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シドの明希が語る、AKiとしての現在地 ─ 10年の先で生まれた、新作『Vermillion』という“確かな手応え”
- Interview:fuyu-showgun
- Photo : hy
シドのベーシスト、明希がソロ・アーティストAKiとして活動を開始してから今年2025年で活動10年を迎えた。前作よりちょうど1年ぶりとなる新作『Vermillion』を6月11日にリリース。これまでAKiが得意としてきたハードなバンドサウンドと煌びやかなエレクトロサウンドの融合はより濃厚に、より綿密となり華麗に鳴り響いている。
“ベーシストのソロ作品”という色をあまり感じさせないのはAKiのアーティスト性であるが、これまで以上にソロ・アーティストとしての自信に満ち溢れた作品になっている。そんなAKiへ、楽曲についてはもちろんのこと、制作におけるエピソードや機材についてなど、たっぷり話を訊いた。
昔だったら“Vermillion=朱色”じゃなくて、“RED=真っ赤”というタイトルをつけたのかもしれない。
——制作にあたりコンセプトやビジョンはありましたか?
いつもそうなんですけど、よりおもしろいものを作りたいという気持ちがあって。サウンド的にも曲調的にもより一層遊び心がたくさん出るように考えました。
——メロディはキャッチーだし、サウンドも生バンドとエレクトロの混じり方が絶妙ですよね。今時のダンス・ミュージック要素もあって、ロックやバンドに馴染みのないリスナーでもすんなり聴けてノリやすいアルバムだと思います。
ありがとうございます。長くやってきたなかで、自分のクセみたいなメロディはあると思っていて。やっぱりメロディアスなものが好きなんだなぁっていうのはずっと感じています。Aメロ、Bメロ、サビっていうよりは、楽器のテンションによって変わっていくような展開、構成を考えた曲も何曲かあって。
最後の曲「Ordinary Days」は王道ですけど、「Rasen -螺旋-」や「Idiots」あたりの曲は遊び心満載でいろんな音を入れたり、アンサンブルのなかで、ベースがおもしろく聴こえるように心がけたので、そこに導かれたメロディもありますし、そういう風に聴こえたんだと思います。

——アルバムのタイトルにもなっている『Vermillion』。“朱色”という意味ですが、この色に対してのテーマがあったのでしょうか?
色というよりは、歌詞からですね。今、自分が言いたいことを書いていったら、10年前にソロをやりだしたときとそんなにブレてなかったんですよ。「Vermillion」という曲は、自分がバンドに目覚めたきっかけのような曲でもあり、こういう曲に勇気づけられたような気もしていて。そういう曲が蘇ってきたんです。
でも昔だったら“Vermillion=朱色”じゃなくて、“RED=真っ赤”というタイトルをつけたのかもしれない。強すぎず、孤独すぎない、アンニュイな色だと思うんです、朱色って。そういった意味でも今の自分の人間的なニュアンスが混ざったと思いますね。タイトル向きな言葉だと思いましたし、響きを含めて引っかかりまして。はっきりと赤ではないぶん、優しさとでもいうか、そんなイメージで歌詞を書いていきました。
——表題曲「Vermillion」が本作の軸になっている。
この曲が今、自分のいちばん言いたいことだったんです。曲調だけでいうと「Rasen -螺旋-」を表題にするか迷ったんですけど、歌詞を書いていくうちに「Vermillion」のほうが今の自分に近かった。
今までのAKiソロにありそうでなかったような遊び心を持って作れないか。
——前作『Free to Fly』からちょうど1年という、これまでに比べると短いスパンでのリリースになりましたが、制作意欲が高かったのですか?
新曲自体は音源にならなくとも、ライヴでは披露しているんです。今回はツアーも控えていたので、このタイミングでミニ・アルバムを作りたいなというところから始まりました。シドもあったし、時間的にミニ・アルバムのヴォリュームがいいなと。
——ミニ・アルバムだからこそ、楽曲の選りすぐった精鋭感というか、全体を通しての色の見えやすさを感じます。
ミニ・アルバムのほうが“こういう色でいこう”と決めやすいですね。フル・アルバムはどうしても“この色と、この色と、もう1色ぐらい欲しいな”というヴォリュームになると思うんですけど、ミニ・アルバムはいい意味で偏れる。だから“今までのAKiソロにありそうでなかったような遊び心を持って作れないか”という、そんなイメージもありました。
——楽曲についてお伺いします。1曲目「The Story Begins -Vermillion-」は序章でもあり、SEですよね。クラブ・ミュージック寄りです。
SEはジャンルを意識して作ったことないんです。“ギター入れなきゃ”、“ベース入れなきゃ”、“生楽器じゃなきゃいけない”、みたいなこともあんまり考えてなくて、自由に作ってますね。
——そして表題曲「Vermillion」。イントロのギターからインパクトがありますが、志雄(d/MAQIA)さんのドラムがアグレッシブですごくいいですね。どういう経緯があったのですか?
対バンで知り合って声をかけたんです。プレイがすごく派手だなと思って。ライヴを一緒にやったら歌いやすそうだなと感じまして。やっぱ派手なドラムの人が好きなんで(笑)。
——手数も多いですが、自由に叩いてもらっているんですか?
もともと彼は手数が多いタイプでテクニックもすごい。だから好きにデモテープを作って、その通りやってくれるんですけど、いろんなアイディアも入れてくれました。めちゃくちゃ音がデカいんですけど、なぜか歌いやすくて、すごくいいドラマーですね。若いし!
——ドラムが前に出ていて、ベースがうしろに構えている。そのバランスが良くて、いいグルーヴになっていると感じました。
やっぱりバンドのバランスは大事ですよね。ベーシストのソロだからベースがデカいのではなく、楽曲目線。そこは意識しています。
——タイム感もドラムに比べて、ベースが若干うしろなのかなとも思いました。
どうでしょう? ドラムもベースもそんなにエディットしてないんで、そう聴こえるのかもしれないです。とてもやりやすいドラマーでしたね。今までお世話になった方々、本当に皆さん素晴らしい人ばっかりですけど。レコーディングも新鮮でした。
——「Rasen -螺旋-」もテイストは違いますが、ダンサブルでライヴ映えしそうな楽曲です。
ええ、そこを意識して作りました。
——この曲が顕著ですけど、サウンドメイクもベースがいい意味で前へ出てこず、アンサンブルに溶け込んでいる。それでいてベースが裸になったときに“あ、こんな太い音だったんだ”という発見があって。
アンサンブルのなかのベースであることは常に意識していて、自分のなかではそれが自然なことなんです。フレーズも“ベースで目立とう”よりも、結果として“目立ってんじゃん!”くらいのテンションのほうが自分は好きなので。“何かの裏でグルーヴしてるベース”が、僕は魅力的に聴こえる、色気があるように聴こえますね。
——音源とはいえ、歌いながら弾く前提でフレーズを考えていますか?
やっぱりライヴで再現性があるようにアレンジしてますね。歌詞は最後なので、歌は“ラララ〜”ですけど、ベースで弾き語れるかというところからプリプロで作っています。
——この曲はヴォーカルの色気をすごく感じます。ご自身の歌声、いちヴォーカリストとしてのスタイルについてはどう考えていらっしゃいます?
ヴォーカリストだなんておこがましいというか、恐縮です(笑)。あんまり考えてないです。ちゃんと歌詞が聴こえるのは前提ですけど、自分の声も楽器のひとつというか、声という楽器を使って曲を作っている感じです。
でも佇まいが見えるように聴こえたらいいなというのはあります。音源でも、“ベースを弾いて歌っているライヴ感”みたいなものは聴こえてほしいと思っています。

——ヴォーカリストとしての意識はそれほど考えていないとはいえ、いち表現者として自分が歌詞も書いて、自分が歌うことに意味を持たせている。
ソロをやるって、そういうことかなって。誰かに歌詞を書いてもらうのもいいと思うんですけど、基本的には自分で書いたものを自分で弾いて歌うことが大事。
——そこに加えて、シドではできないことをやると。
そうですね。自分の楽曲の、もっとコアな部分をやりたいな、表現したいなという意欲があるんで。シドと同じものはできないし。ソロならではの個性を追求して、そこで得た知識や経験をシドに持って帰れたら、と思ってやってますね。
当時聴いていたハードロックのままじゃなく、自分だったらこういうものを混ぜたいという、そんなコンセプトが根底にはあるんで。
——「Idiots」もエレクトロ色が強く、サウンドはヘヴィだけどラウドロックにはなっていない匙加減が素晴らしい曲です。
まさに“そういうのを作りたいなぁ”と思ったんです。このアルバムはこの曲から作り出したんですけど、本当にそういう意識で作ってますね。特定のジャンルでやっていないというか、ラウドロックをやりたいわけではないし、どっちかというとハードロックをやりたいと思ってるんです。ただ、当時聴いていたハードロックのままじゃなく、自分だったらこういうものを混ぜたいという、そんなコンセプトが根底にはあるんで。
——この曲のチューニングは?
5弦ベースなので、Low-Bですね。
——本作は、予備知識なく聴いたらベーシストのアルバムだと気づかないほど、ソロ・アーティスト色の強い歌モノアルバムだと思うのですが、その象徴のような曲だと思います。
確かに言われてみるとそうかもしれないですね。ベースをフィーチャーしているアルバムでもないし。“歌モノをお届けします”っていう気持ちではないんですけど、そう捉えてもらっても構わないです。自分のやりたいと思ったことが形になっているので。

Photo : hy
——そういう聴きやすさはありつつ、ロック好きや楽器をやっている人が聴くとわかる、演奏面でのおもしろみもちゃんと入っている。
うんうん、アレンジに関しては、おもしろいことやってるなぁって自分でも思います。
——それでいうと「Sadness」はメロディ的には切ない歌謡っぽさがありますが、歌終わりにスケールアウトしたようなヘヴィなリフが唐突に入ってきて、音が外れた違和感がおもしろかったです。
もう、まさにそうしたかったんです。ヘヴィな感じにしたいんだけど、ちょっと変な音を使いたいなぁって、変なリフを考えました。まず曲の全体図があって、メロディもBメロは隙があるんですけど、ずっとしゃべってるような語り口調のもので。そこからサビがグッと来たあとに変なリフが入る曲を作りたいなっていう。
——普通に切ない曲で収まるアレンジにもできますものね。逆にラストの「Ordinary Days」は王道ポップスで直球の華やかなアレンジ。
1stアルバムにもこういう匂いがする曲があるんですけど、作っているうちにこんな感じになりましたね。
——この曲は英語詞ですが、日本語詞との違いはありますか?
最初に仮歌を入れるときに“ラララ〜”とか、日本語でもない英語でもない歌い回しで録ったりするんですけど、なんとなく英語のほうがハマりそうだなっていうような気持ちにだんだんなってきたんです。
——ヴァイオリンは最初から入れようと?
ええ。デモで入れたものを生に差し替えました。こういう綺麗でメロディアスなものはもともと好きなので。
いいベースが欲しいなぁと思って、旅に出てたんですよ(笑)。
——機材についてお伺いします。ベースは何を使いました?
曲によっていろいろ使いましたが、「Ordinary Days」ではフェンダーのプレベを使いました。いいベースが欲しいなぁと思って、旅に出てたんですよ(笑)。フェンダーを弾きまくって選びました。それがマスタービルドの60年タイプ。
——選んだ決め手は?
音ですね。プレベの大胆さ。すごく太いけどちょっと乾いた感じがあって、めちゃくちゃいい鳴りするなぁと思って。見つけたその日に買いました。出会っちゃいましたね。そのときにジャズベも買ったんですけど、「Ordinary Days」はプレベがハマりました。
——前作ではリアンプでレコーディングしていましたが、今回も?
今回もリアンプです。アンペグの4発のキャビネットで鳴らしてます。(Origin Effects製)Cali76 Bass Compressorのコンプを通って、サンズアンプに行き、ボスのEQをちょっと改造したヤツを最後かましてって感じですね。アンプはアンペグから新しく出たVenture V7。あれがすごく良くて。
——前作でインタビューしたとき、コンプレッサーにすごくこだわっていて、いろいろ試してるとおっしゃってましたけど。
奥深いなぁとすごく思っています。自分のなかで好きな感じがどんどん更新されていって、今が集大成。僕らのバンドって、ライヴハウスもやれば、武道館だったり、大きな会場をやらせてもらうなかで、やっぱり綺麗な音をPAさんに送りたいんですよ。ちゃんと整えた音をPAさんに送って、そこからお客さんにしっかり届けたい。
だから、レコーディングもそうですけど、エンジニアさんがミックスしやすいように、というのがひとつあって。あとは自分の弾き方に合わせてコンプがかかってる音が心地いいんです。コンプのないムラのある音もカッコいいですけど、しっかりコンプがかかって引っかかってるくらいの音が好みになってきたっていうのはありますね。
——ちなみに「Rasen -螺旋-」はピック弾きですか?
全曲指ですね。ライヴで歌いながらのときはピックですけど、レコーディングは全部指です。指のほうが自分の好きなロー感が残るんです。だから最近はシドもずっと指弾きが多いですね。
——本作を引っ提げてのツアー“AKi Tour 2025 『Vermillion』”は、どんなツアーにしたいですか?
このアルバムで自分らしさ、“AKiソロって、こんな感じだよね”というのが形になったと思っています。だから僕の音楽が好きな人は深く楽しめると思うし、初めて聴く人たちにもちゃんと響く音を生で再現して、音源を超えていけるような、カッコいいステージにしたいです。
——今年はちょうどソロを始めて10年なんですよね。
そうなんですよ。休み休み、シドと並行しながらやってきたので、バンドを10年やりました、とは少し違うとは思いますけどね。節目ではあると思うので、この先も頑張っていきたいですね。
▼ 機材紹介記事に続く ▼
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◎AKi Profile
あき●2003年にシドを結成。2008年11月にメジャー・デビュー記念ライヴを日本武道館にて開催したほか、2010年12月には東京ドーム単独公演を成功させるなど大きな人気を獲得する。シドは2022年3月23日に11thアルバム『海辺』をリリースした。2015年からはAKiとしてソロ活動も展開しており、2016年7月には台湾の大型野外フェスに出演するなど、精力的なライヴ活動も展開。2025年6月11日に、前作『Free to Fly』から約1年ぶりとなる新作、ミニ・アルバム『Vermillion』をリリースした。
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◎Information
≪ワンマン・ライヴ≫
AKi Tour 2025 『Vermillion』
2025年6月28日(土)名古屋ell. FITS ALL OPEN 16:30 / START 17:00
2025年6月29日(日)梅田Shangri-La OPEN 16:30 / START 17:00
2025年7月13日(日)渋谷WWW OPEN 16:30 / START 17:00
AKi LIVE 2025 『Acoustic Hideaway』
2025年9月7日(日)COTTON CLUB
<1st SHOW> OPEN 15:00 / START 16:00
<2nd SHOW> OPEN 18:00 / START 19:00
≪出演イベント≫
DEZERT Presents SUMMER PARTY ZOO 2025
2025年8月2日(土) Zepp Haneda (TOKYO)
開場14:00/開演15:00/終演20:50(予定)
CRUSH OF MODE-TO THE LEGEND’25-
2025年7月31日(木)KT Zepp Yokohama
OPEN 14:30 / START 15:15