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INTERVIEW – 山本慶幸[トリプルファイヤー]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto

鳥居くんはほかの人よりもかなり細かいところまで見えているので、“それは怒られるよな”と思いながらやってます。

━━トリプルファイヤーの楽曲のベース・ラインは、すべてコンポーザーの鳥居さんが作るんですか?

 基本的に、鳥居くんが作るデモの段階ですでにベース・ラインはできています。

━━MIDIの打ち込みではなく、手で弾いたベースがデモに入っているんですか?

 そうですね。あとは参考音源とかプレイリストをどんどん送ってきてくれます。とりあえずそれをいっぱい聴いてベース・ラインを弾けるように準備して、スタジオで合わせながら“もっとこういう感じにしてくれ”と指摘されたところを直していく感じです。

━━今作では具体的にどんな指摘をされましたか?

 リズムで指摘されたのは「ユニバーサルカルマ」ですね。リズムのパターンが複雑で、スタジオでよく怒られた記憶があります。

━━怒られるんですね(笑)。

 鳥居くんはほかの人よりもかなり細かいところまで見えているので、“それは怒られるよな”と思いながらやっています。感覚としては、ほかの3人と鳥居くんではモザイクと4Kくらい見えているものが違う。

━━例えば、ゴーストノートのニュアンスとか、音符の長さとか、そういうレベルの話ですか?

 そうですね。音価とか。そういうのは鳥居くんがデモの時点で緻密にやっていることだから、“デモをちゃんと聴いてこい”と。

━━アレンジはデモの時点で完成されているとのことですが、スタジオで合わせることで何かが新しく生まれることもありますか?

 ほとんどないですね。でも別にマシーンのようにこき使われてるって感じでもなくて……何だろうな、逆にそこまでちゃんとデモどおりの演奏をやることで、初めて“その人たちがやっているもの”になってくるところがあるというか。

━━今作で山本さんらしいテイストが出せたな、という曲を挙げるとすると?

 例えば「BAR」はプレベを使ったんですけど、フラット・ワウンド弦を張ってミュートして、ぶん殴るようにというか、力を入れて弾いたときのスピード感がこの曲に合うだろうなと思ったので、そういうところを意識しました。細かい弾き方とかニュアンスである程度は自分のイメージを出せるかなとは思っていて。

━━ピッキングについては、普段どんなことを意識していますか?

 “音がもっさりしている”と鳥居くんによく怒られるので、アタックや音の立ち上がりを意識していますけど、まだまだ、もっと強く弾いてもいいのかなと思いながらやっています。今でもスタジオでいろいろ実験していて、ミュートのスポンジを付けたりハズしたり、弾く強さを変えてみたり……でも最近は、やっぱりプレベはパワフルに弾いたほうが良い音が出る楽器だなと、いろいろ試すなかで思っています。

━━“パワフルに弾く”とは、具体的にはどういうことですか?

 指を振り抜くスピードを上げることですかね。ただただ力強く弾いても良い音はしないので。でもプレベにフラット・ワウンド弦を張ったベースだとその加減が難しいなと思いながら、いまだに試行錯誤している感じです。

━━ベースは日々どのような練習をしていますか?

 そのときによりますね。今作のレコーディングの前、コロナで家から出られない期間があったじゃないですか? その頃は暇だったので、家でベースとドラムのリズム譜を書いてました。“どこまで音を伸ばして、どこで休む”みたいなのを視覚化しようと。

━━アルバム全曲ですか?

 そうだったと思います。これをやると、ほかの楽器が何をやってるのかの解像度も上がっていいですね。スタジオで鳥居くんが“ここのドラムおかしくない?”みたいな指摘をしたときに、“2拍目のウラのハイハットのことだよね”みたいなのがすぐに理解できるようになりました。

━━ちなみに普段、演奏中はドラムの音をよく聴いていますか? それともギターでしょうか? トリプルファイヤーのギターは常にカッティングを刻んでいるので、リズム楽器という印象があります。

 もちろんドラムは聴くんですけど、最近は返しのギターの音をどんどん大きくするのを試しています。やっぱりステージ上で聴こえている音が寂しいとどんどん不安になっていくので、ギターがやかましく鳴っているくらいのほうが演奏がラクなんです。鳥居くんのギターはやっぱりリズムも正確なので。

━━鳥居さんのソングライティングに関して、過去作と今作ではどのような違いがあると思いますか?

 前作の『FIRE』から曲がパーカッションが入ってきたり複雑になっていったのですが、当時は鳥居くん以外の3人が完全にはついていけなかったなというのがありました。鳥居くんも“こういう感じならできるかな?”というのを踏まえて曲を作っていたのかなと思います。でも今回は3人のできることも増えて、もっとしっくり来るというか、ちゃんとバンドとしてハマった気がしています。

━━本作の細かいプレイでいうと「シルバースタッフ」のベース・リフが印象的でした。2音目の絶妙なタイミングやピッチ、細かいゴーストノートの挟み方もすごく緻密に演奏されているなと。

 あの曲こそ音価についてめちゃくちゃ言われた気がしますね。ギターとのかけ合いみたいになっているので、“ここでちゃんとベースがいなくならないと、全部ぶち壊しになるだろう”みたいなことは鳥居くんにすごく言われた記憶があります。

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