PLAYER
しゃべらずともお互いが何をしたいのか、
空気でわかるようになった。
━━『何者』は、ウエムラさんのスタイルを保ちながらも新しい挑戦をしているアルバムということですが、そんななか、バンドの規模がどんどん大きくなるにつれて、ベースの音数が増えていっている気がするんです。「FREE」や「化身」のサビとか、フレーズのスピード感も増していますよね。
武道館公演が終わった頃ぐらいに、自分のなかで“もっと挑戦しなきゃダメだ”っていうモードになったんです。バンドはどんどん変わっていく過程がおもしろいと思うので、僕ももっと変わり続けないとなって。チャレンジしていないと、ハタから見てもおもしろくない。だから、ブッ込めるところはブッ込んでいこうかなと(笑)。昨日の自分を超えようとするというか。
━━プレイとしては手数が増えていますが、ただテクニカルなだけではないフレーズ・センスも感じます。
ありがとうございます。そういうテクニカル系な方向を目指しているわけではないんです。例えば「化身」は、試しにフレーズをブッ込んでみて、そういうテクい方向のフレーズがハマっていったっていう。けっこう派手なフレーズですよね。
━━でも、例えばギターが大きな動きをしていないところでベースのフレーズを入れたり、他パートが何をしているかのバランスは意識している、絶妙なアプローチにもなっていると感じました。
それは最近、いろんな方にも言ってもらえるんですけど、実はもうあまり意識していなくて。“考えなくてもそのうち成立するようになるでしょ”みたいな、謎の自信が生まれているんですよ。だから、自分の気づかないところでセルフ・ブレーキみたいなものが働いているんじゃないかなって思います。“めっちゃ弾いてるけど大丈夫かな?”って自分で思っちゃうぐらいが、ちょうどよくなっていくような気がしていますね。
━━「バケノカワ」のBメロや「SHAKE!SHAKE!」のイントロなどでは裏メロ的アプローチで弾いていますが、歌に寄り添うように音を伸ばしたりしがちな場面のところを、絶妙に歌のリズムに添いながらも多めの音数で攻めているのがおもしろいです。
そういうフレーズも“やっちゃえ”精神で弾きましたね。大体の制作過程のなかで、歌だけがある状態でみんなでバンド・サウンドを作っていくことが多いので、必然的に歌の動きに合っていくんだと思います。
━━なるほど。それ対して「トゲめくスピカ」や「ストップ・モーション」は比較的シンプル目なプレイになっていて、理性的にフレーズをコントロールしている姿を想像しました。
「ストップ・モーション」はプレイについて考えたんですけど、「トゲめくスピカ」はみんなでササッと作れてしまった曲ですね。“これしかないでしょ”っていう感じでピースがハマっていって、シンプルながら良いアンサンブルになっていったんですよね。あとから聴いても、音の置き位置も悪くないなと思いましたね。バンド・メンバーのそれぞれで思うことってあるじゃないですか、例えばギタリストが“俺が前に出るからベースはちょっと支えてて”みたいな。そういうことをギター、ベース、ドラムの男三人で、あまりしゃべらずともお互いが何をしたいのかが空気でわかるようになったと思います。
━━それは曲調を問わずに同様のことが起きるんですか?
そうですね。昔は、どちらかといえばド派手なアンサンブルの曲のほうが何も考えずに空気を読んで作れたんです。シンプル目なものやゆったり目の曲のアレンジは、シンプルがゆえにみんなでしっかりと意思疎通をしないといけないなっていうことがありましたね。それぞれが思い描く“シンプル”のバランス感はやっぱり話し合わないとマッチしなくて。でも最近はそんなこともなく、みんなで黙ってやっていてもパッとアンサンブルが組み上がる。みんなで正解って思えるものが作れるようになっている気がします。
━━昔はネオソウル系のグルーヴを導入する際に、参考の曲を挙げて話し合っていましたよね。
そうですね。確か……「リスミー」(『一大事』収録/2018年)だったかな。(エジマ)ハルシ(g)がネオソウルっぽい要素を取り入れるって提案してくれたときに、そういう風に話し合ったこともありました。思えばスムーズな感じのグルーヴはそこから取り始めましたね。
━━今作で言うと、「JET」がそういうスムーズなテイストの曲になるんですかね。
確かに。でも、この曲はヴォーカルの雫さん的にはスピード感というか、小気味よい疾走感を出しながらスムーズにっていうイメージがありましたね。
━━中盤以降はウォーキング・ベースをメインに弾いていて、ベースの置き位置はちょっと前ノリでプレイしていてほどよいスピード感を生んでいますね。
そうですね。それはけっこう意識した部分で、スピード感を出せるようにフレーズを作ったと思います。