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    INTERVIEW – 高木祥太[BREIMEN]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Yoshika Horita

    シーンのキーマンが今明かす
    ベーシストとしての現状

    セッションを軸とした生々しいバンド・サウンドと、精緻なポスト・プロダクションで独自の世界観を作り上げるBREIMEN。メンバーそれぞれが数多くの有名アーティストのサポートを務めるなど確かな演奏力を有すこの実力派集団を率いるのが、ベース・ヴォーカリストで作詞作曲も務める高木祥太だ。前作から約1年ぶりとなるニュー・アルバム『FICTION』で、彼らは合宿レコーディングという環境のなか、いくつかのコンセプトと制約を掲げながら制作に取り組んだという。それらがどのように彼らのクリエイティビティを刺激したのか。“一切の後悔がない”と語る今作について、存分に語ってもらった。バンド外でも、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)と井口理(King Gnu)のコラボ楽曲を作詞作曲、プロデュースするなど、多忙を極める高木の今に迫る。

    発売中のベース・マガジン2022年8月号にも高木のインタビューを掲載! Bass Magazine webとは違った内容でお届けします!

    全部の工程で凄まじい進化があった。

    ━━今作はソングライティング、アレンジ、演奏、ポスト・プロダクションと、どれを取っても練りに練られた作品という印象です。合宿で制作を行なったそうですが、その環境も大きかったのでしょうか?

     今回は日数にしたら多分合計で1ヵ月半くらい、プリプロから数回に分けて山中湖のほうのスタジオに入って合宿みたいな形で制作したんですけど、みんなで “めちゃくちゃ時間をかけよう”っていうつもりでやりました。ドラムの音作りひとつに4時間くらい使ったり(笑)、本当に妥協が一個もなかったです。ベースにしてもそうですけど、楽器は音作りでめちゃくちゃ変わるっていうのを特に今回すごく感じたし、サクッと録ろうっていう感じじゃなくて、やりたいことをみんなでいろいろ実験してみようっていうテンション感で。その分、エンジニアの(佐々木)優さん泣かせではありましたけどね……。俺もほとんど寝てなかったですけど、彼だけは本当に“いつ休憩してるんだろう”っていうくらいで。

    ━━前作までと比較しても、今回は音の加工やミックス処理への並々ならぬこだわりを感じたのですが、ポスト・プロダクションはどのように進みましたか? それこそエンジニアの佐々木さんの貢献が大きい部分かと思いますが。

     ポスプロ(ポスト・プロダクション)は、もう大喜利みたいな感じですかね(笑)。それぞれがもともと持っていたアイディアもあったけど、基本的にはその場でアイディアを出し合いながらセッションが起きているような感じ。今回の制作を通して思ったのは、プリプロから、音作り、レコーディング、ポスプロと、全部の工程で凄まじい進化があったということなんです。全工程でセッションが繰り広げられてるような感じ。チューニングをちゃんとやって、しっかり音を作るとやっぱりプレイの内容もよくなるし、ポスプロも、単なるミックスじゃなくて、“スネアを左にしない?”とか、その場で誰かが思いついたフラッシュ・アイディアを試し合うようなイメージで。時間がカツカツで余白がない状態だと生まれないような、“妥協なくやろう”っていうムードにみんながなっていたし、自分たちのスタンダードがどんどん上がっていくような感覚もありました。

    ━━とことん詰められる環境があるのは素晴らしいことですが、一方で、集中力を保つための努力も必要だったりしますか?

     そうですね。自分自身、集中するとガッと入っちゃうタイプで、過去作のミックスでは、次の日何もできないくらい疲れちゃったこともあったので、今回は抜けるところは抜いて長く集中しようと思ってました。全工程にガッツリ入るんじゃなくて、例えばドラムの音作りは1回完全に任せてみるとか、自分は漫画を読みながらほかの人の作業を盗み聞きみたいな感じで軽く聞くだけにするとか。まぁでも何だかんだ、俺が曲の全体像を見る役割ではあるので、ベースとヴォーカル以外の楽器に対しても“ここをこうしたら?”みたいなことを、アイディアがあるときには言ってはいましたけどね。

    左から、いけだゆうた(k)、サトウカツシロ(g)、
    高木祥太、ジョージ林(sax)、So Kanno(d)。
    『FICTION』
    SPACE SHOWER MUSIC/PECF-3272

    ━━逆に、例えばポスト・プロダクションの場面でベースに関してほかのメンバーからアイディアをもらうこともあるんですか?

     例えば、「苦楽ララ」のベースの音の処理とかはそうでしたね。ここ数年、ある一時期から“日本の音楽には全然ローがない”みたいな話をよく聞くようになったじゃないですか? 俺も今っぽいロー感みたいなものは大事にしているので、この曲でも、もともとサビではサブ・ベースみたいなシンベとエレキ・ベースの両方を鳴らしてローをすごい出してたんです。でも、So(Kanno/d)ちゃんが、“この曲は、そんなにローなくてもいいんじゃない?”っていう話をしてくれて。それで、サブを抜いて下の帯域をひき締めて、もっと点的なアプローチをしていく方向でいくことになったんです。ローに関しては、最近はそうやって一周回った考え方をすることも多くて。

    ━━特にそのあたりは、ドラマーとの擦り合わせは重要になってきますよね。

     今って、先入観的に“下の帯域を出せるだけ出す”のがいいって思っちゃうことも多いと思うんですけど、それってやっぱりシンベじゃないと出せない帯域で。エレベのおいしいローって、多分そこよりもう少し上なんですよ。だから、「苦楽ララ」ではエレベのロー感を大事にして、その分バス・ドラムの重心をもうちょっと下にしています。やっぱりベースとドラムは相互作用で考えたほうがいいから、Soちゃんが“こういうドラムの音にしたい”って言ったら、ベースのレンジについて考え直すことはありますね。

    ━━エンジニアの佐々木さんが施してくれた処理で、気に入っているベースの音作りはありますか?

     「チャプター」で、プリプロのときに優さんがテキトウに選んでくれたプラグインのワウがヴァイオリン・ベースにめちゃくちゃいい感じでハマりましたね。あと、この曲は空間の処理自体がすごいんですよ。ヴォーカルがステレオに開いていて真ん中にいないし、ベースもシンベだけは真ん中にいるけどヴァイオリン・ベースはステレオに開いていて。イヤフォンとかで聴くとわかるんですけど、ヘンな浮き方をしているように聴こえるのがすごくおもしろいです。

    ━━ベースのレコーディング自体は、どういう機材環境で行なったんですか?

     アンプは使わずに全部ラインで録っています。俺もB-15N(アンペグ製)欲しいなとか思うことはありますけど、前作もそうですし、けっこう全部ライン録りでいっちゃうことが多いです。今回のレコーディングは基本的に全部一発録りだったということもあって、回線数的に足りなかったり、アンプまで入れるブースが足りなかったという理由もありますね。

    ━━エンジニアさんとの密な関係があるからこそ、アンプで音を作らなくても、ミックスの段階でラインの音をじっくり作り込めるというのもありますか?

     そうですね。ギター・アンプって多分マイクの位置とか距離で音がかなり変わると思うんですけど、ベースをアンプから録る場合って基本的にはオンマイク気味だし、ラインにない自然なロー感を出すみたいなのが目的だと思うんです。だから俺の思うレコーディングでアンプを使う利点って、“話が早い”っていうのが一番だと思うんですよ。“音がいい”とかももちろんあるとは思うんですけど。今回の場合は、時間が十分にあったので、エンジニアさんとアンプ・シミュレーターとかを使って音を作っていった感じです。

    ━━なるほど。

     もちろんベーシストでも、亀田誠治さんとか、フィックスした音で録る人もいて。昔ローディーをやっていたのでわかるんですけど、亀田さんはエフェクター・ボードとアンプをしっかり通して録る人ですよね。あのレコーディングを見ていると、ラフミックスの時点で音がもうほぼ完成してるなっていう印象がありました。だから、呼ばれた現場でやるようなレコーディングだとアンプを持っていくメリットっていうのはすごくわかります。ただ、自分のバンドのアルバムの場合は、“変わっていく可能性”を残しておきたいんです。俺らも作っていくなかでけっこう気が変わるし、もともと想定していたものと全然違うところに行くことが多いので。「苦楽ララ」では途中でドラムを録り直してますしね(笑)。

    「MUSICA」Music Video
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