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    フレーズの切れ目の位置があまりにも渋い【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第12回:ジル・スコット、バーニス・トラヴィスほか

    • Text:Masamichi Torii
    • Illustration:Tako Yamamoto

    トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今月も最近リリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)

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    第11回

    目次

    ① Jill Scott – Norf Side feat. Tierra Whack

    ② Liam Bailey – Gold

    ③ Charlotte Day Wilson – If Only

    ④ aja monet – hollyweird

    ⑤ Gabriela Richardson, Rejjie Snow – Verde Oscura

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    ① Jill Scott – Norf Side feat. Tierra Whack

    フレーズの切れ目の位置があまりにも渋い

    90年代にローリン・ヒルやディアンジェロ、エリカ・バドゥらとネオソウル・シーンを牽引したジル・スコットの約11年ぶりとなる新作『To Whom This May Concern』からの一曲です。レジェンダリー・プロデューサー、プリモことDJプレミアがビートを提供しています。スコットは、ティエラ・ワックとともにラップを披露しています。ワックは全曲1分程度というアルバム『Whack World』で一気に知名度を上げたシンガー/ラッパーです。

    DJプレミアらしいドスの効いた無骨なビートです。ベースのファンキーなフレーズが耳を引きます。フレーズの切れ目の位置があまりにも渋いので震えます。短い音価でブツリと切れます。ベーシストが手グセで弾いていたらこうはならないと思われます。クレジットにはベーシストの名前がありません。ありものの音源をプレミアがエディットしたのかもしれません。いずれにせよ、癖になるようなインパクトの強いフレーズです。

    ② Liam Bailey – Gold

    1970年代のニューソウル ×レゲエを象徴する”ワンドロップ”

    レゲエやソウルから影響が色濃いリアム・ベイリーの来る新作『Shadow Town』からの先行カット。ベイリーはUK・ノッティンガム出身のシンガーソングライターで、これまでにレオン・マイケルズのプロデュースで《Big Crown》から2枚のアルバムをリリースしている。次作はジミー・ホガース(Jimmy Hogarth)がプロデュースを担当。今回取り上げる「Gold」でベースを弾いているのも彼です。

    「Gold」は、1970年代のマーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールド、ダニー・ハサウェイのようなシリアスなニューソウルを彷彿させるサウンドとレゲエを象徴するビート”ワンドロップ”がひとつになった曲です。リズムは緩やかにハネています。

    スペースを贅沢に使ったベース・ラインになっています。ビートがワンドロップなのでキックも少ないので、低音部がスカスカです。そのため、リバーブの効いたコーラスやストリングス、フルートなどが映える格好となっています。

    ③ Charlotte Day Wilson – If Only

    カナダ出身のシンガーがプレイする達者なベース・プレイ

    シャーロット・デイ・ウィルソンはカナダ・トロント出身のR&Bシンガー・ソングライター/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリストです。バッドバッドノットグッドやダニエル・シーザー、ケイトラナダといったカナダのミュージシャンたちともコラボレーションを行なっています。

    「If Only」は、2月6日にリリースされた最新EP『Patchwork』の収録曲です。90年代前半のR&B、スムース・ジャズ、レゲエ、アンビエントをごちゃ混ぜにした夢見心地のようなサウンドになっています。ウィルソンはプログラミング、シンセ、ピアノ、サックス、そしてベースを演奏しています。R&Bマナーの非常に達者なプレイです。音価の長短によってメリハリをつけて、躍動感を生んでいます。合間合間に挿入される遊びのフレーズがどれも気が利いてて、ハッとさせられます。アクティヴ・ピックアップのようなブリブリした重厚なトーンで、ボトムをしっかりと支えています。ベースが達者なミュージシャンはそれだけで信用できます。

    ④ aja monet – hollyweird

    バーニス・トラヴィスが弾くタフなジャズ・パンク

    アジャ・モネはニューヨーク・ブルックリン出身の詩人です。2023年にトランペット奏者のチーフ・アジュアといったジャズ・ミュージシャンたちと制作したポエトリー/スポークン・ワードのアルバム『When the Poems Do What They Do』をリリースして評判を呼びました。

    「hollyweird」は2月19日にリリースされたシングルで、タイトルから窺えるように、昨年ロサンゼルスで発生した大規模な山火事や世界の混乱を題材にしたものです。ジャズ・パンク、あるいはアフロ・パンクといったタフなサウンドになっています。

    ベースを弾いているのは『A Beautiful Revolution Pt. 1』(2020年)で、ロバート・グラスパー、カリーム・リギンスとともにプロデュースを務めたバーニス・トラヴィスです。グラスパーに同行して来日したこともあるベーシストです。「hollyweird」では切れ目を作らず、長い音価で地を這うようなフレーズを演奏し、不穏なムードを演出しています。

    ⑤ Gabriela Richardson, Rejjie Snow – Verde Oscura

    ラテン的な味わい溢れる、洒脱なベース・ライン

    スペイン・バルセロナ生まれのミュージシャン、ガブリエラ・リチャードソンのデビュー・アルバム『ISOLA』からの一曲です。アルバムは2月19日にリリースされたばかりですが、「Verde Oscura」はシングルとして2024年1月にリリースされています。ラップを披露しているゲストのレジー・スノウはアイルランドのラッパーです。

    文化系による小洒落たヒップホップといった趣のトラックとなっています。モンド・ミュージック的な手触りも感じられます。90年代末期の東京っぽい雰囲気と言ったら良いでしょうか。

    ベースを弾いているのはクレジットからは判明しませんでした。トレーシージョ(3-2クラーベの前半部分)のリズム・パターンを繰り返すミニマルな演奏です。トレーシージョをベースのフレーズに使うと、ファンキーでかつラテン的な味わいが出ます。夏っぽい雰囲気を演出したい場合にはうってつけだと思われます。

    『ISOLA』のベースでは、スヴェン・ワンダーっぽい「Una Notte」や隙間だらけの「Palomita Negrita」といった曲が耳を引きました。

    ◎Profile
    とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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