プランのご案内
  • 【年末年始休業のお知らせ】2025年12月26日(金)12:00 ~ 2026年1月5日(月)12:00 ※期間中にいただきましたお問合せにつきましては、2026年1月5日(月)12:00以降、順次対応させていただきます。
  • NOTES

    UP

    フリーのソロ新曲はジャズへと接続するアプローチ【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第10回:フリー、コリー・ウォンほか

    • Text:Masamichi Torii
    • Illustration:Tako Yamamoto

    トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今月も最近リリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)

    ◎連載一覧はこちら

    第10回

    目次

    ① Flea – A Plea

    ② The Cavemen. – Chameleon

    ③ Sabine McCalla – Sunshine Kisses

    ④ Cory Wong – Blame It On The Moon

    ⑤ The Olympians – California

    ◎お知らせ
    当連載で取り上げてきた楽曲がプレイリストになりました。フォローよろしくお願いします!
    Spotifyはこちら
    Apple Musicはこちら

    ① Flea – A Plea

    フリー初のソロ・アルバムからの先行カット

    レッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシスト、フリーが初となるソロ・アルバムを制作しているそうです。こちらの「Plea」は、そのアルバムからの先行カットとなります。

    フリーはベースとトランペットを演奏しています。参加メンバーは、トータスのジェフ・パーカー(g)、パーカーやマカヤ・マクレイヴン周辺で活躍中のアンナ・バターズ(double bass)、ジョシュ・ジョンソン(sax)、アトムス・フォー・ピースのマウロ・レフォスコ(per)等が参加しています。

    こうした参加メンバーから予想できるように、ストレートなロックではなく、広い意味でのジャズ的な仕上がりになっています。とはいえ、主役のフリーはまさしくフリーらしいアグレッシヴなプレイを披露しています。いつものギラギラしたトーンで、マッシブなフレーズを演奏しています。

    7分38秒と長いトラックです。後半にはフリーのポエトリーリーディングが登場します。マーク・リボーのパンク・ジャズに近い感触があります。

    ② The Cavemen. – Chameleon

    ヴォーカルと各楽器の演奏が有機的に結びついたアレンジ

    ナイジェリア・ラゴス出身の兄弟二人によるハイライフ・フュージョン・バンド、ザ・ケイヴメンの新作『Cavy In The City』からの一曲です。彼らは過去にフリーとコラボレーションをしています。ガーナ出身のラッパー、M.アニフェスト(PUFF PUFF)の「PUFF PUFF」(2024年)です。フリーはトランペットで参加していました。

    「Chameleon」はスローでメロウなハイライフとなっています。トラックの主役はギターとベースです。ギターとベースのフレーズが重なったり、コール&レスポンスのようになったりするアレンジがおもしろく感じられます。西アフリカの音楽は、ヴォーカルや各楽器の演奏が有機的に結びついたアレンジが特徴で、それがこういう曲の一番好きな点です。

    ベースを弾いているのは、兄のキングスリー・オコリーです。ハイ・ポジション寄りの音域でスイートなフレーズを繰り出しています。力の抜けた演奏です。なんて穏やかなトーンなのでしょうか。

    ③ Sabine McCalla – Sunshine Kisses

    ニューオーリンズを起点にアメリカーナとカリビアンの結びつきを音楽で描く

    ニューオーリンズを拠点に活動するシンガーソングライター、サビーヌ・マッカラの1stアルバムとなる『Don’t Call Me Baby』からの一曲です。

    サビーヌの姉は、チェロ奏者でシンガーソングライターのレイラ・マッカラです。レイラが2024年にリリースした『Sun Without the Heat』もとても素晴らしいアルバムでした。

    サビーヌの『Don’t Call Me Baby』も2025年のベスト・アルバムに選びたくなるほどの充実した作品です。地元ニューオーリンズを起点にアメリカーナとカリビアンの結びつきを音楽で描くといった内容になっています。

    「Sunshine Kisses」は、ボサノヴァとスカとカリプソが混じったような不思議な曲です。そして、ベースのリズムはソン・モントゥーノ風です。ソン・モントゥーノとは、キューバの音楽ソンの一番盛り上がるサビ的なセクションのことです。ブラジルとジャマイカとトリニダード・トバゴとキューバのバイブが混交しています。ベースを演奏しているのはロイ・ブランク(Roy Brenc)というニューオーリンズのベーシストです。静かに躍動するベース・ラインとなっています。

    ④ Cory Wong – Blame It On The Moon

    ベースが複雑なシンコペーションを駆使する、ハイテンションなダンス・チューン

    2025年はソロでもヴルフペックでも来日して日本の音楽ファンを大いに沸かせたコリー・ウォンの最新シングルです。来年2月にリリースされるアルバム『Lost In The Wonder』の先行カットとなっています。

    コリーはこの曲で、マイアミのチアフルなファンク・バンド、マジック・シティ・ヒッピーズとのコラボレーションを行なっています。コリーの地元、ミネアポリス産のシャープなファンクとマイアミ産のトロピカル・ディスコが同居するハイテンションなダンス・チューンです。

    ベースを弾いているのは、マジック・シティ・ヒッピーズのギタリスト/ベーシスト、ジョン・コフリン。聴けばわかるように、非常に達者なプレイヤーですね。音価の短いパーカッシヴなプレイを披露しています。ジェリー・ジェモットの系譜だといえるかもしれません。

    四つ打ちのシンプルなビートの曲ですが、ベースが複雑なシンコペーションを駆使してアグレッシヴなプレイをしているので、賑やかなトラックに仕上がっています。

    ⑤ The Olympians – California

    シカゴ・ソウルをトリビュートするブルックリン産のインスト・ソウル

    ダップトーン・レコードからリリースされたジ・オリンピアンズのシングルです。オリンピアンズはリー・フィールズ・アンド・ザ・エクスプレッションズやエル・マイケル・アフェアに参加するミュージシャン、トビー・パズナー(Toby Pazner)を中心としたプロジェクトです。

    「California」というタイトルの曲ですが、ブルックリン産のインスト・ソウルです。チャールズ・スッテプニーがプロデュースしたマリーナ・ショウ「California Soul」やミニー・リパートン「Les Fleur」、あるいはステップニーとリパートンが在籍したロータリー・コネクションの諸作などを彷彿させるサウンドです。つまり、「California」はシカゴ・ソウルをトリビュートするブルックリン産のシングルということです。

    「California」でパズナーは、ピアノ、ギター、ベースを担当しています。ボンボンと弾むようなベースが心地よいです。こうしたクリシェ進行の曲では、コードのルートを担うベースがトラックを支配していると言っても過言ではありません。

    ◎Profile
    とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
    X Instagram