プランのご案内
  • NOTES

    UP

    第9回:ジョン・メイヤー『Continuum』【ジョー・ダートの「レコードが僕に教えてくれたこと」】

    • Interview & Text:Shutaro Tsujimoto
    • Translation:Tommy Morley

    ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のベーシストとして、新世代のベース・ヒーローとして熱視線を浴びるジョー・ダートが、ベーシストとして影響を受けたアルバムを語りおろす本連載(連載一覧はこちら)。第9回目となる今回ジョーがセレクトしたのはジョン・メイヤーの『Continuum』(2006年)、ピノ・パラディーノのベース・プレイについて語ってくれた。

    第9回:ジョン・メイヤー『Continuum』(2006年)

    ベーシストとして重要なのは、すべての細かい単位でのリズムを常に感じながらそのなかで最も重要なビートをプレイし、ほかの人にプレイしてもらいたいところは自分では弾かないことだとピノ・パラディーノから学んだよ。

    ピノ・パラディーノのプレイスタイルについて語るなら、ジョン・メイヤーの『Continuum』が象徴的だね。彼はフリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)と並んで、モダンな音楽シーンで僕にとって欠かせないベーシストのひとりだ。このアルバムを今回選出するにあたって、“もし彼がいなかったら、今の僕のスタイルはなかったかもしれない”と感じたんだ。特に彼が教えてくれた“Less is more”というアプローチは、このアルバムでも顕著に表われている。ピノは音数を極力抑えながらも、実に深いグルーヴを生み出している。

    このアルバムがリリースされた頃、僕はまだ高校生で、スティーヴ・ジョーダン(d)のこともあまり知らなかった。ピノのキャリアについても、80年代にフレットレス・ベースでポップ・ミュージックに貢献していたことや、90年代にネオソウルやヒップホップに影響を与えていたことも理解していなかった。ジョン・メイヤーは、そういったピノのバックグラウンドも含めて彼を招いたんだと思うし、ディアンジェロのアルバム(※ピノはディアンジェロの『Voodoo』に参加)と同じものを作るくらいの気持ちで挑んだんじゃないかな。ジョンはディアンジェロにかなり影響を受けていたからね。

    ピノの演奏はかなり細かい単位での譜割を意識していて、彼は16分音符をすべて感じながら、そのなかで必要な音だけを選び取ってプレイしている。ベーシストとして重要なのは、すべての細かい単位でのリズムを常に感じながらそのなかで最も重要なビートをプレイし、ほかの人にプレイしてもらいたいところは自分では弾かないことだと彼から学んだよ。またピノだけでなく、スティーヴ・ジョーダンのドラム・プレイもスカスカで、それがこのアルバムをパワフルなものにしたのだと思っている。スティーヴはリズムに関するプレイをセーブし、ピノはハーモニーに関する情報をたくさんセーブしてほかのプレイヤーに任せていたんだ。

    ピノのベース・トーンは丸みがあり、ディープで温かみがある。多くのアーティストが彼を求めるのも納得だよ。アデルやハリー・スタイルズといったアーティストとのコラボしていて、彼は今でも人気者だ。ピノがいることで、ほかのプレイヤーも無理に音を埋める必要がなくなり、音楽全体がより豊かになる。彼の自信あふれるプレイからは、“Less is more”の精神を感じることができ、楽器が持つ自然な声を生かすことでグルーヴを支えれば十分だということを実感させてくれるんだ。

    それから、アルバムを聴いていくうちに「I Don’t Trust Myself (With Loving You)」ではウィリー・ウィークスがベースを弾いていることを知り、ふたりの偉大なベーシストが参加していることに驚いたよ。そしてもちろんこのアルバムにはグレイトな曲が詰まっていて、捨て曲が一曲もないんだ。今聴いてもグレイトなアルバムで、ジョン・メイヤーが素晴らしいソングライターであることは言うまでもないよね。

    ジョン・メイヤー・トリオのプレイスタイルも非常に参考になるね。アルバムでは控えめなアプローチが多いけれど、ライヴではもっと派手なプレイが際立つ。特に『Try!』はライブ・アルバムならではのダイナミズムがあって、ピノのタイム感や音を埋めるスキルが完璧に発揮されているんだ。

    また、3ピースのアンサンブルで学んだことは、ジョン・メイヤーの歌とギター・プレイにしっかりと焦点を当てながらも、バンド全体のサウンドを崩さずにサポートするということ。ピノも熱いプレイをするけれど決してほかの要素を邪魔せず、全体のバランスを保っている。こんなことができる人で思い浮かぶのは、フィル・コリンズやジェームズ・テイラーと共演していた頃のリーランド・スカラーや、ピーター・ガブリエルとプレイしていたトニー・レヴィンくらいだよ。

    作品解説

    ジョン・メイヤー
    『Continuum』
    (2006年)

    名人ピノ・パラディーノが支える
    モダン・ブルースの金字塔

     ジョン・メイヤーの最高傑作にして、現代ブルースの金字塔と言える3枚目のスタジオ・アルバム。グラミー賞では“最優秀アルバム賞”を含む3部門にノミネートされ、2部門を受賞している。ベースにピノ・パラディーノ、ドラムにスティーヴ・ジョーダンが参加。ベース的には「I Don’t Trust Myself (With Loving You)」にウィリー・ウィークスが参加し、ピノとのツイン・ベースを聴かせている点にも注目したい。「Gravity」や「Waiting on the World to Change」など、彼のキャリアにおける代表曲を数多く収録している。

    【Profile】
    ジョー・ダート●1991年4月18日、米国ミシガン出身。幼少の頃からアース・ウインド&ファイヤーやタワー・オブ・パワーといったストレートアヘッドなファンク・ミュージックに傾倒する。ベースは7、8歳頃に弾き始め、中学では学校のジャズ・バンドに参加、その後ミシガン音楽大学に入学し、ヴルフペックのメンバーと出会った。2011年に結成されたヴルフペックはロサンゼルスを拠点に活動し、トラディショナルなブラック・ミュージックを現代的にアップデートするミニマル・ファンク・バンド。

    Instagram X