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“クルアンビン以降”のサウンド【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第11回:キット・セバスチャン、アルトゥン・ギュン、モモコ・ギルほか

  • Text:Masamichi Torii
  • Illustration:Tako Yamamoto

トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今月も最近リリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)

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第11回

目次

① Kit Sebastian – People Are Strange

② Altın Gün – Neredesin Sen

③ Momoko Gill – Heavy

④ Yellow Days – I Cannot Believe In Tomorrow

⑤ Sylvia Black – Long Gone Garden

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① Kit Sebastian – People Are Strange

Apple TVドラマ『プルリブス』で使用されたドアーズのカバー楽曲

キット・セバスチャンは、ロンドンとフランスで育ったキット・マーティンとトルコ・イスタンブール生まれのメルヴェ・エルデムによって結成されたふたり組のバンドです。1960年代のトルコで発展したアナトリアン・ロックやブラジルのMPB、フランスのイエイエ、イタリアの作曲家が手がけたサントラやライブラリー音源などにインスピレーションを得た音楽に取り組んでいます。日本では“クルアンビン以降”というタームで紹介されることが多いです。

今回取り上げる「People Are Strange」は、Apple TVで配信中のドラマ『プルリブス』に提供した楽曲です。言うまでもなくドアーズのカバーです。ドラマでは第6話のエンドクレジットで使用されています。ちなみに『プルリブス』は昨年観たドラマのうち最もおもしろかったものです。

歌詞はトルコ語に翻訳して歌っています。アレンジも原曲からがらりと変えており、アナトリアン・ロックな趣です。ベースもシックスティーズ・マナーで演奏されています。アタックのディープなトーンが気持ち良いですね。キャロル・ケイのような風情があります。フラット・ワウンド弦を張ったプレベでしょうか。ベースを弾いているのは、クレジットで確認できませんでしたが、おそらくキット・マーティンだと思われます。

② Altın Gün – Neredesin Sen

ピック弾きの硬質なベースが牽引するアンサンブル

アルトゥン・ギュンは、トルコ系オランダ人のメンバーたちによるバンドで、キット・セバスチャンと同じく、アナトリアン・ロックからの影響が色濃い音楽スタイルで知られています。トルコの民族楽器サズにピックアップを取り付けてエレキ化したものを演奏するメンバーもいます。“クルアンビン以降”というタームで紹介されることが多いのも、キット・セバスチャンと同じです。

「Neredesin Sen」は、アナトリア民謡歌手ネシェット・エルタシュの楽曲を取り上げたアルバム『Garip』からの先行カットとなっています。こちらのアルバムは2月20日にリリース予定となっています。

小気味よくピックで弦を震わせるベースの演奏が、バンド全体をぐいぐいと引っ張っています。演奏しているのはバンドのリーダー、ヤスパー・フェルフルスト(Jasper Verhulst)です。2000年代以降に一時代を築いた人気プロデューサー、デンジャー・マウスが好んでいたような硬めのベースのトーンになっています。

③ Momoko Gill – Heavy

昨年来日も果たしたモモコ・ギル。初ソロ・アルバムからの先行カット

モモコ・ギルは、ロンドンを拠点に活動するドラマー/ヴォーカリスト/ソングライター/マルチ・インストゥルメンタリストです。昨年リリースされた、イギリスの電子音楽家、マシュー・ハーバートとのコラボ作『Clay』も話題を呼びました。昨年はハーバート&モモコとして来日ツアーも行っています。

今回取り上げるのは、2026年2月13日にリリースされる初のソロ・アルバム『Momoko』からの先行カットとなっています。心が洗われるような美しい曲です。70年代SSWとネオソウルを感じさせる歌いぶりは、クレオ・ソルの作風に通ずるように感じます。

ダイナミクスの幅が広いアレンジになっており、ベースはなかなか登場しません。しかし、ひとたび演奏に加わると存在感を示します。タイトルのようにヘヴィなプレイになっています。クレジットには、ベーシストとしてDwayne KilvingtonとTym Dylanの名前があります。おそらく前者がシンセ・ベース、後者が5弦のエレキ・ベースを演奏しているのだと思われます。普通、ベースはステレオのセンターに置かれるものですが、このミックスでは右側にパンが振られています。60年代前半のステレオ・ミックスのようです。

④ Yellow Days – I Cannot Believe In Tomorrow

イエロー・デイズが放つオーセンティックなソウル/ファンク

イエロー・デイズはイギリス・サリーを拠点に活動するシンガーソングライターです。すでに10年ほど活動しており、かつてマック・デマルコやキング・クルールを引き合いにして紹介されることが多く、実際私もそのように認識しておりました。要するに、いわゆる“インディー”っぽい音楽だと捉えていたのです。それゆえに、今回紹介する「I Cannot Believe In Tomorrow」を聴いて驚きました。なぜならオーセンティックなソウル/ファンクに取り組んでいたからです。ビッグ・クラウンやダップトーン、コールマイン周辺の趣味の良いヴィンテージ・ソウルとは趣が異なり、溌剌としたサウンドに仕上がっていて、楽しい雰囲気です。

ベースは、イントロでジェームス・ブラウンのバンドに在籍していた頃のブーツィー・コリンズのようなプレイを披露しています。スムーズなウォーキングを演奏する場面もあります。ベースがバンドを引っ張っているといって過言ではないでしょう。

MVでクレジットされている名前を頼りに検索を続けたところ、UKのジャズバンド、KnatsのメンバーでベーシストのStan Woodwardがベースを弾いている可能性が高いです。

⑤ Sylvia Black – Long Gone Garden

コーラスのかかったベース・トーンのインパクト

シルヴィア・ブラックはヴォーカリスト/ベーシスト/ソングライター/プロデューサーといった肩書を持つマルチなミュージシャンです。バークリー音楽大学をベース専攻で卒業したのち、プロのミュージシャンとして仕事をしつつ、並行してソロ活動を行なっているようです。2018年にNETFLIXのドラマ『サブリナ : ダーク・アドベンチャー』にスクリーミン・ジェイ・ホーキンズの「I Put a Spell on You」のカバーを提供してます。

今回取り上げる「Long Gone Garden」は、1月16日にリリースされたアルバム『Shadowtime』からの一曲です。1980年代のポストパンク/ゴシック・ロックからの影響が色濃い作風となっています。ニュー・ロマンティックのダンス・チューンのような趣もあります。

まずコーラスをかけたベースのぶりぶりとしたトーンがまず耳を引きます。ブラック本人による演奏です。ひんやりと冷たい感じのサウンドです。乱暴なピッキングが殺伐とした雰囲気を演出しています。

◎Profile
とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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