PLAYER
しっかりと表現し続けていれば、
あとから人が評価してくれる。
━━「FICTION」はディスコ調なグルーヴで、バンドにとっては今までになかったタイプの楽曲なのでは?
そうなんです。バンド的にも、自分にとってもかなり挑戦的な曲になりましたね。
━━この曲では5弦ベースを導入したそうですね。積極的にローB弦を鳴らしていて、ウエムラさん的にも新境地なのかな、と。
そうなんです。ESPのAMAZEを試したいとメーカーにお願いしたら貸していただけて、それでレコーディングしました。アクティヴとパッシヴの切り替えができるんですけど、完全にパッシヴで弾いてます。パッシヴだとわりと素直でナチュラルなサウンドだったんですよ。それがCali76のコンプとのハマりがすごくよくて。このベースは自分にかなりハマったなっていう気がしています。
━━サウンドの方向としては、スムーズな音色でブラック・グルーヴの“らしさ”を表現していますね。
そうですね。いわゆるサブ・ベースの帯域ってあるじゃないですか。そういったベースは最近の音楽でもたくさん聴けると思うんですけど、並びで自分たちの曲を聴いたときに、“もっと低音感のある曲を増やしたいな”と思って。それで5弦でアプローチすることを思いついて、エンジニアさんにも“もっと低いところに潜り込みたいです”っていう相談もして作っていきましたね。
━━なるほど。でも、そういった新たなサウンド・アプローチを取り入れても、音数の多さにウエムラさんらしさが表われていると思いました(笑)。
確かにそうですね(笑)。レコーディングの前日まではもっと音数も少なめだったんですけど、当日に“多くしたほうがカッコよくね?”って思い立ってしまって。それでメンバーにフレーズを伝えつつ、自分でGOを出して強行しました。だから、ちょっと好き勝手な感じのフレーズになっているのかもしれません。
━━そうなんですね(笑)。そういうときってけっこう手クセが出るものですか?
うーん……まちまちですね。アグレッシブなフレーズは手クセでガッとやるときもあるし、けっこう考えたりもします。例えば、「化身」のサビとかはけっこう考えましたね。
━━「化身」はロックな曲ですが、スラップのフレーズはもっとパンクっぽくて、根本にアグレッシブさがありますよね。
そうですね。根底にあるのは“大丈夫か?”ってぐらいのアグレッシブさ。自分のなかでも“これで成立するのか?”って思いながらフレーズを作ってました。そのなかでサビのフレーズはしっかりと練っていったんですけど、派手なフレーズのときは、歌を意識しすぎてしまうと“8分のルートとかでよくね?”って自分は思ってしまうので、歌への意識は一度置いておくんです。重要なのはドラムとのリズムのアクセントが合うことと、ギターと絡みあっていること。それを念頭に置きながら無心になってひたすら試していく感じですね。あと、この曲に関してはギターもドラムもフレーズがおもしろいので、それにベースが引っ張られてベース・フレーズもおもしろくなっていったところもあると思います。
━━「女神」のAメロのベースはメロディの上下も激しいうえにリズムも複雑ですが、サビでは逆にシンプルなルート弾きに切り替わります。このはっきりとしたコントラストがアレンジの深みになっていますね。
なんか……“熱い曲”にしたいなっていうイメージがあったので、そうなると、サビは愚直にいったほうがいいなって思ったんです。ドラマのタイアップもついてたし、そうしたほうがもっといろんな人に刺さる熱い曲になるなって。“ドン!”っていう衝撃のイメージですかね。動きがあるフレーズだと、アンサンブル全体をうまく構築しないと音の圧が出ない感じになっちゃうんで、そこは気をつけたところですね。
━━確かに。一番聴かせたいサビがシンプルなバンド・サウンドで鳴っていると、拳を上げたくなるような高揚感が生まれますよね。
そうなんですよね。そういうときは、今の僕はルート弾きですね。急な引き算とかにハッとすることがあって、そういうものがやりたくなるし、グッとくるんですよ。
━━ウエムラさんのフレーズはすごく有機的で、動きがあって生き生きしていますよね。曲調を問わずに自分のスタイルを表現している幅広さもありますが、ご自身では自分のプレイ・スタイルについてどのように考えていますか?
それが、自分でも難しくて。武道館公演が終わったタイミングやコロナ禍で活動が制限されていったときに、“自分ってどういうベーシストなんだ?”って考えることがあって。なんか、よくわかんないなって……でも、そのときどきで思うことをしっかりと表現していけば、あとから人が評価してくれるのかなって今は思っています。絶やさずにチャレンジをしようと決心しました。だから、つまり“よくわかんない”ですかね。
━━なるほど。
“自分のプレイといえばこれ”っていうのがまだ広まっていない自覚もありますし、過去の作品でのプレイを聴き直したら、“つまらなくね?”って自分で思ってしまったんですよね。昔の自分のようにサビとかで歌の邪魔をしないアプローチをするのもいいけど、「化身」ではもっと音数を減らしていって、途中からはもうベースが抜けちゃったりとかっていうアプローチをしていて。僕らはプロデューサーがいないんですが、もしもいたらかなり怒られそうなことをやっているときもあるんです。そういう風に興味が導く方向に進み続けて、今後もチャレンジをしていきたいなって思いますね。
◎Profile
うえむらゆうき●1993年10月23日生まれ、鹿児島県出身。高校生のときにベースを手にする。ポルカドットスティングレイは2015年1月に本格的な活動を開始、同年8月にウエムラが加入する。2017年に『全知全能』でメジャー・デビュー。突き刺すようなギター・ロック・サウンドを武器に、バンド・シーンで高い人気を獲得する。2019年7月に日本武道館公演を果たす。2020年12月に3枚目となるフル・アルバム『何者』をリリースした。
◎Information
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