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    【有料会員】<REVIEW>星野源『Gen』| “ベースが前傾化”するポップス──サム・ウィルクス、ジョー・ダートなど新世代ベーシストたちとの共鳴

    • Text : Hiwatt

    LONG REVIEW:星野源『Gen』(by Hiwatt)

    星野源 Gen ジャケット
    星野源『源』

    『Gen』で見せる星野源の3つの顔

     星野源の7年ぶりの新作『Gen』は、阿修羅のごとく、3つの星野源の顔が見える作品だ。ひとつ目は、星野が近年収集しているという、ヴィンテージのデジタル・シンセのプリセットを生かした 、80年代ポップス的なサウンド。ふたつ目は、『YELLOW DANCER』(2015年)から続く、ディアンジェロやJ・ディラの系譜にある、オルタナティブR&Bテイストの楽曲群。ただ、このふたつの側面は連続性のなかにあり、「Memories」や「Why」で聴けるように、後者にデジタル・シンセが合わさることでマンネリズムを防ぎながらも、初期MFドゥームを現代的に弾き直したような、新鮮かつタイムレスなサウンドとして受け入れられるものとなった。

     そして3つ目は、「創造」や「Glitch」のような、超高速BPMのなかで、笑えるほどに多い手数で表現するプログレッシブな楽曲群。これらは、「Mad Hope」にも参加したルイス・コールからの影響が大きいだろう。彼のソロはもちろんのこと、ノウアーやクラウドコアでの“コメディリリーフ”とさえ言える表現が、星野のユーモラスな側面と呼応するのは当然の結果だ。ただ、これらの楽曲を表現するには、アスリート的と言えるほどのフィジカルに裏打ちされたドラムの演奏力を要するが、ルイス・コールはもちろんのこと、若くして日本最強ドラマーとしての地位を確立した石若駿も叩いているのだから、彼らのドラミングにただただ圧倒されるのみだ。

    星野源「創造」

    『Gen』を支える多彩なベーシスト陣

     ほかのスタジオ・メンバーについても、言及せずには通れない。お馴染みのメンバーとして、ギターに長岡亮介、キーボードに櫻田泰啓が参加しており、彼らが星野源サウンドを担保していると言っても過言ではない。ベースには、「創造」「Glitch」「不思議」に旧知の仲のハマ・オカモトが参加しており、「不思議」ではキャリア初の5弦ベースを弾くなど、彼らのなかでも新たに触発し合うものがあったようだ。

     「2 (feat. Lee Youngji)」「Memories (feat. UMI, Camilo)」「Eden (feat. Cordae, DJ Jazzy Jeff)」「Sayonara」では、クリス・デイヴ(d)との共作でも知られるLAの辣腕ベーシスト、ダニエル・クロウフォードが参加しているのも重要なトピックだ。星野源の最初期の低音を支えた伊賀航が、「創造」でコントラバスを演奏していることも強調しておきたい。そして何より、今作でマルチ奏者/アレンジャーとして、獅子奮迅の活躍を見せたmabanuaの存在感は絶大であった。彼の本業はドラマーであるが、「喜劇」「Melody」「生命体」「異世界混合大舞踏会」ではベースを弾き、ほかの曲ではシンセ・ベースでも低音を担っているが、ドラマーらしいポケットへのはめ方は、後述する星野がベースに求める要素に見合うものだったことが想像できる。

    星野源「不思議」
    星野源「不思議」

    星野自身がベースを弾く「Eureka」と「Star」

     今作で印象的に感じたのは、アンサンブルにおけるベースの存在の重要性が、以前にも増して前傾化していたこと。その意図が顕著に現われているのは、今年の頭にシングル・リリースされた「Eureka」と、アルバムのリード・トラックである「Star」だ。いずれも、星野自身がベースを弾いており、パーカッシブな役割とサブメロディとしての役割に重きを置いている。「Eureka」は、フレットレス・ベースのようなアンコモンなベース・サウンドが異化効果を生み、その美しいニュアンスとメロディに導かれ、自ずとベース・ラインに傾聴してしまう。「Star」は、以前から愛聴を公言しているヴルフペックからの影響を色濃く感じ、過剰なほどにメロディが移り変わる、キャッチーでオーセンティックなポップスに仕上がっている。

    星野源「Eureka」
    星野源「Star」

    ジョー・ダート、サム・ウィルクスといった
    新世代ベース・ヒーローたちからの影響

     ヴルフペックのベーシストであるジョー・ダートも、“超ヴルフだ!”と絶賛する「Star」のベース・ラインは、シンコペーションを駆使して、長短のメリハリがグルーヴをドライブする名プレイ。このベースの前傾化の裏には、ジョー・ダートや、今作にも参加しているサム・ウィルクスのような、新世代ベース・ヒーローの台頭が影響しているだろう。グルーヴを作るうえで、ベースのタイミングや音の選び方を重要視する星野だが、『Gen』のなかでサブテキストを語るように存在感を放つベースは、ジョー・ダートのプレイに通ずるものがあるし、デュオやトリオでの演奏が多いサム・ウィルクスのベースからは、ミニマルなアンサンブルのなかで、黒子と主役を行き来するプレイと、その中で埋もれない音作りを参照しているのではないだろうか。

     今作の特色として、多彩な国籍/人種/ジャンルの音楽家を招聘している点も挙げられる。これらのコラボレーションや、先述したような彼が影響を受けたLAシーンの音楽は、星野が掲げてきた“イエロー・ミュージック”の反省と更新を手伝うこととなり、結果的にエスニシティを越境するユニバーサルな作品を実現した。『Gen』という、一見すると個人的と思えるタイトルの作品だが、博愛的でありながら、鋭くニヒルな批評性を持ち合わせる、多元的な視点を持つ彼のフィルターを通せば、このように収束するのは必然だったのだろう。

    ◎作品情報
    『Gen』
    星野源
    Speedstar Records
    VICL-66033(通常盤) 発売中 ¥3,410 全16曲

    ◎参加ベーシスト
    ハマ・オカモト(M1,4,8)、サム・ウィルクス(M2)、ダニエル・クロウフォード(M2,6,9,13,14)、mabanua(M5,7,12,15)、伊賀航(M1 ※Contrabass)、星野源(M3,6,9,13,16)

    参加ミュージシャン
    星野源(vo, gt, syn, prog, ex)、玉田豊夢(d)、石若駿(d)、ルイス・コール(d)、長岡亮介(g)、櫻田泰啓(k)、mabanua(syn, prog,ex)、サム・ゲンデル(sax)、ダニエル・クロウフォード(syn,prog,ex)、美央ストリングス(str)、ほか

    ◎執筆者
    Hiwatt X