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    ベースの“おいしい”部分を熟知したアプローチ【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第13回:リトル・バーリー、ジア・マーガレットほか

    • Text:Masamichi Torii
    • Illustration:Tako Yamamoto

    トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今月も最近リリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)

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    第13回

    目次

    ① Little Barrie – More Bad Miles Of Road

    ② Gia Margaret – Good Friend

    ③ Luke Temple – Shake Me Awake

    ④ waterbaby – Memory Be a Blade

    ⑤ Ora Cogan – The Smoke

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    ① Little Barrie – More Bad Miles Of Road

    イントロから耳を引く、印象的な下降ベース・フレーズ

    リトル・バーリーは2000年代中頃から活動するイギリスのトリオです。海外ドラマファンには『ベター・コール・ソウル』のテーマを演奏しているバンドとして知られているかもしれません。現在はブラック・キーズのダン・オーバックが主催するレーベル、イージー・アイに所属しています。バーリー・カドガンのギターの巧みさには定評があります。技術が高いだけでなく、アイディアが豊富で、憧れずにはいられないプレイスタイルです。

    今回取り上げる「More Bad Miles Of Road」はイントロから、ベースの下降フレーズが耳を引きます。ベースを弾いているのは、メンバーのルイス・ワートンです。2拍目から16分音符を3つずつグルーピングするというリズム・パターンになっています。一種のシンコペーションですね。一瞬、ダブル・ベースの音のように聴こえましたが、早とちりでおそらくエレキ・ベースだと思います。トラック全体にリヴァーブがかかっているので、ダブル・ベースのように聴こえたのでしょう。

    ② Gia Margaret – Good Friend

    1970年代スタックスを連想させる、躍動感あふれるベース・ライン

    ジア・マーガレットはシカゴ出身のシンガー・ソングライターです。2018年に『There’s Always Glimmer』でデビューしました。「Good Friend」は、最新作『Singing』からの一曲です。まず曲がめちゃめちゃ良いですね。ターンテーブルのスクラッチが入っていたりと2000年前後のポップスを連想しました。

    プロデュースは、ビョークやマドンナ、ブリトニー・スピアーズとの仕事で知られるガイ・シグスワースです。彼はイモージェン・ヒープとフル・フルというエレクトロ・ポップ・ユニットとして活動していた経歴があります。

    ベースは音量が一定なので、ラウンド・ワウンド弦にスポンジミュートを挟んだプレベのトーンを模したプラグイン音源の音ではないかと思われます。クレジットにはベースとしてシグスワースの名前がありました。1970年代のスタックスを連想させるベースのフレーズです。音価コントロールがイマイチだと魅力が半減するアプローチですが、しっかりと躍動感が表現されています。匠の技です。

    ③ Luke Temple – Shake Me Awake

    ベースの“おいしい”部分を熟知したアプローチ

    ルーク・テンプルの最新作『Hungry Animal』からの一曲です。テンプルは、ブルックリンのインディロック・バンド、ヒア・ウィ・ゴー・マジックの元メンバーで、アート・ファインマンという名義でも活動しているミュージシャンです。

    『Hungry Animal』は、ドラムにKOSTA Gことコスタ・ガラノプロス、ベースにダグ・スチュアートを迎えたトリオ編成で制作された作品です。KOSTA Gはリオ・コスタというグループをやっていて、昨年リリースされた『Unicorn』というアルバムがとても良かったです。スチュアートはブリジャン(B R I J E A N)というユニットとしても活動しています。

    テンプルがシンプルにコードストロークをする一方で、スチュアートは軽やかにステップを踏むかのような動きのあるフレーズをつけています。まさにツボを押さえたプレイです。後半のヴァースでは音域を上げてワンノートを繰り返して、アレンジに変化をつけています。シンプルながら効果的なアプローチです。ベースというパートのおいしい部分を熟知したベーシストという印象を受けました。

    ④ waterbaby – Memory Be a Blade

    スウェーデンの新人が鳴らす、複雑かつ人懐っこいグルーヴ

    ウォーターベイビー(waterbaby)は、スウェーデン・ストックホルムを拠点に活動するミュージシャンのケンドラ・エゲルブラダ(Kendra Egerbladh)の音楽プロジェクトです。今回取り上げるのは、サブポップからリリースされたデビュー作『Memory Be a Blade』収録のタイトル曲です。

    フォーク、ジャズ、クラシック、R&B、ポップスなど、多様な要素から構成されたサウンドは複雑なニュアンスを漂わせつつも、同時に人懐っこさもたたえています。ウォームなトーンの力の抜けたベースがはかなげなヴォーカルとよく合っています。プロデュースを務めるマーカス・ホワイトがコントラバスを演奏しているようです。ホワイトはウォーターベイビーの音楽パートナー的な存在です。

    「Memory Be a Blade」はリズムがおもしろいことになっています。余白を大きく取ったシンプルなドラムのビートがハネないイーブンのリズムを刻む一方で、パーカッションが少しハネたようなリズムを刻んでいます。足元がおぼつかないようなグルーヴになっており、これが癖になります。

    ⑤ Ora Cogan – The Smoke

    ジャコ以前の名手たちを彷彿する、オールドスクールなフレットレス・ベース

    オーラ・コーガンはカナダ・ブリティッシュ・コロンビア州出身のシンガー・ソングライターです。ブルックリンのレーベル、セイクリッド・ボーンズからリリースされた最新作『Hard Hearted Woman』から「The Smoke」を取り上げます。

    50年代のロカビリーやカントリーに見られる、ルンバのリズムを取り入れたドラムのパターンが使われた曲です。スライドのニュアンスから察するに、ベースはフレットレスではないかと思われます。フレットレスといえば、ジャコ・パストリアスの印象が強いかもしれませんが、その前にもザ・バンドのリック・ダンコやバッド・カンパニーのボズ・バレル、ローリング・ストーンズのビル・ワイマンやクリームのジャック・ブルースといったベーシストにも使用されていました。「The Smoke」はオールドスクールなフレットレス・ベースを使ったプレイスタイルとなっています。ベースを弾いているのは、コーガンのバンドの一員のナンシー・ピテット(Nancy Pittet)というベーシストです。

    ◎Profile
    とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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