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第7回:リスナーの下半身を揺らしにかかるプレイ【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】:タッチ・センシティブ、カーティス・ハーディングほか
- Text:Masamichi Torii
- Illustration:Tako Yamamoto
トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今回は8〜9月にリリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)
◎連載一覧はこちら。
第7回
目次
① Touch Sensitive – Club Med Anthem
② Curtis Harding – True Love Can’t Be Blind
③ H 3 F – Lord, I Gotta Move On
④ Charlotte Dos Santos – Pot Of Gold
⑤ Sessa – Vale a Pena (Official Music Video)
① Touch Sensitive – Club Med Anthem
繊細に音価コントロールをして、リスナーの下半身を揺らしにかかるプレイ
タッチ・センシティブは、オーストラリア・シドニーのエレクトロ・ポップ・バンド、ヴァン・シーのマイケル・ディ・フランチェスコのソロ・プロジェクト。ヴァン・シーではギターとシンセを担当するフランチェスコですが、ソロではベーシストとしての顔を前面に押し出しています。レコ屋の500円コーナーで見かけそうな素敵なジャケットにもベースが描かれています。
「Club Med Anthem」は新作『In Paradise』の収録曲で、後期ディスコであるところのブギー調のダンス・チューンです。ラリー・レヴァンが取り上げそうなバイブが漂っています。ラウンド・ワウンド弦をブリブリさせつつも、繊細に音価コントロールをして、リスナーの下半身を揺らしにかかるプレイです。その粘っこいタイム感に誰かが甘いお酒をこぼしたフロアで踊っているかのような気分になります。
曲の後半に設けられたベース・ソロではスラップを披露しています。山下達郎のサポートでお馴染みの伊藤広規を連想させるようなスラップです。
② Curtis Harding – True Love Can’t Be Blind
ベースだけでビートを生み出すヴァース部分に注目
カーティス・ハーディングは、アトランタを拠点に活動するソウル・シンガーです。今回紹介する「True Love Can’t Be Blind」は、4年ぶりとなる4作目『Departures & Arrivals: Adventures of Captain Curt』の収録曲です。エキゾチックな香りのするアレンジのソウルとなっています。
ヴァース部分は、ハットが16分を刻み、ピアノが慎ましく白玉を鳴らすなか、ベースが屋台骨としてグルーヴを司っています。ベースだけでビートを生み出す能力が試される場面です。
先日、ベース・マガジン主催のベース・セミナーでヴルフペックのジョー・ダートがひとりでベースを弾くのを生で聴く機会がありました。どんなフレーズを弾いていてもビートが感じられるので、改めて恐れ入った次第です。
それに近い感覚を「True Love Can’t Be Blind」のベースに覚えました。これを弾いているのは、サム・パンキー(Sam Pankey) というベーシストです。情報が少ないのですが、ジャズ系のミュージシャンのようです。
③ H 3 F – Lord, I Gotta Move On
タイ・バンコク出身の4人組バンドによる、ウェストコースト・ロックへの思慕
H 3 F は、タイ・バンコク出身の4人組バンドです。これまでに何度か日本にも来ていたそうです。今回取り上げる「Lord, I Gotta Move On」は『Cha La La Love』に収録されています。
イントロはドゥービー・ブラザーズ「What a Fool Believes」やロビー・デュプリー「Steal Away」タイプのリズム・パターンを連想させるギター・リフです。このギターの音がとても良い。良い機材を使ってそうな音です。そして、バンドがインしてもその印象は変わりません。むろんベースも、ほどよい太さ、ほどよいコシ、ほどよいアタック感があり極上のトーンです。
「Lord, I Gotta Move On」は、往年のウェストコースト・ロックへの思慕が明らかです。“渋いロック”を演奏することへの躊躇が感じられないH 3 F に好感を抱かずにはいられません。
ベースはシャープなタイム感で演奏しています。ベースです。ドラムとのコンビネーションも抜群。こちらを演奏しているのは、メンバーのMhom Thanabatrです。
④ Charlotte Dos Santos – Pot Of Gold
ジャズのミュージシャンがソウルやファンク、サイケを演奏しているかのよう
ブラジル系ノルウェー人シンガー/作曲家/編曲家、シャーロット・ドス・サントスの最新シングルです。10月にリリースされるEP『Neve Azul』からの先行カットとなります。サントスは、先日リリースされたブラッド・オレンジの『Essex Honey』収録の「Life」にも参加しています。
ベースを弾いているのは、マグナス・ファルケンベリ(Magnus Falkenberg)というノルウェー・オスロを拠点にするベーシストです。歯ごたえのある芯の硬いトーンが耳に心地よいです。茹で時間が短めの麺のようです。
ベースのフレーズには、アメリカ産のソウルやR&Bというよりも、イタリアのモンド映画のサントラや、イギリスのライブラリーミュージックの名門レーベル〈kpm〉の諸作のようなバイブが漂っています。ジャズのミュージシャンがソウルやファンク、サイケを演奏しているかのような仕上がりと言ったら良いでしょうか。
ベースの音作りにおいて、キックの帯域に対してベースが上にいくか、下にいくかという問題があります。こちらの音源はキックに対して上にいった例です。音作りの参考になると思われます。
⑤ Sessa – Vale a Pena
まずイントロのベースの太さにびっくりします。
セッサ(Sessa)はブラジル・サンパウロのシンガーソングライターです。ガロータス・スエカスの元メンバーで、2019年の『Grandeza』でソロ・デビュー。坂本慎太郎のファンには、彼のUSツアーでオープニングアクトを務めたミュージシャンとしておなじみです。
「Vale a Pena」は、最新作『Pequena Vertigem de Amor』からの先行カットとなります。
まずイントロのベースの太さにびっくりします。ボトムが低くて太くて落ち着きがあって気持ちの良い音です。がっつりミュートしたうえで、しっかりと弦を弾いているのがわかります。こうした太いトーンを出したいときは、ドラム・セットのタムを叩くところをイメージすると良いかもしれません。私はベースをディケイの長いタムだと捉えているところがあります。
こちらのベースを弾いているのは、マルセロ・カブラル(Marcelo Cabral)というミュージシャンです。エレピやギターストリングス、女性コーラスなどのウワモノが映えるように、スペースを大きく確保したミニマルなアプローチで演奏しています。
えます。要するに、音そのものが躍動していなければ、踊れる音楽にならないということです。そして「Music Will Explain」のベースはまさに躍動しています。運動そのものを音で見事に表現しています。
◎Profile
とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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