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BUCK-TICK 樋口豊が語る『スブロサ SUBROSA』:決意の先に在る低音の新境地
- Interview:fuyu-showgun
- Photo:Seitaro Tanaka
唯一無二のヴォーカリストであり、絶対的なフロントマン=櫻井敦司のいない新しいBUCK-TICK。デビューから35年以上経った今、新体制で届けられたニュー・アルバム『スブロサ SUBROSA』は、インストゥルメンタルを含む全17曲の大作だ。そこにあるのは気負いではなく、今井寿(g,vo)を軸とした4人による、これまでと変わらぬ飽くなき音楽探究の成果と言えるだろう。
前衛的なサウンドと先鋭的なセンスに溢れ、良い意味で常に我々を裏切り続けてきたBUCK-TICKらしい、想像の斜め上を行く本作。その重低音を支える樋口豊に話を訊いた。
2月に公開された映画『劇場版BUCK-TICK バクチク現象 – New World -』のBlu-ray&DVDが3月12日にリリースされたことを記念し、本誌2月号に掲載された樋口豊のインタビューをWEB版として再掲する。
“デジタルっぽくなるんじゃないか”って
想像する人が多かったみたいなんですよ。
——本作は、新しいBUCK-TICKのスタートとなる一枚ということもあり、方向性など含め、苦労した点もあったのではないかと思います。
曲作りやレコーディングのやり方はこれまでと同じでした。ただ、最終的にやっぱりあっちゃん(櫻井敦司)がいないことを最後の歌入れのときに感じた、というくらいですかね。それくらい本当にレコーディング自体はいつもどおりにできたんです。今井(寿/g,vo)くんが“インストを入れたい”と言っていたり、曲自体も早くから作っていたので、アルバムがどういう形になるのかは見えていました。5人のときから“最終的にこうなる”というものがあるなかでアルバムを作ってきたので、今回もその流れでできました。

——今井さんを中心に、明確にやりたいものがあったわけですね。
そうです。今井くんは“カッコよければ何でもいい”というスタンスで、ルール決めしないから柔軟なんですよ。
——レコーディングを含めた制作自体もスムーズであったと。
ええ。前作『異空 -IZORA-』から、ある程度何曲か形が見えるくらいまで仕上がってから次の曲に取りかかるっていうやり方になったんです。なので、やりやすくなってきたところですね。以前はとりあえず骨組みだけ作っていく、みたいな感じだったので。ちゃんと“こんな曲になっていくんだ”と、理解しながら進めていきました。
——今作は全体的にシーケンスやデジタルのウワモノが多く、生ベースはシンセ・ベースとの絡みが印象的でした。ローの出方を含めた存在感をものすごく感じましたが、音作りで意識されたところはありますか?
基本的には楽曲全体の聴こえ方を重視して、生ベースとしては打ち込みと混ざったときに歪みの部分が目立つようにしたほうがいいかな、くらいですね。シンベのほうが生ベースに合わせにいったりと、1本だとそんなに低くないんですよ。でも混ざると、全体的に見てすごく深みが出るっていう。生ベースだけで思いきり低いところを出そうとすると、いなくなっちゃうんですよ(笑)。だから僕の弾くベース自体はそんなに低いところまでは出してないんですよね。
——なるほど。「Rezisto」はどこまでが生ベースでどこまでがシンベなんだろう、というくらい、絶妙に混ざっていますね。
これは生ベースを先に録っていて、マニピュレーターの横山(和俊)くんが合わせてくれたんです。あらかじめ話をしてかっちり決めるわけじゃないけど、一緒に音を出しながらバランスを見ていくんです。前は僕が弾いたものに全然違うものを後付けしていくことが多かったんですけど、今回はなるべく近い音を、っていうのが多かったですね。そういうところで、横山くんやエンジニアさんと話をしながら進めていきました。
——あくまで楽曲としての聴こえ方、バランスを重視しているわけですね。
ええ、やっぱり音数が多いので。バンド・サウンドの曲もありますけど、特に打ち込み曲は本当に全体の一部みたいな音作りです。
——「プシュケー – PSYCHE -」もシンベとの絡み具合が絶妙です。
これは本当に気を使いました。こうなるっていう完成型が大体見えていたので、あんまり余計なことはしないほうがいいかなっていう。さりげなく歌をうしろから押してますよっていう、そんな感じですかね。
——「paradeno mori」はダンス・ビートの効いた曲ですが、歪み成分を含めてシンベとの重なり方が派手でインパクトがあります。
これは適当に、って言い方は失礼かもしれないけど、ノリでいいかなって。空気感っていうか、バーって、はっちゃけてる感じ。歪んではいるけど、あんまりギスギスしないようにっていうのはありましたね。
——「遊星通信」はハネたリフ主体でグラム・ロックの雰囲気があるナンバーです。
4人になったときに“デジタルっぽくなるんじゃないか”って想像する人が多かったみたいなんですよ。だからこれは“こういう曲もやるよ”っていう位置付けになりました。
——バンドらしいアレンジですよね。「TIKI TIKI BOOM」はトライバルなリズムで引っ張っていくアンサンブルで中毒性が高いです。
これはやっていておもしろかったです。今井くんと僕がふたりで相槌しながら弾いているみたいな。Aメロの“タツツ、タツツ、タツツ……”っていうところも短かったり伸ばしたり、自由に歌っているようにプレイして、楽しかったですね。
——このあたりの曲はピック弾きですね。
はい、このノリを指で出せたらすごいですよね。一時期はほぼ指弾きだけでやっていたんですけど、やっぱりピックにはピックの良さがあるので。エンジニアさんと話して、“どっちがいいだろう?”って2パターンやることもあります。低いところがありつつ、っていう場合は大体指なんですけど、ちょっと疾走感が欲しいときはピックを使います。スローな曲であっても。

——ギターとベースの絡みだとアフロ・ビートの「冥王星で死ね」では、2本ギターのかけ合いとそこに加えてベースがリズムを追いかけるようになっていて、これもおもしろい曲ですね。
これはもっと遊べばよかったかなって思ったりしたんですけど、ライヴでできるからいいかなって。この曲だけ、あとから入ってくるループに関して、どういうものが来るかわからなかったんです。だからあんまり余計なことやっちゃうとダメかなと思いまして。ライヴではかなりおもしろくできるんじゃないかなと思っているんです。アニイ(ヤガミ・トール/d)もノってますしね(笑)。
——ライヴで盛り上がりそうな曲ですね。基本的にループやシーケンスはあらかじめ入っていて、そこを考慮してフレーズを組み立てていく形なんですね。
ええ、一応デモには入ってるので。でもそれが変わっちゃう可能性があるんです。横山くんはデモを忠実に組み立ててくれるんですけど、今井くんが“大胆に変えたい”って言うこともあって。この曲はそれでウワモノがかなり変わったなって思いました。
——ウワモノだと「ガブリエルのラッパ」の退廃的で荘厳な雰囲気が独特です。間奏の中低音のホーン・セクションであるとか。
これはサビの部分が大変でした。ちゃんとミュートしないと音がキーンとしちゃったりして。レコーディングで急遽弾き方を変えました。でもうまくいったと思います。この曲、すごく好きですね。今井くんらしさがよく出ていて、彼らしい雰囲気がある。
・・・
▼ インタビュー後篇に続く ▼
「自分のなかで音の方向性がプレベになってきてるなって思います。」


樋口の『スブロサ SUBROSA』での使用機材や奏法などについても深掘りしたインタビューの全篇は、2025年2月号(Winter)に掲載!
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◎Profile
ひぐち・ゆたか●1967年1月24日生まれ、群馬県出身。BUCK-TICKのベーシストとして1987年にメジャー・デビュー。以降、メンバー・チェンジすることなく、日本のロック・シーンの第一線で活躍し続ける。2023年10月19日にヴォーカリストの櫻井敦司が急逝するも、ギタリストの星野英彦と今井寿がヴォーカルも担う形で活動を継続。2024年12月4日に新作『スブロサ SUBROSA』を発表した。4月からは全国ツアー“BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA”全12公演を開催。さらに10公演の追加公演が決定した。また3月12日には、2月に公開された映画『劇場版BUCK-TICK バクチク現象 – New World -』のBlu-ray&DVDが発売された。
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ベース・マガジン2025年2月号(Winter)