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第5回:ベースの色気ってなんなんだろう【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】
- Text:Masamichi Torii
- Illustration:Tako Yamamoto
トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今回は6〜7月にリリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)
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第5回
目次
③ Alberto Continentino – Manjar de Luz
④ Charlie Hunter & Ella Feingold – Agitated Fonk
① Kokoroko – Just Can’t Wait
80’sブギーにオマージュを捧げるベース・ライン
ロンドンのアフロ・ジャズ・バンド、ココロコの新作『Tuff Times Never Last』からの一曲です。ドリーミーなシンセのイントロを抜けると、場面が一気にパーティーへと変わります。
ベースがブリブリしたトーンで、スラップを交えつつ、エイティーズのブギーにオマージュを捧げるゴリゴリのベース・ラインを演奏します。ベースを中心に据えたアレンジです。S.O.S.バンド、ギャップ・バンド、パトリース・ラッシェン、エムトゥーメイのようなバイブスが漲っています。クラブで聴きたい一曲です。カーラジオから流れてきても気持ちが良さそうです。ゲーム『GTA』内のラジオでも可。
演奏しているのはバンドのベーシスト、デュアン・アザーリー(Duane Atherley)です。言うまでもなくお上手です。達者なプレイがそのまま色気につながっていると感じます。じゃあベースの色気ってなんなんだよ、という話になりますが、私は焦らしと急かしの緩急だと私は考えます。
② Say She She – Cut & Rewind
ミュータント・ディスコを彷彿させる素っ頓狂でカクカクしたリフ
今年10月にリリース予定のアルバム『Cut & Rewind』から先行カットされたタイトル・トラックです。セイ・シー・シーは、ブルックリンを拠点に活動するヴォーカル・トリオです。3人ともに声楽の素養を持つとのことです。在りし日のヒップなディスコ・カルチャーへの憧憬を滲ませた作風で知られるグループです。
今回取り上げる「Cut & Rewind」は、ベースのリフから始まります。80年代ニューヨークを象徴するZEレコード産のミュータント・ディスコを彷彿させる素っ頓狂でカクカクしたリフが耳を引きます。明らかにピックの音ですね。タイトです。
ベースを弾いているのは、セイ・シー・シーのバンドでベーシストを務めているデイル・ジェニングス(Dale Jennings)です。LAのファンク・バンド、オルゴン(Orgone)にも参加しています。オルゴンでも体脂肪率が低そうなタイトなプレイをしているので、ポスト・パンク的なプレイのお手のものなのかもしれません。
③ Alberto Continentino – Manjar de Luz
ブラジル・ベース界の重要人物が聴かせる、官能のグルーヴ
ブラジルを代表するベーシスト、アルベルト・コンチネンチーノのソロ作からの一曲です。コチネンチーノは1978年、リオ・デ・ジャネイロ生まれのミュージシャンで、10代の頃からカエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメントといったレジェンドと仕事をしていたそうです。エヂ・モッタやセウ・ジョルジとも共演しています。近年は、ドラ・モレレンバウムやジュリア・メストレや、ふたりを擁するバーラ・デゼージョ、そして、アナ・フランゴ・エレトリコなど、ブラジルを背負って立つ若手たちの作品にも参加しています。コンチネンチーノは、現代MPBシーンの影のキーマンだといえるでしょう。
「Manjar de Luz」は面妖で官能的な曲です。コンチネンチーノのプレイもセクシーです。ココロコのデュアン・アザーリーのプレイと同様に、焦らしと急かしの同居が色っぽさにつながっているのだと思います。すこしハネたグルーヴを土台とした、つっかえるような足取りのフレーズがたまりません。
④ Charlie Hunter & Ella Feingold – Agitated Fonk
ギターとベースのハイブリッド楽器を操る、チャーリー・ハンター
チャーリー・ハンターとエラ・ファインゴールドというふたりのギタリストの共演作『Different Strokes for Different Folks』からの一曲です。ハンターはギタリストではありますが、ギターとベースを合体させた8弦ギターを使用していることで知られています。ベースの弦が3本、ギターの弦が5本という構成の特殊なギターです。それぞれ異なるピックアップから出力される仕組みになっています。ハンターはギタリストでもありベーシストという稀有なプレイヤーです。
R&Bファンにはディアンジェロ「Spanish Joint」やフランク・オーシャン「Sweet Life」での演奏で知られる存在です。今回はハイブリッド6弦ギターを使用したそうです。対するファインゴールドはシルク・ソニックへの参加で注目されるギタリストです。ドラムを叩いてるのはハンターらしく、本当にこのふたりだけで作ったアルバムなのだそうです。
「Agitated Fonk」は、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、P‐FUNK、プリンス、ディアンジェロという系譜を感じさせるファンクです。特殊な楽器を使っていても、オーセンティックなファンクのバイブを感じさせます。
⑤ U.S. Girls – No Fruit
グラム・ロック時代のデヴィッド・ボウイへのオマージュ
U.S.ガールズは、シカゴ出身で現在はトロントを拠点に活動するメグ・レミーのプロジェクトです。今回取り上げる「No Fruit」は、4ADからリリースされた新作『Scratch It』からの一曲。一聴すればわかるように、グラム・ロック時代のデヴィッド・ボウイにオマージュが捧げられています。バンドの演奏はまさにスパイダーズ・フロム・マーズのようです。
ベースを弾くのは、グリーンホーンズのメンバーで、ジャック・ホワイトのザ・ラカンターズやザ・デッド・ウェザーにも参加するジャック・ローレンス。必ずしもスパイダーズのベーシスト、トレヴァー・ボルダー風に演奏しているわけではありません。どちらかというと、デヴィッド・アクセルロッドの作品に参加しているときのキャロル・ケイのようなバイブがあります。ピック弾きの歯切れ良さがありつつ、ボヨンボヨンと軽やかに弾むような演奏です。パームミュート、もしくはスポンジフォームでミュートしていそうな雰囲気があります。バンドを後ろがプッシュするかのようなタイム感がグッドです。
◎Profile
とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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