GEAR
UP
スリーク・エリートが広げるベースの世界 vol.2 〜 Nordstrand ACINONYX feat. 後鳥亮介(indigo la End)
- Photo:Takashi Yashima、Hiroki Obara(PLEK)
- Translation:Tommy Morley
INTERVIEW
ノードストランドの創業者であるキャリー・ノードストランド氏のインタビューをお届けしよう。
キャリー・ノードストランド
(ノードストランド創業者)
伝統に根ざしつつ、新しいものを求めます。
──あなたが楽器の製作を開始する以前に理想としていたベース・モデルは何でしたか?
トーンについて、当時の私はまったくアイディアを持っていませんでしたが、私の最初の“本物の”ベースはアイバニーズのSoundgear 5でした。ベースの製作を始めた頃にはエキゾチックで豪華な木材を用いたベースに興味を持ち、トバイアスは最も理想的でしたね。しかし徐々に私はクラシックなベース・トーンに興味を持つようになり、気づいたらフェンダー・サウンドに惹きつけられていました。私は常にクラシックなトーンに根づきながらも、新しくて私をインスパイアしてくれるようなものを探し求めています。
──ACINONYX は、あなたがピックアップを供給しているベース・ブランドの製品をOEM製造しているインドネシアの最先端工場との関係が深まったことも誕生のきっかけだそうですね?
私が大きく懸念していたことのひとつが、いかに製造を簡易化させるかでした。ボディのエッジはシンプルな丸みを持ち、それは全周囲にわたって一定の形状で、ネック・ポケットにさらなる加工が必要なものではありません。ボディ背面にはキャビティ加工がされておらず、CNCマシンを使う際にボディをひっくり返す必要もありません。ピックガードのデザインもシンプルで、ネックにピタリとくっつける際のトラブルも減りました。電気回路はすべてピックガードにマウントされているため、組み込み作業はとてもやりやすい。これらすべてが組み合わさることで、製造しやすく、かつ手頃な価格になり、それでいてグレイトなトーン、フィーリング、キャラクター、ルックスといった私たち自身も興奮するような特徴も実現しました。
──ショート・スケールのメリットとは?
テンションが小さめになるのでプレイアビリティが向上し、ネックや全体のサイズ感も小さくなるので取り回しやすくなります。使用する木材の量も減り軽量化につながり、長時間のライヴをより楽しめるでしょう。しかし最も大きい効果はトーンですね。伝統的な34インチと比べると、テンションが弱まることでサウンドに太さと厚みが加わり、調整次第ではシンセサイザーのようなユニークなトーンまでをもたらしてくれます。
──あなたは現在、ピックアップの製作家として広く知られていますが、今回のモデルをきっかけに、再びベース本体の製作に取り組むことは考えていますか?
私は2003年にハンドメイドによるオリジナル・デザインのベース製作を開始してキャリアを歩み、広く知られるようになりました。そしてピックアップを作り始め、海外の工場と仕事ができるほどに成長するまでの間は、それがおもな仕事となりました。ピックアップをOEM提供してきた有名ブランドの顧客たちとの関係を築き、それをもとに私たちのベースを作るようになった 工場とも関係を密にしています。今回のベースが この工場で作られるいくつかの楽器の最初のものとなることを願っていますし、今後もっとお求めやすい価格で手に取っていただけるようになるといいなと考えていますよ。そして現在私は、ヘフナーのセミ・ホロウ・モデルに着想を得たアプローチでの製作に取り組んでいて、1年以内に製造を始められたらと思っています。
about PLEK
ノードストランドを始め、ディングウォールやメイワンズ、アレバ・コッポロなど、通を唸らせるブランドを扱う輸入代理店であるスリーク・エリートだが、 一方で国内でもいち早くPLEKを導入したリペア業務でも知られる。ここでは改めてPLEKを紹介していこう。
PLEK(プレック)とは、弦を張ったままのネックとフレットの状態を精密にコンピューターで計測し、1000分の1ミリ単位で修正することができるギター・スキャン修正機のこと。1980年代からドイツにて開発が進められ、2001年に実用化された。スリーク・エリートでは2009年に導入した。スリーク・エリート代表の広瀬創氏は、“PLEKの存在自体はそれ以前から知っていたんですけど、最初は説明を読んでもよくわからなかったし、NAMMショウで見ても「すごそうな機械があるな」と遠巻きに見ていただけでした。でもそのうちに、ジョン・サーが導入したというのを知って、彼と関わりのあるビルダーたちと話をするなかで、より興味を持ったんです。高価なものでしたし、かなり冒険的な投資ではありましたね”と語る。
PLEKは自動でフレットのすり合わせや指板調整、ナット製作、インレイ加工などが可能だが、最大の特徴は、ネックやトラスロッドの状態、フレットの高さや形状、位置などの複数項目を測定し、実際に楽器を演奏しているときにどのような弦振動になっているのかを数値化することができるスキャン機能だ。広瀬氏は、“弦のゲージや弦高、チューニングにはプレイヤーの好みがありますが、その状態においての弦振動の物理的なベストというものはあるわけで、PLEKではそれが正確に判断できます。弾き手の好みに対して最適化を図ることができるということですね”と話し、PLEKにより導き出されたデータを見極め、弾き手の要 望に沿った提案をしているという。ただ単にPLEKを導入すればすべてOKというわけではなく、PLEKの出したデータを読み解くリペアマンの技量が問われるわけだが、スリーク・エリートでは、月に200本程度のPLEKを扱うリペア依頼があり、通算施工本数は3万本を超えるとのこと。その実績により、現在では国内おけるPLEKのアドバイザー立場でもあり、その実力は折り紙付きだと言える。
製品やサービスに関するお問い合わせは、スリーク・エリート(☎︎03-6383-2968/メール:sleekelite@muf.biglobe.ne.jp)まで。◎Official HP
本記事はベース・マガジン2022年8月号の特集記事を転載したものです。
同号では、待望のニュー・アルバム『Unlimited Love』をリリースしたレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー特集のほか、ジャパニーズ・ヘヴィ・ベースの真髄、最新モデルで紐解くファンド・フレットの魅力、やっぱり気になるプロの使用弦、伊藤広規Presents 山下達郎ベースの極意など、さまざまな記事を掲載しています。ぜひチェックしてみてください!