SPECIAL
UP
プロのベース練習、覗いてみた。– 第5回:井澤惇(LITE / JunIzawa / CONTRASTZ)
- 取材:伊藤大輔
- 撮影:小原啓樹
- デザイン(ロゴ):猪野麻梨奈
- Presented by Positive Grid
プロのミュージシャンは、どんな練習を積み重ねてきたのか?──本連載では毎回、異なるベーシストに登場いただき、自身の練習遍歴や現在のルーティンについて語ってもらう。
今回登場するのは、インスト・ロック・バンドLITEのベーシストとして活動し、JunIzawa名義でのソロ作や、GLAYのJIROとのベース・デュオCONTRASTZでも存在感を放ち、『ベース・マガジン2025年11月号』では表紙も飾った井澤惇。
LITEのストイックなグルーヴを支える“練習”の裏側から、愛用する教本、クリック練習の哲学まで、幅広く語ってもらった。さらに、話題の多機能型スマート・ヘッドフォン Positive Grid “Spark NEO”も試奏してもらい、そのインプレッションと活用法についても聞いている。
目次
・井澤惇が語る、プロ・ベーシストの“自宅練習”
・井澤惇 × Positive Grid “Spark NEO”
井澤惇が語るプロ・ベーシストの“練習”

毎日の練習が体調のサインにもなるんです。たぶんこれ、誰でも同じことをずっと続けると、わかることだと思っています。
——井澤さんがベースを始めた頃によくやっていた練習について教えてください。
僕がベースをはじめた中学生の頃、ベース・マガジンを毎月買っていて、そこに載っているものを片っ端から弾いていました。スコアの曲を聴くために、当時はCDをレンタルしてベーマガの譜面を見ながら弾いていましたね。それでGLAYのこともも知ったんです。
——自分で選り好みをせず、何でも弾いてたんですね。
例えば聴いてピンとこないときでも“僕が音楽に未熟だから、良さがわからないんだ”と思っていました。当時のベーマガにガンズ・アンド・ローゼズの『Appetite for Destruction』(1987年)が名盤として取り上げられていたのでCDを買ってきたんです。
で、聴いてみたらアクセル・ローズのハイトーン・ヴォイスが当時は苦手で……でも“僕が悪いんだ”と思い、毎夜アルバムを聴くうちに大好きになって、学校でガンズの布教活動をするようになりました(笑)。そうやって音楽の幅を広げてもらったのもベーマガのおかげですね。
——その頃によく弾いていた練習フレーズはありますか?
僕が高校生の頃にベーマガから発売された教則本『究極のベース練習帳』(2000年刊行)ですね。この本に載っていたフレーズを今でも弾いています。1フレット・1フィンガーで4弦の1f-2f-3f-4f(※ f=フレット)、同じポジジョンで3弦~1弦と上昇したらそのまま下降する。

次に同じく4弦1f-3f-2f-4f、1f-4f-2f-3f、1f-2f-4f-3fからはじまるローテーションです。これをBPM80でアクセントのないクリックを鳴らしながら、16分、16分ウラ、あとは4つの音のそれぞれにクリックのアクセントがくるように弾く練習をずっと続けています。
そうするとたまに“遅れたり・ハシったりするな”っていうことがあり、そういうときはだいたい翌日に風邪を引いたりします。なので、毎日の練習が体調のサインにもなるんです。たぶんこれ、誰でも同じことをずっと続けると、わかることだと思っています。
——同じ練習をずっと継続しているのはすごいことですし、今では自分の体調のバロメーターにもなっているんですね。BPMが80なのはどうしてですか?
なんでだろう。教則本は66BPMになっていますが、80が自分的にはちょうど良い早さだったんですよね。80だと倍で弾いたとしても、指をしっかりと弦にひっかけられる早さなんです。この練習をライヴ前に1回はやって身体を暖めていますね。
“クリックだけを意識しない”ことが大事だと思っています。

——クリック練習はリズムに特化した内容ですが、リズムを意識するようになったきっかけは何でしたか?
LITEに加入する以前の僕はポップスをやっていて、R&Bとかファンクっぽい演奏していました。その頃からベースがストップ(音を止める)させることがカッコいいなと思っていて。その頃から音を止める・伸ばすという意識はけっこうありました。
——それでLITEではよりフィジカルな練習が増えていったと。
そうですね。その頃は僕ももっと複雑な音楽に興味がありました。あと、フィジカルな練習はLITEというバンドの特性も関係していて、“タイトな演奏”というのが僕らなりのエンターテイメントだったんです。僕らが活動をはじめた頃はインストのロック系のバンドはまだ全然いなくて、そんななかで歌がなくて演奏だけで聴かせるバンドを観た人に“カッコいい”って思わせるには、やっぱり“そんな複雑なところをピッタリ合せられるんだ”っていう演奏ができないとダメだってことになって。
それからバンドでクリック練習をするようになりました。当時はお金もなかったからスタジオの深夜パックなどで、夜通し1曲だけをクリックを鳴らしながら曲を練習して、そのあとで鳴らさずに曲を弾いて、というのをずっと繰り返していました。
——それはストイックなやり方ですね。
その頃にLITEは練習をし過ぎていたので、今ではあんまり練習はやらないですね。あとクリック練習には持論があって、“クリックだけを意識しない”ことが大事だと思っています。
——その理由を教えてもらえますか?
例えばクリック練習するときは、テレビを観ながらそのなかで鳴っているクリックに弾いている演奏が自然と合っているというのが理想です。クリックを聴きながらほかのことができるのが大事で。なぜならクリックだけを聴くとハシったりモタったりする意識に囚われてしまい、それだと良い結果になりません。
バンドでベースを弾くときも、ドラムだけを聴いているわけじゃないですよね。バンドのサウンドにはリズムだけじゃなくてベースには音程もあるし、ほかにもヴォーカルが歌いやすいかどうかを意識したりと、もっと客観的な視点が必要になります。なので、クリック練習のときからそういう意識が大事ですよね。

——なるほど、バンドでの演奏を想定した意識ということですね。井澤さんはそういった練習で徹底的にフィジカル面を鍛え上げたわけですが、基礎力があがったことで、次に見えてきた課題はありましたか?
練習のおかげでベーシストとして演奏力に自信はつきましたが、曲作りをメンバーに任せているのが申し訳ないと思うようになりました。確かにフィジカルだけを鍛えていたので、自分のなかから出せるフレーズも決まりきったものになっていたし、今思えば演奏力と比較して音程を判断する耳が発達していない状態でした。それから自分でも曲を作るようになって、それと同時に理論も学びながら、耳も養っていきました。
——次の段階では、作曲が練習になっていったんですね。
そうですね。今は基礎練習をするのはライヴやリハーサルの前、あとは普段ベースの先生もしているので、そのときに僕も一緒に基礎練をやっています。ですから、家にいるときは曲作りがベースの練習です。作曲ではベースを録音するから、自分のタイム感をリズムに対して“前にしたいのか、うしろにしたいのか”という明確なイメージが生まれてきます。
もちろん曲作りでは“ジャスト=正解”というわけでもないので、タイム感や音の長さを自分でアレンジしながら弾くこと自体が練習になります。あとは録ったものを聴き返すことで、自分がイメージするタイム感に合っているか、思った通りにいかないのなら、そこが苦手なポイントだとわかり、客観的な判断ができます。それを踏まえて演奏を微調整をしていくのも練習になりますね。
——現在の井澤さんにとって、ベースの上達に必要なことは何だと思いますか?
練習やスキルアップの観点と少し違うかもしれませんが、今はほかのベーシストと関わることが大事だなと。僕は去年まで専門学校でベースの講師をしていて、今年からは個人でベースを教えていたりもしますが、ほかの人のベースの演奏を直接観ることが自分にとって一番の勉強になるなと思っています。
音源で聴くのとは違って、生で聴くからこそ伝わるニュアンスがあります。そうやっていろんな世代のベーシストと関わることで、弾き方はもちろん、影響を受けた音楽や表現方法などに発見があって、いろんなことを吸収できます。そうやって柔軟な姿勢を持つことで自分の演奏や考えに固執しにくくなると思うんです。それが今の自分にとっては大事なことだと思います。
井澤惇 × Positive Grid “Spark NEO”
スマート・アンプでおなじみのPositive Gridが手がけたSpark NEOは、ヘッドフォン・スタイルで自宅練習の自由度を大きく広げてくれる注目アイテムだ。Spark NEOを使った“練習”の可能性について、井澤に聞いた。

遮音性も高いからライヴ前の楽屋のようなざわついた空間でも集中できそうです。

これ、めっちゃいいですよ。なんて言うか、楽しいから集中して練習できます。遮音性も高いからヘッドフォンを着けてすぐに練習モードになれるし、弾いていたらあっという間に時間が経っていました。
音はアンプを鳴らしているような距離間があり、ちょうど良いです。ヘッドフォンってベースの音が近すぎると、音程が取りづらくなることもありますけど、これは“聴きやすい”からベースも演奏しやすいです。レイテンシーは全然感じなくてジャストで弾けますね。
エフェクターはコンプレッサーを使ってみましたが、気持ちよく聴けました。僕はタッピングやハーモニックスを鳴らすときにコンプを使いますが、その感じもちゃんと再現できました。モデリングしているアンプは名機的なものが多く、僕の世代にとっては“懐かしいな”と感じますね。ギター・アンプは今でも充分すぎるほど搭載されていますが、今後世界中のあらゆるアンプを網羅するくらいになってくれたら嬉しいですね。

アプリは練習用の機能が豊富で、クリック練習もできるし、あとスケール練習もできます。Sparkアプリの“音楽”タブにはいろんなジャンルのベース抜きのコード譜があるので、まずは曲のキーを見ながらペンタトニックとか、ダイナトニック・コードで合わせられる音を探ったりするのも良いですね。即興演奏に近い感覚の練習ができます。

僕が使ってみたいなと思ったのは、まずライヴ直前の基礎練習です。メカニカルな運指エクササイズをクリックに合わせて弾きたいときも、ヘッドホンからベースの音とクリックの両方が聴こえるのですごく便利です。生音でベースを弾くと“カチャカチャ”鳴るだけなので、ベースの“アタック音がクリックに合っているか”は判断できるものの、“音がどこまで伸びているか”は生音だけではわからない。そういうときにSparkがあれば、そうやって鳴らせる環境を簡単に外に持ち出せるので良いですね。
あと、練習だけじゃなくてレコーディング前の音作りのリハーサルにも向くと思います。例えば自宅でベース・ラインを作って練習して、レコーディングの本番前にどれくらいコンプをかけたら、音がヌケるかを、Sparkアプリのエフェクターも使ってイメージをしておけば、本番でいざ実機を使うときにも微調整で済むと思います。
あとはSparkのヘッドフォンと外部のアプリを一緒に使うことができるのも拡張性に優れたポイントだと思います。Sparkアプリを起動しながら、普通にほかのアプリを起動することができるので。例えば、クリック練習でも裏アクセントや3連など、複雑な練習するときには別のクリック専用アプリを使ったり、あとはマイナスワンのトラックを生成するアプリ“moises”などを使えば、ライヴ・サポートの仕事で曲を覚えるときにもすごく重宝できると思います。







◎Profile
井澤惇(いざわ・じゅん)●LITEのベーシストとして世界各地で演奏。2021年以降は“JunIzawa”名義のソロ活動を本格化し、IDM/エレクトロ/オルタナティブ/ポップの要素を数学的に組み上げたサウンドを探求している。構造と情感のあいだを往復しながら常に更新され続ける音像は、聴き手に新しい感覚を開く。GLAYのJIROと結成したツイン・ベース・バンド“CONTRASTZ”では、対照的なルーツを交差させ、会話のようなアンサンブルから新たなグルーヴと解釈を描き出す。
◎Information
X Instagram
◎ 新製品ニュース!
ケーブル1本で接続! 新ヘッドフォン“Spark NEO Core”が登場。
Positive Grid “Spark”シリーズに、有線ヘッドフォンの新モデル“Spark NEO Core”が追加された。標準的な1/4インチ・ケーブルを楽器から直接挿すだけで、内蔵されたSparkの高機能なギター/ベース・アンプをそのまま利用できる、“ワイヤレスより有線派”のユーザーには嬉しいモデルだ。価格もSpark NEOに比べて手頃な26,400円(税込)に設定されている。

製品詳細
Positive Grid / Spark NEO
Positive Grid / Spark NEO Core
▼ Positive Grid “Spark NEO”の紹介記事はこちら ▼
▼ 連載の過去回はこちら ▼
ベース・マガジンのInstagramアカウントができました。フォロー、いいね、よろしくお願いします!→Instagram


