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【有料会員】“すべてが素敵”としか言いようがないリトル・シムズ「Free」【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第3回
- Text:Masamichi Torii
- Illustration:Tako Yamamoto
トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースからリズムや低音が光る楽曲をピックアップし、低音やリズムを分析する連載「“新譜とリズムのはなし”」。今回は2025年2月〜2025年4月にリリースされた楽曲から5曲を紹介していきます。(編集部)
第3回
目次
① リトル・シムズ 「Free」
すべてが素敵としか言いようがない。
素敵な人を見かけたとき、思わず目で追ってしまいませんか。ファッションから佇まい、所作まですべてが素敵な人。そういう人物と遭遇したときにうっとりするような感覚をこの曲のベースに抱かずにはいられません。トーンからフレーズからタイミングからすべてが素敵としか言いようがない。“ボクとバンドやってくれませんか!”と迫りたくなります。
ベースが引っ張っているトラックだといって差し支えないでしょう。フレーズのセンスにジェームス・ジェマーソン魂を感じずにはいられません。シックでエレガントなベース・ラインに惚れ惚れします。
ベースを弾いているのは、アレックス・ボンファンティというロンドン在住のミュージシャンです。ジェシー・ウェアやマイケル・キワヌカ、フライング・ロータス、ホセ・ジェイムズらと共演歴を持つ人物とのことです。クレオ・ソル『Mother』(2021年)のレコーディングにも参加しています。
② サプライズ・シェフ「Dangerous」
3月に初来日したインスト・ファンク・バンド
先日、初の来日公演を行ったことも記憶に新しいオーストラリアのインスト・ファンク・バンド、サプライズ・シェフの来るニュー・アルバム『Superb』からの先行カットされた曲です。ハネないハーフタイムのグルーヴがクールです。
まず1拍目のアタマにアクセントを置き、16分音符のウラを連発して緊張感を高めたのち、細かく刻んで頭に戻って脱力する。こうした構成のベース・ラインとなっています。ファンクの躍動感は、緊張と脱力のメリハリによって演出されています。このベース・ラインは、ファンク・ベーシストのお手本のような演奏だといえます。
ベースを弾いているのはメンバーのカール・リンドバーグです。私が観に行った来日公演では、ヘフナー製のヴァイオリン・ベースを弾いていました。ぽよよんとしていて可愛らしいトーンでした。
③ ママラーキー「#1 Best of All Time」
フェイ・ウェブスターのバンドメンバーがプレイ
ブリブリした太いトーンでメカニカルに動き回るベースが耳を引きます。軽やかなスティック捌きで細かいリズムを刻むドラムとのコンビネーションも心地よい。このスピード感に刺激を受けて脳内でアドレナリンが分泌されるのがわかります。古風なゲーム音楽的なバイブもあるように感じます。
メロディックに躍動するベース・ラインは、XTCの元ベーシスト、コリン・モールディングが得意とするところです。具体例としては「Generals and Majors」があります。彼のフレーズには、ポール・マッカートニー譲りのメロディ・センスが宿っています。また、タイプは違いますが、トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマスも「Found a Job」でロボットが踊っているかのようなベースを弾いています。
この曲は、4月11日に老舗インディ・レーベル〈Epitaph〉よりリリースされたママラーキーの最新作『Hex Key』から先行カットされていました。ベースを弾いているのはノア・カーンです。ノアはフェイ・ウェブスターのバンドでもベーシストを務めています。つまり今年のフジロックにやって来るということです。楽しみです。
④ イヴ・ジャーヴィス「One Gripe」
7/4拍子の変拍子をどうアプローチする?
少し変わったリズムにもかかわらず、親しみやすいポップな曲です。甘さと苦みのバランスも絶妙。70年代のラジオ・ヒット的なバイブが漂っています。フリートウッド・マックやドゥービー・ブラザーズ、スティーリー・ダンといったバンドを思い出しました。
7/4拍子のいわゆる変拍子の曲です。とはいえ、トゥールのようにテクニカルな印象は受けません。その理由は、ベースのフレーズがシンプルで、ボトムを安定させるような音選びをしているからでしょう。私の解釈では、このフレーズは3つのブロックで構成されています。上昇フレーズがふたつと4分休符がひとつという構成です。ひとつめの上昇フレーズは“タンタンタン”というオモテ拍の3連発。ふたつめはシンコペーションでオモテとウラがひっくり返った“ンタンタンタ”という上昇フレーズです。そして最後に“ウン”という4分休符が入る。奇数拍子の違和感とシンプリで親しみやすさが同居した巧妙なフレーズだと思います。
ベースを弾いているのはイヴ・ジャーヴィス本人です。「One Gripe」が収録された『All Cylinders』では、作詞作曲から演奏まですべてジャーヴィス一人でこなしたそうです。
⑤ ケンドラ・モリス「In My House」
6/8拍子と4/4拍子が交差する“クロスビート”
アフロ・テイストの3連系のグルーヴ。私の大好物です。ケンドラ・モリス「In My House」は、このタイプのグルーヴを土台にした曲です。このようなグルーヴはクロスビートと呼ばれています。6/8拍子と4/4拍子が交差するビートです。アフリカ産のアフロ・ファンクを聴いているとしばしば遭遇します。3連系の粘り気と16分系の小気味よさが同居する躍動に満ちたリズムだといえます。Jingo「Fever」という曲で度肝を抜かれて以来、私はこのグルーヴの虜です。
ベースを弾いているのは、ニューヨークのアンドリュー・ミラモンティというミュージシャンです。アレンジ全体として、2小節単位のループから構成されています。このベース・ラインの特徴は、前半の小節ではバックビートに休符を入れて、後半ではバックビートに置くところにあります。前半と後半で趣向を変えてメリハリをつけているわけです。この手法は、ベース・ラインを考えるときのヒントになるはずです。
ケンドラ・モリスは〈Colemine〉傘下の〈Karma Chief〉に所属しています。モリスのレーベルメイト、セイ・シー・シーの代表曲「Prism」もクロスビートが使われています。
◎Profile
とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
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