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【第132回】プロ・ベーシストはリハで〇〇に気をつける【ベーシストの心得・リハ編 その①】 石村順の低音よろず相談所 〜Jun’s Bass Clinic〜

  • Text:Jun Ishimura

プロのベーシストがリハーサルで一番気をつけていることとは、何でしょうか?

スタジオでリハーサルするときに何に気をつけていますか?

当然、自分のこと、つまりベースのことはいろいろ気をつけますよね。事前に、リハに向けて予習したり適切な楽器や機材を用意したりするし、リハ当日もベースの演奏に関していろいろ気をつけていると思います。ここまでは、多かれ少なかれ皆さんやっているはずです。

これらに加えて、プロのベーシストは何に気をつけているのでしょうか? もちろん、気をつけるべき点はいろいろあるし、何を重視するかは人それぞれです。僕の場合、リハで何を一番大事にしているかというと、全体を見渡す視点です。

全体を見渡す視点

ベースのことだけじゃなく、できるだけアンサンブル全体を聴こうとします。もちろん、ただ漠然と聴くのではなく、たとえば次のようなことに気を配ります。

・キーはヴォーカルに合っているか?
・テンポは適切か?
・バンド全体のグルーヴは良いか?
・歌や他の楽器の演奏はどうか?
・曲の構成、ダイナミクス、入りやエンディングはどうか?

つまり、自分の演奏に没頭するのではなく、まわりの音をよく聴く、ということです。これは、プロデューサー的な視点/バンド・リーダー的な視点でバンド全体を聴くこと、と言っても良いです。ということは、聴こえた内容を理解して判断するスキルも必要になってくるわけですね。

このように全体を見渡しながら演奏する姿勢を基本として、プレイヤーとしては次の2点を大事にしています。

① 土台を作る

ベーシストの最大の役割はアンサンブルの土台を作ることです。信頼されるベーシストというのは、ヴォーカルが歌いやすい土台、他のメンバーが演奏しやすい土台を作れるベーシストのことです。

つまり、安定したリズムで曲に合ったグルーヴを表現すること、コード感を支えること、曲の展開やコード進行を先導するような演奏をすること、こういったことがすべて安定した土台につながってきます。

また、間を生かした演奏をすることも大事です。歌や他の楽器の居場所を作る、ということです。要するに、必要以上に弾き過ぎないこと。

ベースがカッコいいかどうかしか考えていないベーシスト、アンサンブルの土台を作るという役割を果たしていないベーシストは、ただの自己満足です。これでは他のメンバーから信頼されません。やはり、プロデューサー的な視点を持つことが大事だと思います。

② 足りないところを補う

全体を見渡して聴いてみたら、楽曲に足りないところがあったとします。こういう場合、まずベースのフレーズで改善できるかどうか考えます。人にあれこれ言う前に、まずは自分で工夫する、と。そのうえで、そこはベースの役割ではないと判断したら、他のメンバーにフレーズの提案をしたり、何かアイディアがないか尋ねてみます。

そもそも、“楽曲に足りないところがあるかどうか”、“アレンジや演奏がうまくいっているかどうか”を見抜くこと自体が、アレンジに関する経験とスキルとセンスが必要なわけです。これはベースのことだけやっていても1ミリも磨かれません。リハで全体を見渡す視点を持つためには、普段音楽を聴くときでも、耳コピーをするときでも、ベースだけではなくメロディーや他の楽器のフレーズにも注意を向けて音楽全体を見渡すことが大事です。

日頃から音楽全体に耳を傾けて、ベースのことだけでなく全体のことを考えられる、頼られるベーシストを目指しましょう! 石村順でした!  

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石村順
◎Profile
いしむらじゅん●元LOVE CIRCUS、元NEW PONTA BOX。日食なつこ、ポルノグラフィティ、東京エスムジカ、K、JUJU、すみれ、大江千里、松山千春、宇崎竜童、石川ひとみ、種ともこ、近藤房之助、豊永利行、Machico、紘毅、城南海、西田あい、つるの剛士、SUIKA、Le Velvets、葡萄畑など、多数のライブや録音に参加している。ロングセラー『ベーシストのリズム感向上メカニズム グルーヴを鍛える10のコンセプトとトレーニング』の著者。Aloha Bass Coachingではベース・レッスンのほか全楽器対象のリズム・レッスンを行なっている。

◎Information
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