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ダニエル・シーザーの新曲は70年代の細野晴臣風!?【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第9回:ドライ・クリーニング、オートマティックほか
- Text:Masamichi Torii
- Illustration:Tako Yamamoto
トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今回は9月〜11月にリリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)
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第9回
目次
① Daniel Caesar – Root Of All Evil
② Dry Cleaning – Hit My Head All Day
⑤ CARRTOONS – THURSDAY DISCO (feat. Hailé Supreme)
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① Daniel Caesar – Root Of All Evil
70年代の細野晴臣を彷彿する、ダニエル・シーザーの新曲
ダニエル・シーザーが10月24日にリリースした『Son Of Spergy』からの一曲です。70年代の細野晴臣の作風を連想せずにはいられない曲調です。浮遊感が漂う和声感覚といったら良いでしょうか。
クレジットにはベースとしてプロデューサーのサー・ディランとダニエル・シーザー本人の名前がありました。サー・ディランは、ジャスティン・ビーバーやSZA、ロザリア、ロジック、ウィークエンドなどと仕事をしている人物で、業界ではヒップな存在だといえるでしょう。
まったりとしたメロディアスなベース・リフが印象的です。スペースをたっぷりと使ったリラックスしたフレーズ、ふかふかの布団の上に倒れ込んだときのような気持ち良さがあります。
曲調は細野晴臣的ですが、細野だったらこのようなベースを弾かないと思われます。なぜなら、以前インタビューで“伸ばしっぱなしの音が嫌いだ”と言っていたからです。ミュートで音価をコントロールし、メリハリをつけるのが細野流ということなのだと思われます。
② Dry Cleaning – Hit My Head All Day
ドスの利いたベースが失禁レベルのかっこよさ
ロンドンのポストパンク・バンド、ドライ・クリーニングの新曲です。2026年1月9日にリリース予定の3作目『Secret Love』からの先行カットとなっています。過去の2作は、PJハーヴェイとのコラボレーションやオルダス・ハーディングとの仕事で知られるジョン・パリッシュがプロデューサーを務めていました。次作はケイト・ル・ボンをプロデューサーに迎えたそうです。ソロで活動しつつ、近年はデヴェンドラ・バンハートやウィルコ、ホースガールのプロデュースでも知られています。どちらも大好きなので、個人的には最高のコラボレーションです。
ドスの利いたベースが失禁レベルのかっこよさです。音量が大きいのも嬉しい。ポストパンク仕立てのファンクといった趣のアレンジをベースが引っ張っています。演奏しているのは、バンドのベーシスト、ルイス・メイナードです。ときおり挿入される16分のゴーストノートがさりげないファンクネスを醸しています。おそらくピックで弾いているのではないでしょうか。倍音のギラギラ感を抑えたトーンのため、ドライ・クリーニングの特徴であるポストパンクマナーのエッジの効いたギターが映えます。
③ Automatic – mq9
ミニマルなベース・リフの催眠効果で、頭がくらくら
ロサンゼルスのポストパンク・トリオ、オートマティックが9月26日にストーンズ・スロウよりリリースした『Is It Now?』からの一曲です。ギャング・オブ・フォーと同じくUK・リーズ出身のデルタ5やニューヨーク・ブロンクス出身のESGのような往年のポストパンク/ミュータント・ディスコ/ディスコ・パンクを思わせるダンサブルかつどこか気怠けなサウンドです。
「mq9」はまさにデルタ5とESGの間の子といった趣のダンス・チューンです。歌メロはもろにデルタ5「Mind Your Own Business」を本歌取りしています。ミニマルなベースのリフには催眠効果があって、頭がくらくらします。ギラギラしすぎていない、くすんだ色合いのベースのトーンもおしゃれです。ベースを弾いているのはメンバーのハル・サクソン(Halle Saxon)。ライヴ写真を見る限り、ジャズベを使用しているようです。
メンバー3人ともにオシャレで、立ち姿が絵になるバンドです。昨年9月にロサンゼルスにあるストーンズ・スロウのオフィスを表敬訪問する機会があったのですが、そのときスタジオでミックス作業をしていたのは彼女たちだったのではないかという気がしています。昨年の12月には来日公演をしていた模様です。行けば良かった。
④ Dina Ögon – Margaretas sång
スウェーデンの達人たちが奏でる、80年代アメリカ産ブギー的グルーヴ
スウェーデンのバンド、ディナ・オゴンが来年2月6日にリリースする予定の新作『Människobarn』からの先行カットです。ときにディナ・オゴンとは何者か。ジャズの素養を持つミュージシャンたちが、キャリアを積んだのちに結成したのがディナ・オゴンです。アメリカのSSW、ソフト・ロック、ソウル、ファンク、ジャズ、ブラジルのMPBをモダンなイディオムで再構築したような夢見心地のサウンドが彼らの特徴です。クルアンビン以降の“チル”なグルーヴも感じられます。
「Margaretas sång」は、80年代のアメリカ産ブギーのようなグルーヴが心地よく、踊らずにはいられない曲です。ヒップホップでは大ネタと呼ばれるメリー・ジェーン・ガールズ「All Night Long」やケニ・バーク「Risin’ To The Top」あたりを思わせるグルーヴですね。ベースを弾いているのはメンバーのラヴ・オーサン(Love Örsan)です。単に同じフレーズを繰り返し演奏するのではなく、少しずつ変形させて演奏しています。達人の技です。
⑤ CARRTOONS – THURSDAY DISCO (feat. Hailé Supreme)
硬めのトーンのキックとベースのコンビネーションが見事
ベーシスト/マルチ・インストゥルメンタリスト、ベン・カー(Ben Carr)によるソロ・プロジェクト、カートゥーンズの最新作『Space Cadet』からの一曲です。宇宙服を身にまとい、ミントグリーンのプレベを抱えたジャケットが目を引きます。テクいベースを弾きまくりそうな雰囲気が漂いますが、どっこいソング・オリエンテッドで的確なプレイを披露しています。今回紹介する「THURSDAY DISCO」もそうした一曲です。
ノトーリアス・B.I.G.「Hypnotize」でサンプリングされたことでお馴染みのハーブ・アルパート 「Rise」を連想させるグルーヴをバックに、ゲストのハイレ・シュプリーム(Hailé Supreme)がマーヴィン・ゲイ調のメロディを歌い上げています。硬めのトーンのキックとベースのコンビネーションが見事です。余計な音を足さない潔さも気持ちが良い。他方、終盤にさらりと挿入される遊びのフレーズも粋です。ビジュアルはファニーですが、プレイはいぶし銀のカートゥーンズです。
◎Profile
とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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