾き”です。
ミュート弾きのフォームはいくつかありますが、比較的導入しやすいのがブリッジ近辺で右手の手刀部分を弦に触れさせつつ親指またはピックでピッキングするフォームです。ネック寄りで弦に触れるほどサステインが短く、こもった音色になりますが、度を越すと音程感のないゴーストノートになってしまうので、弦に触れる位置はもちろん、弦に触れさせる面積や力加減もコントロールすることが重要です。弦に押し付ける力が強すぎるとピッチが上ずってしまうことにも注意しましょう。
ミュート弾きと同様の効果はスポンジやゴム、布、ティッシュなどを弦に触れさせたり、ブリッジ近辺の弦とボディの間に詰めたりすることでも実現できますし、専用のアイテムも市販されています。また、左手による押弦方法を工夫する、具体的には弦をフレット間ではなくフレットの真上の位置で押さえたり(開放弦を弾く際はナットの上を押さえる)、人差指などで押弦しつつ中指を弦に触れさせたりすることでもミュート気味の音色を得ることができます。
・右手によるミュート弾きのフォーム
・左手によるミュート弾きの例
③音の長さをコントロールする
前回の『ゴーストノートを使いこなそう』でも少し触れましたが、音の長さ(音価)をコントロールし、休符を的確なタイミングで演奏するには、“鳴っている音を無音で止める技術”が不可欠であり、これもミュートの一種です。音価をコントロールするにあたって、具体的な方法はたくさんありますが、フレーズや奏法、ポジションなどによっては手段が限られるので、臨機応変に使い分けたいところです。
右手による音価のコントロール方法としては、指弾きではゴーストノート的なバズ音が鳴らないように力加減をコントロールしつつ、指先を弦に素早く触れさせるのがもっとも手軽ですね。ピック弾きやスラップ奏法では、手のひら全体や手刀部分で弦の振動を止めるのが良いでしょう。バラード系楽曲の終わり間際など、鳴っている弦を徐々にフェードアウトさせたい場合は、ミュート奏法の要領でブリッジ近辺の弦に手刀部分などをやんわりと触れさせるのが良いでしょう。
左手による音価のコントロール方法は、押弦している指先をフレットから浮かすと同時に押弦以外の指先で弦の振動を止めにいくのがベストです。押弦している指先を弦から離してしまうのは開放弦が鳴るのでNGですし、押弦している指先を浮かすだけでは弦がフレットから離れる瞬間にビビリ音が発生しがちです。特に指一本で押弦している場合は、ポジションによってはミュート時にハーモニクスが残ってしまうので、的確にミュートするためにもできる限り複数の指で押弦することが肝要です。言い換えると、人差指による押弦は(複数の指で押弦できないので)ミュート時にハーモニクスが鳴るリスクが高く、フレットから浮かすと同時にほかの指で弦の振動を止める動作が不可欠となるのです。
・複数の指による押弦からのミュート
・人差指による押弦からのミュート
④弾いていない弦が鳴らないようにする
ベースは単音のアプローチが大半を占める楽器ですが、弦は4本以上あり、演奏中に弾いていない弦(余弦)を放置すると勝手に鳴ってしまいます。弾いた弦の振動がボディやネックなどを経由して余弦に伝わってしまうからです。余弦が鳴っていると、その音量自体はごくわずかですが、全体の音色が濁り、音程感も悪く聴こえます。このような状態に陥らないように“余弦のミュート”をすることがとても重要なのです。
余弦のことを考えながら演奏するのは至難の業ですので、無意識下で余弦のミュートができるよう習慣づけておきたいところです。余弦が鳴っている状況はズボンのチャック(社会の窓)が開いているのと同じくらい恥ずかしいことと肝に銘じ(笑)、余弦に触れていないと不安になるくらいの感覚を持ちましょう。
余弦は右手左手を問わず弦に触れてさえいればミュートできますが、指一本で実践するとハーモニクスが鳴るリスクがあるので、可能な限り複数の指で触れるのが理想的です。難しいことを考えずに余弦のミュートが実践しやすいのは中指や薬指で押弦する握り込みフォーム(第4回『ベースの演奏フォーム』参照)ですね。コードの変わらないルート弾きや動きの少ないフレーズは特に推奨できます。
・握り込みフォーム
そのほかのフォームで動きのあるフレーズを演奏する際は、弾く弦よりも高音弦側の余弦をミュートするには、押弦する指の腹で対処できますが、弾く弦よりも低音弦側の余弦は押弦した指以外を割り当てる必要があります。フレーズによっては人差指を余弦のミュート専用に余らせる(人差指以外で押弦する)とか、指の腹よりも関節側で押弦し、その指先で低音弦側をミュートするなど工夫する必要もあるでしょう。
・左手での余弦のミュート(高音弦側)
・左手での余弦のミュート(低音弦側)
・人差指を余弦のミュート専用にする
・関節部分で押弦しつつ指先で低音弦側をミュートする
低音弦中心のフレーズであれば余弦のミュートは左手だけでも対処しやすいですが、高音弦が中心のフレーズは右手の連動が欠かせません。指弾きでは親指の位置を低音弦に置けばその弦をミュートできます。ピッキングする弦が頻繁に入れ替わるフレーズでは、フォームを崩さずに親指の位置をスムーズに移動できるよう鍛錬する必要がありますね。
ピック弾きでは高音弦を弾く際は手刀部分を低音弦に触れさせ、低音弦を弾く際は小指を高音弦に触れさせることで余弦のミュートをしつつフォームの安定を図ることができます。ただし良くも悪くも腕の振りが制限されるのと、弦移動の多いフレーズではスムーズなフォーム・チェンジが不可欠となります。スラップ奏法はプルでは親指で、サムピングでは低音弦側を二の腕部分で余弦のミュートができますが、他の奏法に比べると余弦のミュートがしづらく、奏法の難易度を高める要因のひとつかもしれません。
・親指で低音弦をミュート(指弾き)
・小指で高音弦をミュート(ピック弾き)
・手刀部分で低音弦をミュート(ピック弾き)
・プルでの親指や手刀部分でのミュート(スラップ)
弦高を低くセッティングしている弾きやすい楽器や、軽いタッチで音が出せるアクティヴ・ベースなどは音を出しやすい反面、余弦のミュートが目立ちやすい傾向がありますし、多弦ベースは特に物理的に余弦のミュートが困難なので、ネックのナット付近に巻くことで余弦をミュートできるアイテム“フレット・ラップ”の導入を検討しても良いかもしれません。
最後に
ミュートの重要性は上級者になるほど実感するのではないかと思いますが、特に余弦のミュートは早い段階で身に付けておきたい重要なテクニックです。ミュートの練習をするのに最適な譜例をひとつ挙げておきます。本来は弦移動の練習をするための譜例でもあるのですが、この譜例の各音が重ならないように、かつ不用意に途切れないように演奏しようとすると音価のコントロールと共に余弦のミュートも不可欠となり、格段に難易度が高いことに気がつくかと思います。あまり実践的なフレーズではないですが、指弾きやピック弾きでチャレンジしてみてください。