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『星のカービィ 夢の泉の物語』ピアノアルペジオにピックベースで挑戦【クリープハイプ長谷川カオナシのレトロゲーム喫音堂】- 第34回
- 文:長谷川カオナシ
- バナードット絵:石田芙月(株式会社.AC)
毎回レトロゲームの音楽を取り上げ、その魅力をクリープハイプの長谷川カオナシが独自の視点で伝える連載『レトロゲーム喫音堂』。今回は、任天堂ファミコンのアクションゲーム『星のカービィ 夢の泉の物語』(1993年)のBGMの魅力に迫ります。
お世話になっております。
奇数月は喫音堂の月です!
さて前回に引き続き私事で恐縮ですが、筆者・長谷川は11月26日に初のソロ・アルバム『お面の向こうは伽藍堂』をリリースいたしました。
発売中の『ベース・マガジン2025年11月号』の特典付録『ミニ・ベーシスト・ブック vol.1』でも
本作についてしっかりお話していますよ。
ありがとうございます!
さて、『伽藍堂』の4曲目、「恋する千羽鶴」。
こちらは私の親友のsimoyuki(※1)という男がトラックを作ってくれました。
8bit感満載のサウンド、跳ね回るベース。最高の仕上がりです!
聞いたところ、simoyukiの音楽原体験としてこのゲームがあるそうです。
そんなわけで今回はこちらのお話を!
『星のカービィ 夢の泉の物語』
(1993年/任天堂)(※2)

ファミコンのかなり後期のアクションゲーム。名作です。
何が良いかって、カービィが“さまざまな地形を旅してる”感があるところ(※3)。
野原、島、塔、空中、山。
カービィが冒険しているなかで、朝から昼、夕方、夜と時間軸も進行していきます。
表現しているのは空の色。
特にLEVEL6の『オレンジオーシャン』の夕方からLEVEL7『レインボーリゾート』の夜への
移り変わりの美しさは是非体験していただきたいです。
冒険を盛り上げるのは映像の演出もそうですが、やっぱり音楽の力も大きいです。
本作はファミコン後期の作品だけありデータ容量の余裕があったからか、BGMの数も多いです。
今回喫音するのはおもにLEVEL7『レインボーリゾート』のステージで流れるBGM、『夢と寒冷地の面』。
ぽつりぽつりと置かれた音の粒は静かでひんやりとした夜を表わしているかのようです。
イントロは変イ長調(A♭メジャー)。
続いて本編はイ長調(Aメジャー)に転調します。
ここの、「さて本題に入ります」感、とても気持ち良いです。
後半、さらに半音上がって変ロ長調(B♭メジャー)に。
ここの、「もっと言うと」感、聴いてて高揚します。
少し高揚したところで曲はループ。
2セクション目のイ長調の箇所に戻ります。
各セクション、メロディの形状は似ています。
1曲通してメロディが同じような形状を保っているので、
キーが変化しても統一感が維持されているのでしょう。

ベース・ラインに注目してみましょう!
基本的には3拍使って上昇していくアルペジオ。
イ長調の本編は、DM7とE/Dの繰り返しです。
レ ファ♯ ラ レ ファ♯、
レ ミ ソ♯ シ ミ、
レ ファ♯ ラ レ ファ♯、
レ ミ ソ♯ シ ミ、というラインが続きます。
しかし曲が展開する直前。1拍目に動きが生じます。
ド♯ ミ ソ♯ シ ミ、
ファ♯ミ ソ♯ シ ラ♯ ファ♯といった具合です。
ずっと反復してきたなかで急に登場する1拍目の変化。
微々たる違いのように思えますが、
「先の展開を予告する」という役割をこの1音が充分に担っています。
たった1音、たった1拍の違いでも曲に大きな変化をもたらす。
ベースの担う1音の重要さがうかがい知れるようですね。
▼今回の演奏動画▼
今回のフレーズはピアノのようなアルペジオのラインです。
試しに指でピッキングしてみたところ、重労働過ぎて指が腱鞘炎になりそうだったのでやめました。
となるとピック弾きです。しかしハイ・ポジションのスタッカートなので、
弾いた弦をすぐにミュートしなければなりません。
喫音堂#21でお話しした“アップ・ピッキング”で弾きました。
みんな、ピック弾きのミュートってどうやってるんだろう。
“俺はこうしてるよ!”っていう策があったら教えてくださいね。
さて今回も、子供の頃から大好きだったゲームをやってまいりました。
演奏するの、めちゃ難しかったです。
インフォメーション、繰り返します!
“難しいベース・ラインはないのになんか良いアルバム”の
『お面の向こうは伽藍堂』、発売中でーす!
来年はソロ・バンドで東名阪のツアーもやります!
よろしくお願いいたします!
それではまた次回までご機嫌よう。
(※1)
^私の高校の同級生であり、私が人生で最初に入ったバンドのドラマーでもあります。
『組曲「ニコニコ動画」』、『ニコニコ動画流星群』といったメドレーの作者として
その界隈を大いに盛り上げたこともあります。
(※2)
^主な作曲は安藤浩和先生。HAL研究所所属。
石川淳先生とのタッグはカービィシリーズのBGMの太い柱です。
作曲はピアノで設計を行うとのことなのですが、
今回の「夢と寒冷地の面」を聴くと納得が行きます。
(※3)
^同じ理由で『不思議のダンジョン2 風来のシレン』も私は好きです。
ゲームのプレイ画面は見下ろし視点だけなのに、渓谷からスタートして
林、河原、村、峠、山頂、洞窟、谷、湿地、山に空いたダンジョン、
山頂の台地へと“旅してる感”を表現しているところがまたもう……
あーあこれもいつか特集しよう。
◎Profile
はせがわ・かおなし●1987年9月23日生まれ。ロックバンド“クリープハイプ”のベーシスト。小学生でピアノとヴァイオリンを手にし、高校1年でベースを始める。ベースのほかにエレキピアノやビオラなども演奏。クリープハイプは2001年に尾崎世界観(vo,g)を中心に結成。2009年に長谷川、小川幸慈(g)、小泉拓(d)を擁した現編成となる。2012年、メジャー・デビュー。2014年に初の日本武道館2days公演を開催、2018年5月にも約4年ぶりとなる2度目の日本武道館公演“クリープハイプのすべて”を成功させる。2024年11月に、キャリア史上最大規模の会場となるKアリーナ横浜で、現メンバー15周年記念公演“2024年11月16日”を開催。2024年12月に7tnアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』をリリースした。2025年2月から7月にかけて、ホール&ライブハウス15公演・アリーナ4箇所8公演をまわるキャリア史上最大規模となる全国ツアーを開催。2025年11月26日に自身初のソロアルバム『お面の向こうは伽藍堂』をリリースした。
◎Information
長谷川カオナシ
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