プランのご案内
  • NOTES

    UP

    魅惑のブラックボックス(前篇)【高松浩史の音色探索 その箱の中は地獄より深い】– 第1回

    以前本誌にて掲載していた、高松浩史(THE NOVEMBERS/Petit Brabancon)による連載がBM Webで復活! マニアックなものからビギナー向けのお勉強企画まで、豊富な機材知識を持つ高松がエフェクターを語り尽くします。記念すべきBM Web版の第1回は、ベーシストお馴染みのあのペダルについて!

    TECH21 SANSAMP BASS DRIVER DI

    Bass Magazine Webをご覧の皆様、ごきげんいかがでしょうか。高松浩史です。
    2018年8月号から2021年8月号までベース・マガジン本誌にて連載させていただいた当コラム。なんと今回からBM Webで再開させていただけることになりました……! 誌面での連載時は少々マニアックな内容が多かったのですが、これからは初心者の人にも楽しんでいただけるような内容も発信していきたいと思っております。
    どうぞ、よろしくお願いいたします。

    記念すべき連載第1回目は、僕の大好きなTECH21社のSANSAMP BASS DRIVER DIについて。

    さっそくですが、僕のコレクションを見てください。

    どうでしょうか? 一番上段のひとつ以外、すべて一緒に見えますか? 答えは“一緒とも言えるし、違うとも言える”です……! 製品名としては“SANSAMP BASS DRIVER DI”ですが、製造時期によって仕様や音が違うのです。

    今回は僕のコレクションをもとに、細かく解説をしていきたいと思います。なおベース・マガジン2019年12月号の『SANSAMP BASS DRIVER DI特集』にてすでに言及されていることもあると思います。資料としてとても素晴らしいのでぜひ読んでみてください。僕も歴代のモデルを弾き比べるといったコーナーに参加しております!

    まずわかりやすいように、分類ごとにわけてみました。まず一番上段のシンプルな個体①から見ていきましょう。

    SANSAMP BASS DI。箱やマニュアルなども残っているもので、今となってはかなり貴重なものです。

    こちらはSANSAMP BASS DRIVER DIになる前身のモデルで、SANSAMP BASS DIという製品です。裏蓋を開けると4つの小さなコントロールがあります。それぞれLEVEL(ヴォリューム)、BLEND(原音とエフェクト音のミックス具合)、PRESENCE(超高域、“キャンキャン”という帯域)、DRIVE(歪み具合)を調整できます。このモデルはXLR出力にしかエフェクトがかかりません。さらにはフットスイッチがついておりません。ですので、名前のとおりDIとしての側面が強い製品です。
    音はとてもナチュラル。もちろん、“サンズアンプっぽさ”はあるのですが、“これ、本当にサンズアンプ?”といった感じ。BASSやTREBLEなどのイコライザーがついていないので過剰なイヤらしさがなく、扱いやすいです。

    次に②を見ていきましょう。SANSAMP BASS DRIVER DIです。

    こちらはSANSAMP BASS DRIVER DIへバージョンアップされて最初の仕様。“V1初期”や“V1前期”などと呼ばれていますね。BASS DIでは筐体内部にあったコントロールが表に出て、さらにBASS、TREBLEのコントロールが追加されました。フットスイッチも追加され、通常のOUTPUTからもエフェクトがかかって出力されるため、使い勝手がエフェクターっぽくなりました。音は有機的といいますか、太さを感じます。
    実は現在、写真の②のとおり、この仕様のBASS DRIVER DIを5台所有していますが、すべて仕様が違うんです。写真で見ていきましょう(一番右の個体は改造品なので割愛)。

    最初期のノイトリック社製XLRジャックが使用されているもの。シルバーとブラックがあり、調査したところ、僕が持っているなかではシルバーが最も古く、ブラックがその次に古いという順番のようです。
    フットスイッチのナット形状にも違いがあります。
    XLRジャックの違い。ネジの色も違いますね。

    どうでしょうか。かなり細かな差ですが、少しずつ仕様が変わっていておもしろいですよね。ちなみに音ですが、最初期のふたつの個体は音量が小さく、バイパスも少しナチュラルに感じます。ですが仕様によってどう違う、といったことは断言できません。
    というのも、SANSAMP BASS DRIVER DIの、特にこの古いバージョンでは個体差があると言われています。確かに何台か弾き比べると、音がタイトな個体があったりと、バイパス音に差があります。僕が所有しているなかですと、シルバーのノイトリック・ジャックの個体がまさに音がタイトです。実は“使用していくうちに音が変化するパーツ”が使用されているという噂が……。
    個人的な見解ですが、新品のときはそこまで大きく音が違う(もちろん、製造時期によって使用されているパーツの品番も変わっているので、違うとは思いますが)といったことはなく、発売から約30年もたっているわけですから、“使われ度合い”によって音が違う=個体差につながるのかなと思っています。ですので、“製造時期や仕様による差”よりも、“どれだけ使用されてきたかによる個体差”のほうが大きいのかなと予想しています。

    ……ということで、僕のSANSAMPコレクションのうち、②までを紹介・考察してきました。残りの③④については次回!

    最後に、輸入代理店であるキクタニミュージック株式会社の中垣康博氏【Nik’s Mod Works(a.k.a DJ NIKON)】 のお力添えで、TECH21社にメール・インタビューをさせていただきました。しかも、なんと、社長であるアンドリュー・バータ氏に回答していただきました……!! こちらも2回に分けて掲載いたします。僕が以前から気になっていたことを質問させていただいたので、とても嬉しかったです。中垣さん、アンドリューさん、ありがとうございました! それではQ&Aをどうぞ。

    ・      ・      ・

    ━━BASS DIからBASS DRIVER DIへモデル・チェンジしようと考えたきっかけとは?

     90年代初頭当時、ほとんどのプレイヤーはひとつの素晴らしいサウンドを求めていましたが、単に標準的なDIを提供するだけの会場の環境に悩まされていました。そのため当初の設計意図は、セット・アンド・フォーゲット(一度設定したらもうそのことを気にする必要がなくなる)なダイレクトボックス・フォーマットで、環境に左右されない素晴らしいサウンドを提供すること。プレイヤーのニーズが変化するにつれ、コントロールに外側からアクセスできるようにしてほしいという要望を受けるようになったのです。私たちは常にお客様の声に耳を傾けています。ですから、理にかなっていて実現可能なことであれば、そのニーズに応えるために設計変更を行なうことにしています。

    ━━最初期のBASS DRIVER DIはノイトリック社製のXLRジャックが使われています。こちらはシルバーのものとブラックのものが混在するようですが、何か使い分けの理由はありますか?

     技術的な理由はありません。色の違いを試していただけです。

    ━━初期のV1(1サイド・スイッチ搭載モデル)のフットスイッチ・ナットは、丸型と六角形がありましたが、どのように使い分けられていたのでしょうか?

     SANSAMP CLASSICを発表した当初は、標準的なカーリング・スイッチを使用していました。そしてSANSAMP BASS DRIVERでは、上部のデザインはそのままに、下部をタクト・スイッチに変更しています。加えて寿命を延ばすために、100万回以上の作動が可能なオムロンのタクト・スイッチを採用しました。その後、ナットによる固定を必要としないカスタム・アクチュエーター(内部からスイッチ筐体をかしめてハズれなくする機構)を開発しました。これは信頼性を高め、ナットが緩む可能性をなくすためのもの。私たちの哲学は、製造するものすべてについて、品質とデザインを向上させる方法を常に模索することなのです。

    ━━使用されているパーツのなかには、使用していくと音が変化していくものがあるという噂を聞きました。それが個体差につながっているとも。これは本当でしょうか? また、具体的にはどのような変化がありますか?(個人的な経験から、たくさん使われてきた個体ほど、ヴォリュームが少し落ちて音がタイトになるような印象があります)

     ソリッド・ステート・コンポーネントの場合、そのようなことはないはずです。もし違いが感じられるのであれば、電源、特にバッテリーであれば、徐々にパワーを失い、消耗するにつれて全体的な性能に影響を与えるので、電源に注目します。

    【キクタニミュージック株式会社中垣氏の注釈】
    回路内の定数変更ではなく、パーツ自体による経年変化があるとすれば、電解コンデンサの劣化はあるとは思います。使用時間が長くなれば熱により容量は抜けていく方向に向かいます。そして初期のモデルはスルー・ホールで基板に実装されているパーツがほぼ電解コンデンサ(とダイオード)なのでその傾向はあるはずです。ただこの電解コンデンサがすべて電源部のもの、というわけではないので、逆に電源部分に限った話ではないと考えます。面実装のコンデンサはセラミックとメタルフィルムで構成されているので、スルーホールの電解よりは熱にも経年劣化にも耐性があります。従って音質変化に影響があるとすれば電解コンデンサによるものが濃厚で、その他各パーツへの熱負荷もそれぞれ影響しているのかも知れません。

    ・      ・      ・

    以上、第1回ということで、僕の大好きなSANSAMP BASS DRIVER DIの変遷を紹介をしてみました。第2回目の後半では、より皆さんに馴染みの深いであろうモデルたちを紹介していこうと思います。
    それでは、今回はこの辺で。ご覧いただきありがとうございました!

    ◎Profile
    たかまつ・ひろふみ●栃木県出身。2002年に高校の同級生だった小林祐介(vo,g)とともに前身バンドを結成する。2005年からTHE NOVEMBERSとしての活動を開始し現在までに8枚のフル・アルバムなどを発表している。2021年からは京(vo)、yukihiro(d)を中心としたプロジェクトPetit Brabancon、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSのメンバーとしても活躍している。そのた、Lillies and Remains、圭、健康のサポート・ベーシストも務めている。

    ◎Information
    Twitter Instagram