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生身の躍動を感じさせる
一期一会のベース・ライン
2018年の1stフル・アルバム発表とフジロックの新人ステージ“ROOKIE A GO GO”への出演から約4年。その間も7ヵ月連続での配信シングル・リリースなど積極的な活動を行なってきたpaioniaが、2ndフル・アルバム『Pre Normal』を完成させた。そんな彼らの近年の動向だけを聞くと、まるで新人バンドのキャリアのようにも聞こえるが、福島県出身の菅野岳大と高橋勇成(vo,g)がゆらゆら帝国の楽曲名にちなんで自らのバンドに“パイオニア”と名付けたのは2008年のこと。13年以上にわたるキャリアのなかで彼らが追求してきた愚直なロック・サウンドは、アルバム冒頭の「人の瀬」からその極致を更新するなど今作でさらなる繊細さや冒険精神とともに飛躍を遂げた。菅野のベースも、ダブ的なリズムを取り入れるなど前作以上に多彩なアプローチを聴かせている。“その場で起こることを大事にしている”と語り、即興的にフレーズを組み立てていく彼の自由で感覚的なスタイルを形容するならば、まさに“生きたベース”。そんな菅野に、今作でのプレイについてはもちろん、今回BM初登場ということでルーツについての話も含めてじっくりと話を聞いた。
その場で出てくるものを大事にしている。
──1stアルバム『白書』のリリースやフジロックへのルーキー枠での出演など、paioniaが躍進したのが2018年。そこから約4年を経て今回2ndアルバムがリリースされました。今作は菅野さんにとってどんな作品になりましたか?
なんだろうなぁ……。もちろん今までどおりのやり方で作った曲もたくさんあるんですけど、今回は今までやったことのない方法を試したり、新しい経験ができた作品になったと思います。「黒いギター」という曲では、ほかのバンドのベーシストにベース・ラインを作ってもらうということをやってみたり、そういうのは新しかったですね。
──今回、全曲でサポート・ドラマーを務めている佐藤謙介さん(編注:踊ってばかりの国の元メンバーで、現在はパスピエや井乃頭蓄音団などのサポート・ドラマーとしても活躍)は、それこそ2018年のフジロック辺りからpaioniaで叩いていますよね。以降、たくさんのライヴ活動もともにしてきたと思いますが、リズム体のパートナーとしての佐藤さんの存在もその“新しさ”につながったんじゃないですか?
本当にそうですね。前のアルバムでのドラマーだった、plentyやthe cabsで叩いていた中村一太くんの場合は“彼は彼で好きなように叩く”という感じで、それはそれで緊張感があって良かったんですけど、謙さんがドラムになってからはいい意味でユルくなった感じがするというか。すごく気をつかってくれるプレイヤー、とも言えるかもしれませんね。
──“ドラムに合わせにいこう”とするのではなく、ベースがより自由に弾けるようになった感じですか? ドラムがベースの音をよく聴いてくれているというか。
そうだと思います。なんだろう、人柄もあるのかな。でも当たり前ですけど、やっぱり人によって違うなとは感じました。いずれにせよ、今回のアルバムは謙さんの貢献がすごく大きかったと思います。
──佐藤さんとは、リズムについて言語化して話し合ったりもするんですか?
僕からはあまりしないというか、できないとも言えるんですけど……(笑)。でも「今にとって」ではドラム、特にバスドラとの兼ね合いについて謙さんとけっこう話しましたね。隙間がすごくある曲なので、あれは取り組むのが難しかった。
──最初はロング・トーンを生かしたフレーズだったのが、後半になるにつれて4分、8分と段々細かくリズムを刻む場面も増えてくるという、ストーリー性あるベースのフレーズ・メイクも良かったです。
ありがとうございます。そういうことを意識したのは初めてだったというか、この曲で覚えたことのような気がしますね。
──そもそもの話ですが、paioniaの曲作りのプロセスってどういう感じなんでしょう?
高橋(勇成/vo,g)くんが弾き語りのデモを作ってくれて、それをスタジオでバンドでやってみるって感じですね。
──スタジオで合わせる前に、“こういう風にベースを弾こう”ってあらかじめ考えるほうですか?
基本は一緒に音を出しながら考えます。その場で出てくるものを大事にしているというか、音源で聴くよりスタジオに入って聴いたほうが歌のメロディとかが入ってくるんですよね。
──確かに菅野さんには“即興で弾く人”というイメージがあるので、納得です。音源とライヴでは全然違うベース・ラインを弾いたりしていますよね?
確かにライヴでもレコーディングでも、弾くフレーズは決めていないことが多いです(笑)。それって不誠実かなと思うこともあるんですけど、でもそのときそのときで弾くほうが音楽的な気がすると思うところがあって、続けてますね。曲がいいとある程度好きにやってもハマるんじゃないかと思ってるので、曲のおかげですよね。
──逆に、弾くフレーズを全部決め込んでいる曲もあるんですか?
テンポの速い曲とかは、弾くのが大変なので自ずと決まってくるというのはありますけど、paioniaにはそういう曲はあんまりないんですよね。自由度が高い曲が多いです。
──とはいえ、歌メロやコード進行がしっかりしている曲のなかで即興的にベース・ラインを組み立てていくことは簡単ではないと思います。スケールやコードの構成音など、けっこう頭のなかで考えながらプレイしているのでしょうか?
そういうのをちゃんと勉強したことはないんですけど、長くこういう弾き方を続けてると、“ここの音は良くてここはダメなんだな”っていうのがわかってくるので、そのなかで好きにやるって感じなんですよ(笑)。でもちゃんと勉強したほうが楽しそうですよね……。
──そういったインプロヴィゼーション的な演奏スタイルは自然と身についていった感じですか?
僕の場合、高校からベースを始めたんですけど、当時バンドを組む人がいなくて家でひとりで弾いていた時期が長いんです。そうするとメロディもコードもベースで弾くしかないじゃないですか? 今振り返ると、そこでの体験が大きいのかなって思いますね。
──菅野さんはベースで動き回ることができる一方で、「小さな掌」や「鏡には真反対」ではルートで支えるようなプレイもしていますが、この辺りにはどういう判断があったんですか?
「鏡には真反対」はテンポがちょっと速いからっていうのもあるんですけど、体調とか精神的な要素もありますね。
──なるほど。ルート弾きのときは体調は?
あんまり良くないかな、みたいな……(笑)。
──体調次第で、同じ曲でもライヴでは動き回ってる可能性もありますか?(笑)
そうですね、「鏡には真反対」はライヴではすごい動いてるような気がします。