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ピノ・パラディーノの新シグネイチャー器を根岸孝旨が試奏!「完全に“ミュージックマンのスティングレイ”ですね」
- 取材・文:河辺真
- 撮影:八島崇
ピノ・パラディーノのアイコニックなサウンドとプレイフィールを再現した“MUSIC MAN Pino Palladino StingRay Bass”が発売された。ピノの愛器である1979年製フレットレスStingRay Bassをもとに開発されたモデルで、フレットレス/フレッテッドの2仕様をラインナップ。本器はどこまでそのニュアンスに迫っているのか。ピノを敬愛し、本人とも交流のあるベーシスト/プロデューサー根岸孝旨の試奏レビューとともに検証する。
ピノ・パラディーノの新シグネイチャー・ベース “Pino Palladino Signature StingRay Bass”とは?


1957年生まれ、ウェールズ出身のピノ・パラディーノはポール・ヤングやディアンジェロ、ジョン・メイヤーをはじめ、常に時代の最先端の音楽シーンを支える凄腕セッション・ベーシスト。1985年にリリースされたポール・ヤングの「Everytime You Go Away」(ホール&オーツのカバー曲)がヒットするが、その楽曲で聴ける独特の浮遊感と印象的なフレーズを生み出したのが、ピノが今も愛用しているフレットレスの1979年製ミュージックマン・スティングレイ・ベースだ。
本人所有器を忠実に再現したレプリカ・モデルは当時のパーツや素材を多数利用して“Pino Palladino Icon Series”として世界限定15本で製作されたが、今回紹介する“Pino Palladino Signature StingRay Bass”は、本人所有器にインスパイアされて開発されたモデルで、フレットレスとフレッテッドがラインナップされる。
ミュージックマン社の初期ロゴ、アルニコ・マグネットや2バンドEQ、ミュート付きのブリッジ・プレート、ヘッド側に顔を出すブレット・トラス・ロッド、3点止めネック・ジョイント・プレートなど、70年代後半のスティングレイ・ベースの再現度はかなり高い。
さらに、ピノ本人の楽器を反映した非対称ネック・シェイプ、軽量なポプラ・ボディ、ティンテッド・メイプル・ネックに薄めのローズ指板を採用。ピックアップには短いポールピースのカスタム・ハムバッカーを新規設計し、アクティヴ・サーキットも本人所有器の“エイジド感”を再現するなど、ピノのトーンと演奏性に肉薄するスペックを誇る仕上がりとなっている。
そのほか、フレットレスはサイドマーカーのみのラインなし仕様で、フレッテッドは細めのニッケル製フレットを装備。ブラス製のサドルとグラフテック・ナットはモダンなセレクトで、ネック・プレートにはシグネチャー・モデルの刻印がデザインされる。
また、フレットレス・モデルにはアーニー・ボール製カスタム・ゲージ(.036 | .055 | .065 | .090)のニッケル・ラウンド・ワウンド弦が、フレットテッド・モデルにはアーニーボール製ピノ・パラディーノ・シグネチャーエクストラ・ライト・ゲージ(.038 | .054 | .068 | .098)のフラット・ワウンド弦がセットされる。なぜフレットレスにラウンド弦で、フレッテッドにフラット弦なのか? 根岸氏の見解に注目です。
【Column:スティングレイ・ベースの歴史】
“スティングレイ・ベース”は、1976年に初代モデルが登場して以来、ベーシストに広く認知されている定番モデルであり、アクティヴ・ベースの代名詞でありながら唯一無二の強力な個性を放つベースだ。3:1ペグ・レイアウト(5弦モデルは4:1)のヘッド・シェイプや、丸みを帯びたボディ・シェイプ、楕円形のピックガードといったルックスはもちろん、極太ポールピースのハムバッキング・ピックアップとアクティヴ・サーキットによる独特の音色は現行モデルにも受け継がれ、今なお多くのベーシストを魅了している。
とはいえ、細かなスペックについては変更が施されたり刷新されたりした部分がいくつか存在する。そもそも1976年にスティングレイ・ベースを最初に世に送り出したのは、フェンダー社の創業者として知られるレオ・フェンダーらが興したミュージックマン社だが、1984年にアーニーボール社に経営が移って以降は“アーニーボール・ミュージックマンのスティングレイ・ベース”としてリリースされているため、ヘッドのブランド・ロゴが前後で異なる。
音色面の変化で顕著なのがアクティブ・サーキットで、初期のモデルがトレブル/ベースともブーストのみの2バンドEQなのに対し、1980年代後半にセンター・クリック付(ブースト/カット)の3バンドEQに変更されている。そのほかにも、マイクロ・ティルト機構付き(ネジでネックの仕込み角を調整できる機能)の3点止めネック・ジョイントが4点止めへ、さらに6点止めに変更になり、ミュート付きの大型ブリッジからミュートがなくなり、2005年からはロー・ポジションのピッチをわずかに修正するコンペンセイテッド・ナットを採用するといった仕様変更が施されている。
2000年代以降はスルー・ネック仕様や2ハム仕様(ミュージックマン時代の2ハム仕様はスティングレイ・ベースではなくセイバー・ベースという別モデルで存在した)、クラシカルな2バンドEQモデル、ネオジム・マグネットを搭載した18V駆動のスティングレイ・スペシャルなどが登場し、現在に至るまで派生モデルも含め様々なモデルがラインナップされている。
根岸孝旨が弾く
Pino Palladino Signature StingRay Bass
ここからはピノ・パラディーノを敬愛するベーシスト、根岸孝旨による試奏レビューをお届けする。

根岸孝旨のスティングレイ遍歴
「“サステインを効かせたかったらスティングレイ!”って感じかな?」
実はミュージックマン期のスティングレイは今回持参した1979年のフレットレスをはじめ数本所有してます。トニー・レヴィンがミュージックマン期のスティングレイを使っていたのがキッカケですかね。
初期の個体はトーンを上げてもバキバキ言わないんですよ。プレべのもう少しリア寄りみたいな音で。それで初期のスティングレイが欲しくなって、いろいろ探したんだけど、“白いピックガードの個体は音が違うらしい”とか、“1977年の前後で回路が変わる”とかって話も出回っていて。
ミュージックマン期のスティングレイは個体差も大きくて。“音は良いけど、重くてライヴでは厳しいな”と思ったり、“シルバーの個体が欲しい”となってキープしたり……そんなことを繰り返して何本か整理しました。そのうえで残ったのが、いま所有している個体です。どれも状態は良いですよ。
“この時期のクオリティがどう”とかではなくて、“状態が良い個体が残る”ってことじゃないかな? やっぱりミュージックマン期(いわゆるプレ・アーニー)と、それ以降のアーニーボール期のスティングレイでははっきりと音が違うんですよね。とはいえアーニーボール期のスティングレイにも良さはあるので使い分けてますね。
単純に3バンドEQのほうがミドルを出しやすいのでライヴで聴き取りやすい音色にはなっていると思いますし。ミュージックマンのプリアンプって独特なので、ほかのメーカーにない特徴的な音がするんですよね。仕事でスティングレイ・ベースを選択する決め手ですか? んー、“サステインを効かせたかったらスティングレイ!”って感じかな? 白玉の多い、ロング・トーンを楽しむ楽曲とかね。

ピノ・パラディーノとの出会い
「ザ・ヴァーブス(The Verbs)で来日した際に親しくなって」
僕は高校生のときにブランドXを聴いてベースに興味を持って、最初に買ったベースがフレットレスなんだけど、当時はインスト・バンドや派手めな演奏をする人がフレットレスを弾くものって印象だったから、ポール・ヤングみたいな歌モノのバックに聴こえるフレットレスに“こういうアプローチもあるんだ!”と思って。それでピノを認識したのが最初かな。
「Everytime You Go Away」が有名ですけど、自分は「Come Back and Stay」で衝撃を受けました。それこそトレブルを上げ目にしてスラップしています。あと、ニック・ヘイワード(ヘアカット100)の最初のソロ・アルバム『風のミラクル』(1983年/原題:North of a Miracle)もピノが弾いてるんだけど、これもすごく良いですよ。
最初にピノと対面したのはロック・オデッセイっていうフェス(ROCK ODYSSEY 2004)でザ・フーが初来日したときかな? 自分もLOVE PSYCHEDELICOで出演していて。そのあと2006年にザ・ヴァーブス(The Verbs)で来日した際に親しくなって、そのときに“ラリー・グラハム・モデルを探しているんだ”っていうから、ちょっと探したら楽器屋にあったので一緒に行くことになって。
翌日、赤坂のホテルに迎えに行って、まずピノの娘さんや奥さんたちを渋谷の109に連れて行ってから楽器屋に向かってね(笑)。いまピノが使ってるラリー・グラハム・モデルは僕が一緒に買いに行った個体ですよ。ピノは弾きまくらないのがカッコいいよね。最新ソロ・アルバムでもギター弾いたりして、ベースに限らず“音楽でチャレンジする”っていう姿勢が素敵だなと思います。
フレットレス・モデルを弾いてみて
「新品でこのクオリティならかなり買いですね、弾きやすいし」

ちょっと不安になるくらい細い弦ですけど、慣れればラクなのかも。弱いピッキングで速いフレーズを弾きたい最近の若手ベーシストにも向いているかもしれないですね。とにかくピッチが取りやすいのが良い! 弦が細いのもあるけど、倍音が聴き取りやすいのも理由かな? 弾きやすさは僕が持参した79年製フレットレスに近い。というかほとんど同じですね。フレットレスってヴィンテージも含めて個体が少なくて探すのが大変だから、新品でこのクオリティならかなり買いですね、弾きやすいし。
ちなみにピノはいつもライヴのとき手元のEQはトレブルもベースも半分くらい上げた状態(全開ではなく半分に絞った状態)から始めて、状況に応じてベースを上げていくんだって言ってましたよ。実際、自分がミュージックマンを弾く際も2バンドEQは全開にはしないで少し絞ってます。全開だとレベルが上がりすぎるし、ピック弾きと指弾きでのバランスが取りにくくなりますから。
以前、ジョン・メイヤーで来日したときにピノにジャズ・ベースを貸したことがあるんですが、その際に当時使っていたほとんどのベースには“トマスティックを張っている”と話していました。だから、トマスティック以外の弦なのは新鮮ですね。ましてやラウンド弦ですし。
でも、ピノはポール・ヤング以前のセッションでは頻繁にフレットレスでスラップやってるんですよね。そのときはラウンド弦だったはずだから、そのあたりのピノのプレイを再現したいファンにはちょうど良いかもしれませんね。
フレッテッド・モデルを弾いてみて
「どちらも完全に“ミュージックマンのスティングレイ”ですね」

同じ1979年頃の楽器と比べるとフレットが高めな気がしますね、太くはないんだけど。でも嫌な印象ではないです。ネック・シェイプが良いですね。この年代のヴィンテージと同じ弾き心地です。フレットレスと同じく音程の取りやすさ、聴き取りやすさがありますね。
ヴィンテージのフレッテッドのスティングレイ・ベースにフラット弦って貼ったことないけど、きっとこういう感じなんだろうと思います。そういえばクインシー・ジョーンズはスラップのバキバキした音が苦手で、ルイス・ジョンソンにはフラット弦を張るように指示したそうですよ。だからクインシー・ジョーンズがプロデュースしたときのルイス・ジョンソンの音を求めてる人にはこのセットアップがちょうど良いんじゃないかな?
この(細いフラット)弦の効果もあるけど、ハイを絞ると渋さが出てきて良いですね。ポールピースの高さはどの弦も同じくらいですし、弦間の音量バランスも取りやすいですね。やっぱりとにかく弾きやすい。現行ではなくミュージックマン期の弾き心地で、なおかつ弾きやすい。重くないのも良いなぁ。ブリッジのミュートは、自分のヴィンテージはゴムが劣化して使ってなかったですけど、これは使い勝手もいいし音色的にも使えますね。
どちらの楽器も完全に“ミュージックマンのスティングレイ”ですね(笑)。スティングレイを弾いたことがある人も一回弾いてみると良いと思いますよ。とても弾きやすいし、丁度いいネック・シェイプです。
フレットテッド・モデルにはピノのシグネチャー弦が張ってありますね。今回は比較対象がないので、なかなか表現しづらいけど、“フラット弦らしさ”が出しやすい弦だと思いますよ。トマスティックの弦はテンションがとても緩いですけど、それに似た雰囲気は感じますね。ライヴよりもレコーディングに向いているかもしれません。いずれにしてもとても弾きやすい弦だと思います。
Pino Palladino StingRay Bass(フレットレス)


Pino Palladino StingRay Bass(フレットテッド)


Pino Palladino Signature Smoothie Flats Bass Strings










