PLAYER
メンバーを一番カッコよくできるのは俺だと
自信を持って言える
国内のオルタナ・シーンを牽引するcinema staffが11月3日、オリジナル・アルバムとしては実に約4年半ぶりとなる7th作『海底より愛を込めて』を発表した。彼らの代名詞とも言える轟音オルタナティブ・サウンドに加え、多彩なエフェクト/同期音を取り入れた新たなバンドの音像からは、彼らの4年半の成果を確かに感じ取ることができる。ベーシストであると同時にメイン・コンポーザーとしてバンドの中核を担う三島想平は、今作に何を込め、何をリスナーに伝えたかったのか。コロナ禍を経て見出したという、彼らの“真価”に迫っていこう。
音作りに関しては……ちょっとやり過ぎたかなと(笑)。
――今作『海底より愛を込めて』は前作から4年半の期間が空きましたね。2019年にはベスト・アルバムのリリースもありましたが、この間バンドとしてはどういった動きをしていたんですか?
前作の『熱源』までは一年に一枚ずつ、4年連続でアルバムを出していたんですけど、ちょっとペースを変えてみようか、という話になって。そこで一度ベスト盤を出して仕切り直すことにしたんです。それもあって、ベスト盤を出したあとは音源の発表というよりは、ライヴをメインに動いてましたね。ただ、今思えばちょっとオーバーペース気味だったかな……とも思っています。
――cinema staffといえば“ライヴ・バンド”というイメージもあるのですが、バンドとしてコロナ禍をどのように捉えていましたか?
いやー、もうどうしたもんかって感じでしたよね。特にライヴのスケジュールを丸々キャンセルせざるをえない期間のときは、それはもう落ち込みましたよ。この先、将来どうしたらいいのかって本気で考えたし、僕と辻(友貴/g)なんかは特に落ち込んで今後食えなくなるのかな、とか考えたり。就職情報誌とかも読んでましたから(笑)。
――えええ、就職情報誌を読むところまで追い詰められていたんですか……?
昨年の4月5月とかはマジで読んでましたよ(笑)。マジでそういう生き方も探りましたし、昨年の上半期とかは本当に苦しい期間でした。だから今作を作り上げるまでは気持ち的にも本当にツラかったですね。
――では今作の制作はいつ頃から、コロナ禍でどのような過程で進めていったんですか?
昨年10月くらいにきっかけとなる打ち合わせをして、そこからですね。制作過程としては特に変わらずなんですけど、『熱源』のタイミングから基本的に僕が作ったデモ音源を基盤に曲作りする形になっていて、今作では僕のデモの占める割合がより大きくなりました。今作ではプロデューサーとして竹内亮太郎さんに入っていただいたんですけど、それもバンドとして大きかったなと思いますね。
――cinema staffの録音はすべて一発録りという話を以前聞いたことがあるのですが、今作でも一発録りですか?
よくご存知で(笑)。20代後半ぐらいまでは一発で録ってましたね。でも一発で録れるスタジオが押さえられなかったり、メリット、デメリットを考えたとき、結局一個一個詰めていったほうが早いということに気づいて(笑)。だからその時期を経て、『熱源』からはパートごとに丁寧に仕上げていくスタイルになっています。
――タイトルにもある“愛を込めて”というワードからもメッセージの強さを感じますが、メイン・コンポーザーである三島さんとして、今作にはどんな思いを込めたのですか?
まず1曲目が「海底」という曲で始まるんですけど、今のコロナ禍を海底に落ちたと捉えて、ここから浮上をしていく感じ、上がっていく感じを作品で表現しています。加えて、“コロナ禍でも俺たちのできることはまだたくさんある、そしていつか地上へ出よう”というメッセージも込めていて、そのメッセージを“愛”と捉えているんです。
――1曲目の「海底」、2曲目の「I melted into the Void」とcinema staffらしさが存分に出たオルタナ・サウンドですね。「I melted into the Void」のアタマのベース・ソロはかなりハイゲインに歪んでいますが、音作りはどのように?
まずこの曲は手グセと最近やってるcinama staff以外の仕事とのハイブリッドな感じですね。音作りに関しては……ちょっとやり過ぎたかなと(笑)。これはEmpress EffectsのHEAVYというディストーション・ペダルをかけっぱなしにしています。アタマのソロ部分はJBとPBの2本のベース音をミックスしていて、レコーディング・マジックも入っているんです。普段ここまで素の音を歪ませて録ることはないんですけど、この曲は本当に芯から歪んでいて、今までで一番ベースが歪んでいる曲かもしれませんね。
――ザクザクとした、ダウン・ピッキングの力強さがリスナー側にも伝わってきます。
いやー嬉しいですね。普段はダウン・ピッキングでナチュラルに歪ませるやり方が多いんですけど、この曲はピッキングにプラスして強い歪みをエフェクトで作っていますからね。個人的には結構珍しいと思います。
――轟音アンサンブルかつ歪んでいながらも、細かくオクターヴを挟んだり、Cメロでのメロディアスなフィルなど、各所で印象的なフレーズがありますね。
この曲はギターのリフとリフとが組み合わさってできている曲なので、それに対してベースでどうアプローチしていくかを考えました。だからフックとしてスパイス的にベースの動きを入れていて、自分としては遊びを入れた感覚なんです。イメージとしてはベースを聴かせるというよりは、フレーズのアップ/ダウンのメリハリを重視したラインになってますね。
▼ 続きは次ページへ ▼