PLAYER
UP
くるり佐藤征史が語る『儚くも美しき12の変奏』─全曲解説:設計された12の低音【後篇】
- 取材:辻本秀太郎(ベース・マガジンWEB)
- 写真:三浦晴
佐藤征史(くるり)のインタビュー前編はこちら。
プレベは静かに弾くのが難しいけど、ちゃんと抜けてくる
——4曲目の「瀬戸の内」は、コントラバスを。
そうですね。ここで弾いてるのは前のコントラバスで、引退する前に録っています。
——バンドマンがコントラバスを弾くと、エレベっぽいフレーズになることも多いですが、この曲はちゃんとコントラバスらしいフレーズですよね。
それは、デモの段階でベース・ラインが、全体のアレンジのなかで組み立てられているからだと思います。7拍子や4拍子、5拍子が入り混じる、ちょっと変わった拍の曲なんですけど、それをアンサンブルとして、ピアノがここに入って、歌がこう来るから、ベースはここ、という流れが最初から決まっている。演奏していて、すごく気持ちのいい曲ですね。
——ちなみに、コントラバスのベーシストで好きな人はいますか?
クリス・ウッドですね。ムキムキで、コントラバスでもチョーキングしたりする人です(笑)。きれいに弾くタイプではないけど、鳴らしたい音の感覚が、すごく自分にしっくりくるんです。2005年にニューヨークに滞在していた際、メデスキ、マーティン・アンド・ウッドがたまたま小さい会場(Tonic)で演っていて、生で観られたんですよ。そういう体験もあって、もう25年以上好きなベーシストです。
——「C’est la vie」は、レミー・キルミスター(モーターヘッド)的な、ギターっぽい音作りですよね。ガリガリしたアグレッシヴなベースが印象的です。
自分的には、やっぱりアンプ直の音が一番いい音だと思っていて。なので“なるべく素の音で”が基本的なポリシーなんですけど、この曲は久しぶりに、ラインの音をアンプ・シミュレーターでガシガシに加工して弾きました。音がたくさん入ってくると、ある程度強い音じゃないと沈んじゃうんですよね。打ち込みの音もけっこう入っている曲なので。そう意味でも、この曲ではプレベを選んでいます。
——“音が抜けない”ときの対策としては、やっぱり一番は楽器を変えることですか?
自分の場合はそうですね。プレベって、ライヴでもレコーディングでもそうなんですけど、普段はそんなに強くピッキングしない自分が、“抜けてくれ”と思ってちょっと強く弾くだけで、ちゃんと音が抜けてくれる。それがラクなんですよ。ジャズベは、音の強さを100段階でコントロールできるとしたら、静かな曲なら10くらいの強さでも弾けるし、すごく繊細にコントロールできると思うんです。ちょっと強めに70くらいで弾いても、埋もれるときは埋もれてしまう。
一方で、プレベは静かに弾くのが難しいけど、“抜けてほしい”と思って50くらいで弾いたら、ちゃんと抜けてくる。ジャズベは、そこがなだらかに変わってくれる感じも使いやすくて好きなんですけど、プレベはプレベで、これはこれでラクだなと思いました。

——そもそも、100段階のうち10の強さで弾くこともあるんですか?
歳を取ってくると、100で“ガシャーン”って弾く曲って、あんまりないじゃないですか。たぶん、みんなマックスでも70くらいだと思うんですよ。サビのアタマで70を出したいと思ったら、普段はその半分も使わないんじゃないかと。
もちろん曲によりますけど、静かな曲なら、なるべく小さい音で、っていう意識で調節しています。ツマミはライヴ中に触りたくないので、基本的に全開で、強さのコントロールはすべて指でやっているというのもあると思います。
——「oh my baby」について教えてください。ベースのゴーストノートが、すごくリズムを引き締めていますよね。
空ピッキングがけっこう聴こえますよね。シンプルな曲に聴こえると思うんですけど、ベースがやってることは毎回違っていて、正直覚えるのが難しいです(笑)。音量のコントロールでサビに向けて盛り上げていくんじゃなくて、フレーズの変化で楽曲をコントロールして、結果的に盛り上がっていく。そういうタイプの曲だと思います。これは伊豆スタジオで、ジャズベをアンプで録ったと思います。
——「はたらくだれかのように」、これも音数が多い曲ですよね。
ドラムが伊藤大地くんで、外の現場ではご一緒することはあったんですけど、くるりとしてやるのは初めてでした。すごく素敵なドラムを叩いてもらって。この曲も、カッチリ作らないといけなかったので、自分たちのスタジオでドラム以外を録ったトラックを用意して、その上で叩いてもらいました。
なのでベースも事前に入れていて、“弾いたまま”のトラックと、グリッドに合わせてタイミングを編集したトラック、その両方を持っていって。合わせやすいほうを選んだり、組み合わせたりしながら叩いてもらっています。この曲に限らず、ベースを先に入れて、そこにドラムを叩いてもらうときは、毎回このやり方ですね。
——そのベースのエディット作業、大変そうですね……。
『ソングライン』(2018年)くらいから、ずっとそのやり方なのでもう慣れていますね。
——アルバム終盤に入っていきますが、「押し花と夢」はドラムがGRACEさんですね。
これはドラムと一緒にジャズベを弾きました。6/8の曲をこうやってレコーディングしたのは久しぶりでしたね。「oh my baby」と同様で、ほかの音が多くないぶん、ジャズベでもしっくりハマった曲だと思います。レコーディングでは久しぶりにGRACEさんとご一緒できて、とても楽しくやらせていただきました。録音では2002年のTHE COLLECTORSのトリビュート以来なので、20年以上ぶりですね。
——続く「セコイア」は、さらに音数を削った編成ですが、この曲ではどんな意識で弾きましたか?
これは新しいほうのコントラバスで弾いています。三柴理さんが、ものすごく難しいピアノを弾いてくださっています。クリックありと、クリックなしのバージョン、両方を“せぇの”で一緒に録って、結果的にクリックがあるほうを選んだのかな? ピアノとコンバスと歌だけっていうのは楽しかったですね。「瀬戸の内」もそうですけど、エレキでずっとつながったフレーズを弾いていくような醍醐味とは違う、低音を“弾く”というより、音を点のように“押していく”感覚っていうのかな。そういうものが味わえました。
——アルバムのなかでも、特にベース・ラインがかなり複雑な印象の「3323」についても聞かせてください。
これも“ペンタトニック”で、プレベとB-15のシミュレーターで録ったと思います。シンプルなコード進行なんですけど、だからこそベースは、どのタイミングでどう変化させるかが、かなり細かく決まっているタイプの曲ですね。なので、覚えるのがけっこう大変です。そういう曲が今回のアルバムには多いんですけど、そのなかでもこれは究極だと思います。
——最後の「ワンダリング」ではシンセ・ベースが使われています。
最初は全部“せぇの”で、生ベースで録っていたんですけど、録り終わってから“もう少し変化があったほうがいいかな”という話になって。そこからラップのところがシンベになって、打ち込みになって、というふうに変わっていきました。
さっき話した「3323」や、弦が入っている曲とも近い感覚なんですけど、今回のアルバムは、基本的に暗譜でどうこうするタイプの曲じゃないものが多いですね(笑)。ただ、だからこそ、いろんな楽器が重なってきたときにも、ちゃんと辻褄が合うようになっている。
ベース・ライン自体の変化は小さいものだったとしても、ウワモノが加わることで、その変化が大きなものとして聴こえて、アレンジとして成立していく。そういう作り方の曲が多い作品になったのかもしれません。
Profile
佐藤征史(さとう・まさし)●2月1日生まれ、京都府出身。高校に入学してからベースを弾き始める。その頃に岸田繁(vo,g)と出会い、くるりの前身バンドを結成。その後、立命館大学の音楽サークルでくるりとしての活動をスタートする。1998年にシングル「東京」でメジャー・デビュー。ロックを基盤に実験的な試みで新たなサウンドを模索し高い評価を得ている。2026年2月11日に15作目となるオリジナル・アルバム『儚くも美しき12の変奏』をリリース。
Information
佐藤征史
X Instagram
くるり
HP X Instagram
◎ベース・マガジンWEB有料会員のご登録はこちら
インタビュー全文は、ベース・マガジンWEBの有料会員限定でご覧いただけます。インタビュー記事に加え、『ベース・マガジン』全号のバックナンバー、会員限定の連載・特集・レビューなど、ここでしか読めないコンテンツをお楽しみいただけます。
◎関連記事
ベース・マガジンのInstagramアカウントができました。フォロー、いいね、よろしくお願いします!→Instagram
