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第7回:スティーヴィ・ワンダーの鍵盤ベース【ジョー・ダートの「レコードが僕に教えてくれたこと」】

  • Interview & Text:Shutaro Tsujimoto
  • Translation:Tommy Morley

ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のジョー・ダートがベーシストとしての“ルーツとなったアルバム”をテーマに毎回1作品を振り返る本連載(連載一覧はこちら)。第7回目となる今回は、スティーヴィ・ワンダーの『Songs in the Key of Life』を取り上げ、スティーヴィが鍵盤で奏でたベース・ラインから受けた影響を語ってくれた。

第7回:スティーヴィ・ワンダーSongs in the Key of Life』(1976年)

彼はキャッチーでフックのあるベース・ラインを作り出す名人でもあった。

スティーヴィ・ワンダーといえば、彼は鍵盤でベース・ラインを奏でる名手でもある。もちろん、僕自身も彼のシンセ・ベースから大きな影響を受けたよ。スティーヴィは自身のレコードで多くの曲でドラムとベースを自分で演奏しているんだけど、彼はリズム・セクションをうまくフィットさせる方法のお手本を示してくれていると思う。

彼がシンセ・ベースでプレイする、鍵盤でしか生み出せないような美しいポルタメントにすごく魅了されたんだ。それをエレキ・ベースに置きかえようとすることで、かなりクールなプレイができたしね。もちろん、エレキ・ベースでは完全に再現できないこともあるけれど、スティーヴィの音楽からは“規範にとらわれないアプローチ”を学んだ。それが僕自身にとってもエレキ・ベースの枠を超えた、新たなベース表現の可能性につながったんだよね。

スティーヴィの曲を聴くと、ベース・ラインが曲のなかで特に重要な役割を果たしていることを強く感じる。「I Wish」や「Superstition」を演奏しているとき、それを痛感するんだ。これらの曲ではシンセ・ベースのフレーズが際立っていて、多くの人の記憶に残るベース・ラインになっている。スティーヴィは偉大なソングライターであり、もちろん時代を超えたシンガーでもあるけれど、同時にキャッチーでフックのあるベース・ラインを作り出す名人でもあった。彼が左手から生み出すサウンドには、すべてのベースが学ぶべきだと思うくらい必要不可欠なものが潜んでいるよ。

僕はミシガン州のランシングで育ったんだけど、そこはモータウンの影響が根強く残っている場所。スティーヴィもミシガンで育っていて、彼の音楽にはその土地の文化が色濃く反映されていると思う。それが、このアルバムが僕にとって特別なものになっている理由のひとつでもある。両親がスティーヴィの大ファンで、僕が小さな頃に家で『Songs in the Key of Life』をずっと家でかけっぱなしにしてくれていたことを感謝しているよ。うちには60年代後半から70年代にかけての彼のほぼすべてのアルバムが揃っていたんだ。

それからもちろん、彼の音楽からはゴスペル的な要素がある。モータウンやスタックスのレコードにはゴスペルからの影響を感じるものがけっこうあるよね。60年代のゴスペルも聴いていたけど、その影響がモータウンにおよんでいたのはすぐに分かったよ。自分自身も20歳や21歳の頃に教会でゴスペルを演奏していたんだけど、そこで気づいたのは、ファンクやソウル、R&Bといった音楽がすべてゴスペルから来ているってことなんだ。僕はスティーヴィや、ほかにもマーヴィン・ゲイ、アレサ・フランクリンの音楽からもゴスペルを受け取っていたから、ゴスペルにスッと入ることができた。彼らに助かられたんだ。ゴスペルのなかにはラジオでかかることがなくて知らなかった曲もあったけど、スティーヴィはそれを自分なりに吸収して大衆に広めたという功績があると思う。

自分の深いところに根付いたものを多くの人が受け入れやすいように咀嚼して広めるというのは、ミュージシャンにできる重要な役割だと僕は思っている。スティーヴィの声はポピュラー音楽の歴史のなかでも最も多くの人に認知されているもののひとつであり、僕も含めた多くの人がその声を通じてゴスペルに触れることができた。そういうことも彼が生み出す音楽の普遍性につながっていると思うよ。

作品解説

スティーヴィ・ワンダーSongs in the Key of Life
(1976年)

シンセ・ベースが際立つ2枚組の大作アルバム

スティーヴィ・ワンダーの18作目のスタジオ・アルバムで、2枚組のLPと『A Something’s Extra』と題された4曲入りEPも付属した大作。「Isn’t She Lovely」、「Sir Duke」、「I Wish」といった彼の代表曲を収録し、ジャズ、R&B、ファンク、ソウル、ゴスペルなど幅広いスタイルを網羅する。スティーヴィ自身がシンセ・ベースを担当している曲も多いが、1970年代から長年彼のバンドでベーシストを務めるネイザン・ワッツが「Sir Duke」や「I Wish」でエレキ・ベースを担当。『ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選(2020年改訂版)』では4位にランクインしているポップス史を代表する名盤だ。

【Profile】
ジョー・ダート●1991年4月18日、米国ミシガン出身。幼少の頃からアース・ウインド&ファイヤーやタワー・オブ・パワーといったストレートアヘッドなファンク・ミュージックに傾倒する。ベースは7、8歳頃に弾き始め、中学では学校のジャズ・バンドに参加、その後ミシガン音楽大学に入学し、ヴルフペックのメンバーと出会った。2011年に結成されたヴルフペックはロサンゼルスを拠点に活動し、トラディショナルなブラック・ミュージックを現代的にアップデートするミニマル・ファンク・バンド。

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