2011年に結成された新世代のジャズを切り開くピアノ・トリオ、Primitive Art Orchestra。そのメンバーでもある、ベーシストの森田晃平とピアニスト・キーボーディストの木村イオリがデュオによる作品を完成させた。4年ほど前からデュオでの活動もしているという彼らの『Blessings -in Yatsugatake Kogen Ongakudo-』と名づけられた1stアルバムは、タイトルどおり、自然な響きが豊かな八ヶ岳高原音楽堂というホールで録音されたもので、普段の個々の活動やバンドでは実現できなかった音作りやポストクラシカルな曲想を展開している。

　静謐なウッド・ベースによるハーモニクス音からスタートし、アルコとピチカートを使い分けながら紡がれるメロディが優しい「Voice of the Trees」、端正なピアノとアルコの深みのある音色が織りなす旋律が爽やかに吹き抜ける「Blessing from the wind」、切なく情感溢れるベース・ソロを聴かせる「Dew Drops」、ピアノとウッド・ベースが入れ替わりながら大きな流れのメロディを紡ぐ「Gentle Living」、後半に登場するアルコの雄大な響きがドラマティックな「Highland」など、ピアノとウッド・ベースが1対1で向き合った楽曲はどれも非常に美しい。そのハイライトが24分を超える大作組曲「日本組曲 春」で、まさに日本人的な美的感覚に彩られたサウンドスケープが物語を描くように展開していく。

　ふたつのアコースティック楽器によるナチュラルなサウンドは、このコロナ禍において多くの人の心に染み込んでいくはずだ。