NOTES
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追悼 – ポール・ジャクソン
- Text:Eisuke Sato
- Interview:Fumi Koyasu(Bass Magazine 1998 JUL)
ここからは過去のベース・マガジンに掲載されたポールのインタビュー記事を紹介しよう。まずは『ベース・マガジン Vol.5』(1986年11月)から、 “Musician’s Special Seminar”と題した企画における金言の一部を抜粋してお届けする。“ドラマー”と演奏するときに気をつけるべきこと、そして、初心者への大事なアドバイスを語ってくれている。
ドラマーをいかに訓練するか
ドラマーと一緒に訓練する……というと、何かベーシストのほうがドラマーより偉いみたいなニュアンスがあるけど、そうではないんだ。ドラマーと一緒にどうプレイしたらいいかということさ。ただ、ベーシストは曲のいろいろな局面でほかのプレイヤーのガイドとしての機能を果たさなければならない、ということがある。つまり、ベーシストというのはドラマーをガイドする“訓練する”やり方を知ってるべきなんだ。もちろん僕のほうがドラマーに従うことだってある。しかし、今回僕がレクチャーしようとしているのは、従うほうではなく、従ってもらう立場になったときにどうしたらスムーズにいくか、ということなんだ。
未来への切符を手にするためには
リピート&リピートを心がけろ
ドラマーととりあえず一緒にプレイするときは、例えばラテンやブルースなど、適当なサンプルを弾いてみるといい。どちらにしてもラインはシンプルだけど、本気でやるとなかなか難しいものなんだ。これを何度も何度も繰り返す。これがとても重要で、特にビギナーの人は何回もリピートすることでグルーヴ感を身につける必要がある。正しいリズムのフィーリングを学ぶうえで、これは非常に大切なことだ。
ドラマーとのプレイ中にしなければならないこととは、“スペース”をラインのなかに残しておくこと。それによってベーシストはドラマーを方向づけることができるわけだ。多くの場合に、そのスペースにドラマーはフィルを入れるだろう。スペースを残しているラインは、ドラマーにフィルを催促する働きがある。そうやってドラマーをリードしていくわけだ。一方でドラマーは、君が弾くベースを理解しようとし、彼は彼なりの感覚でスペースを拾い出すだろうから、より音楽性が高まっていくことだろう。
なかにはまだ初心者のベーシストで、ただ8分音符を並べただけのフレーズしか弾けない人もいるかもしれない。そんな人は、フレーズのなかでどこかに引っかかりを持たせるようにしよう。それからさらに難しいフレーズを思いついたら何回も繰り返す。間違ってもかまわないんだ。間違えてしまったら、そのミスを繰り返してしまおう。1回なら間違いとして目立つかもしれないけど、同じことを2度以上繰り返せば、より音楽的になって間違いだと思われないから不思議! そこから新しいフレーズが生まれる可能性だってある。僕はこれを“未来への切符”と呼んでいる。つまり、2度以上繰り返せば何かが見つかるはずだ。もちろん、どうとでもならないようなおかしな間違いだってある。でも、それだってプレイしているスタイルに合わないのであって、ひょっとしたらほかの場面で使えるパターンになるかもしれない。繰り返してプレイしてみることで、今までに弾いたことのないフレーズを体に染み込ませるんだ。
問いかけと反応が自由にできるためのプロセス
次に重要なのが、問いかけと反応(コール&レスポンス)だ。スペースを残したプレイをするということがわかったら、ベースでドラムに質問したり、ドラムからの問いに反応したりすることができる。ベーシストとドラマーはお互いに語り合わなくてはならないのだ、もちろん楽器でね。レコードを聴いて“このファンクの感じ”と決めたら、それをよく聴いて、ドラマーとの演奏時に弾いてみるんだ。そうやってドラマーと一緒にさまざまなリズムでプレイして、新しいパターンを演奏する努力をしていってもらいたい。お互いをプッシュして関係を作っていくようにするんだ。
そうやってふたりで練習していくと、ともにタイム感やフィーリングがよくなっていくことに気がつくだろう。その次にやることは、お互いのカウンター・リズムをプレイすることだ。これは、ベースとドラムが一見バラバラのリズムをプレイしているようでいて、重なったときにこのふたつで相乗効果となり、新たなリズムが生まれるということになる。そうだな、ドラムが4拍子でプレイしているときに、ベースは5拍子でプレイしてみるのもおもしろいだろう。この場合は20拍ごとにアタマの拍が合う計算になる。
ベーシストは、ときに軌道からハズれていくような勇気が必要だ。まわりのみんなは驚くかもしれないが、あとでちゃんと戻れば問題ない。正しくプレイすることばかり考えていても、現状維持で終わってしまう。時には右や左に大きく迂回して、ほかのメンバーの反応を見るのもプラスになると思う。
『ベース・マガジン Vol.5』